最近では、テレビコマーシャルでも「メタバース」という言葉を耳にするようになり、少しづつ認知されるようになってきた一方で、自分とは関係のないサービスだと思っている人も多いかもしれない。
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だが、メタバース上にクリニックがあると知ったらどうだろうか。手軽にスマホやパソコンで直接医療従事者と話せ、待合室での長い待ち時間とおさらばできるならば、使ってみたい人も多いはずだ。
そのサービスこそ、株式会社comatsunaの代表で精神科専門医の吉岡鉱平さんが開院した「メタバースクリニック」だ。これまでにないメタバースの利活用を開拓した吉岡さんに、その狙いを伺った。
既存のクリニックの課題を解決する
「メタバースクリニック」は医療従事者による医療相談、カウンセリング、座談会などを行うメンタル支援サービスだ。
だがクリニックといえども、投薬や診断、診察といった治療は行われていない。メタバースでの医療行為は法律的に認められないからだ。「治療ではなく、ヘルスケアコミュニティと考えていただければ」と吉岡さんは語る。
その言葉通り、「メタバースクリニック」には、座談会による育児やアルコール依存の悩みを打ち明けたり、ストレッチのような軽い運動や隠れ家サロンといった気軽に参加できるコミュニティが多数ある。
オンラインサービスのため、公式サイトかPeatixからチケットを購入してイベントに参加する仕組みになっているが、操作がわからなくても、公式サイトの問い合わせやTwitterからの連絡でも対応してくれるとのこと。
しかし、なぜ治療行為ができないとわかっていながら、メタバース上で開院する必要があったのか。この背景には、吉岡さんが医師として働いていた現場での違和感があった。
「医師として働くなかで、既存の医療システムでは、診察、診断、治療に比重が置かれ、患者さんの不安の軽減、孤独感の解消などまで手が回らないケースが多かったんです。また、心理的な安全性が保たれ、気軽に本音で話せる場所や、周りの人には言いづらい悩みや聞きづらい内容が気軽に相談出来る場所があればと感じていました」
たしかに、クリニックといえども待合室には多くの患者がおり、医師だけでなく看護師にも話を聞かれることを懸念する人も多いはずだ。それがプライベートな悩みであれば尚更だろう。
この課題を解決するために、実証実験として2022年2月からメタバースやアバターを利用した本サービスを開始した。精神科医以外にも、産婦人科医、総合内科医、麻酔科医といった医療従事者の協力を得て、メンタルヘルスにおけるメタバース活用の知見が蓄積されてきたとのこと。
アバターだからこそできること
では、メタバースを利用することのメリットはどのようなものがあるのだろうか。吉岡さんは大きく6つの利点があると語る。
①遠隔通信性
②アバターコミュニケーション
③アバター自由度
④立体視認性
⑤空間構築性
⑥インタラクティブ性1
ここでは、メンタル支援の観点から重要である、②アバターコミュニケーションと③アバター自由度を深堀りしてみたい。
アバターを利用することには、いくつかのメリットがある。匿名性があることは言うまでもないが、重要なのは「プレゼンス(一緒にいる感覚が得られやすい)」こと、そして「心理的障壁の低減」があるようだ。
研究調査によれば、アバターを利用したほうが発話量が増加することが確認されている2。また、アバターならば髪型や服装、姿勢などを気にする必要がないため、HPS(Highly Sensitive Person)という必要以上に相手の表情などを気にしすぎてしまう人にとっても、快適な空間を作り出すことができる可能性があるとのこと。
だからこそ、アバターという自由に姿かたちを変えられる自由度も重要であると、吉岡さんは指摘する。
「新たな自己表現の手法としての価値、本来の理想的な自分の姿での他者とのコミュニケーション、性的マイノリティにも優しい社会の到来やSDGsとの相性の良さがあります」
アバターの利用となると、VRヘッドセットの導入などの障壁がありそうだが、特別な用意は必要ない。スマホから登録なしでURLをクリックすれば、誰でもダイレクトに参加できるプラットフォームが提供されている。
「スマホや低スペックのパソコンからでもURLひとつでアクセスできますし、より没入感や臨場感、アバターの自由度を求める方はヘッドセットを利用していただくなど、その人のITリテラシーやツールにあった方法で気軽にご参加いただけるようになっております」
そのため、人によっては自分の納得する姿のアバターができるまで作り込んでみたり、あるいはあらゆる機器を用いて、よりリアルな動きを体現したいと望む人も出てくるだろう。
だが、吉岡さんはアバターやメタバースにのめり込む危険性を指摘する。
「我々はメタバースで生活のすべてを完結させようとは考えておりません。あくまでも、現実を補完するもの(現実をより良くするためのツール)という位置づけで、メタバースを捉えています。
ヘッドマウントデバイスは快適性や視力の影響を考えると、長時間の使用はおすすめできないですし、デジタルガジェットへの依存は好ましいものではないと考えています」
そのうえで、吉岡さんは「リアルやオンラインビデオ通話では体験できない感覚や、実現できない新たな価値を提供できる可能性がメタバースにはある」と期待を寄せている。
DXの開業モデルとして
「アバターやメタバースの利用によって、やるべきことが明確になったいまだからこそ、当社はスタートアップという存在になりつつある」と、吉岡さんは振り返る。
今後の方針として、これまで蓄積してきた治療理論を元に「メタバースを連動させた心理療法サービスの展開」があるという。
その一環として、同社の臨床拠点となる医療機関「Baseクリニック赤坂」が2023年1月4日にオープンする。その名の通り、「心と体の土台」と「ITテクノロジーの臨床拠点」という2つの意味が込められている。
「当クリニックは、comatsunaの臨床拠点として機能することで、実際のリアルな医療現場における患者さんのニーズをダイレクトに反映させ、サービスやプロダクトの効果検証や実証実験の場として活用して行くことを予定しています」
クラウド電子カルテ、アプリによる予約から決済までの一元管理システム、オンライン診療など、同社ならではの最新ITテクノロジーを積極的に導入したサービスによって、運営コストの削減はもちろん、患者の長時間の滞在や会計の待ち時間ゼロ、プライバシーや感染リスクの削減が実現できる。
現在、都内では低予算でDXされた開業モデルとして「スマートスモールクリニック」が拡がりをみせている。今後、同社はその知見を蓄積しつつ、外部のスタートアップやベンチャーとのコラボレーションも模索していくとのことだ。
1.詳細は吉岡さんのノートを参照 https://note.com/metacli/n/nb686ab6cd9cc
2.https://www.tcu.ac.jp/news/all/20220412-41945/?fbclid=IwAR19XpoDcmnQCcf03_nDMHJT5aQFvVXh1-PwfR1ozgjBDCHkDThstAAyhfQ
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