成熟したヘンプ(大麻草)の茎や種子から抽出される天然成分CBD(カンナビジオール)を配合したオイルや化粧品の評判がじわじわと広がりつつある中、CBD業界は2023年に大きな転換期を迎える。
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その背景にはこの3月に国会に提出される見込みの、医療大麻の解禁などを盛り込んだ大麻取締法の改正法案がある。
もともと日本で流通するCBD商品は成分などを調整した合法なものではあるが、医療大麻が前向きに検討されることで、業界によりポジティブなイメージがもたらされ、製品や効能への認知度が高まり市場の活性化が予測される。
そんな中「2030年までに、全ての一般家庭にCBD製品を塩やにんにくと同じレベルで流通させる」という大胆なビジョンを掲げる企業がある。デンマーク発の国際的CBDブランド「エンドカ(ENDOCA)」だ。
その取り組みについてエンドカの日本子会社であるエンドカジャパンの経営企画部 執行責任者の大久保淳氏にお話をうかがった。
2027年には1000億円市場へ。CBD製品の潜在ニーズとは?
CBDは体内にある身体機能を調節する「エンドカンナビノイドシステム」を活性化させ、“寝ること、食べること、リラックスすること、そして忘れること”をサポートすると言われている。オイルであれば舌下へ垂らし摂取することで、心身をいわゆる「整った状態」に導けるという。
「自律神経の乱れや不眠、ちょっとした肌荒れなど『病院に行くまででもない体の不調』を感じる人がコロナ禍を経て増えており、『整った状態』へのニーズが高まっています。また女性のPMSや更年期のケアに取り入れる人も増え、そうした人たちのSNSや口コミでCBDが広がりつつあります」
「チル(くつろぐ、まったりする)」文化もあいまって若年層を中心に注目を集めるCBDではあるが、日本全体における認知度は14%ほどだという。今CBDを手に取る人たちはアーリーアダブター(情報に敏感な人たち)にすぎない。
逆に言えば、これから大きな成長の可能性を秘めており、国際的な市場調査会社・ユーロモニターインターナショナルが予測する日本における合法CBDの市場は、2023年には280億円、2027年には1030億円にもなるという[1]。
顧客の7割は女性。エンドカだけの共感できるストーリー
そんなCBD黎明期の日本において、エンドカはすでに独自のポジションを確立している。アーリーアダプターの多くが若年層であるのに対し、エンドカの購入層で一番多いのが40代。続いて30代と50代が同じくらいの割合で続く。さらに特筆したいのが顧客の7割が女性であることだ。
どうしてエンドカはミドル世代の女性を引きつけるのか。そのブランドストーリーを紐解いていこう。
エンドカは2019年に日本に本格進出。2021年には世界初の旗艦店を鎌倉に設け、2022年2月には伊勢丹新宿店のメンズ館1Fにショップをオープンさせた。
生活の質を重視する人が集まる鎌倉、流行の発信基地である伊勢丹新宿店への出店にはそれ相応の商品の品質はもちろん、ブランドへの共感も重要だ。
「エンドカはデンマークの植物化学者であるヘンリー・ヴィンセンティによって設立された世界初の国際的CBDブランドで“From seeds to shelf – 種から店頭まで”をポリシーに徹底した安全管理と最高の品質を担保し、その製造過程では100%オーガニックとサステナブルにこだわっています」
同社は医療目的に改良された1000種類以上のヘンプの種(非遺伝子組み換え)を研究目的で貯蔵。毎年適切な種を選び、北欧のオーガニック認定された土地で無農薬で栽培している。
また100%クリーン技術を宣言し、農耕機は廃油を利用、CBDオイルの抽出の際はCO2(二酸化炭素)を活用し薬品を使わない。余った資材は電気や暖房用のバイオガスに変換させるという徹底っぷりだ。
さらにソーシャルグッドの活動にも積極的に参加している。
「様々な日本での活動の一つに『保護犬サポート』があります。犬たちは過酷な環境に育っていたり、虐待を受けたり、ストレスフルな状態で保護されます。そんなストレスの緩和のサポートを目的に、動物病院がCBD製品を利用することもあります」
商品選定において背景にあるストーリーが重視される昨今、北欧ブランドのエンドカはすでに「オーガニック」「SDGs」「ソーシャルグッド」の完璧なキーワードを備えている。また日本でも500ほどのクリニックがエンドカの商品を選んでいるという実績もある。
体に入れるものだから医療品レベルでの安全性は大前提。そこにキャリアを積んだ、感度の高いミドル世代の女性が共感する付加価値があることで、高価格帯であるにもかかわらずエンドカが選ばれているのではないだろうか。
法改正が議論される23年以降が大きなチャンスとなる
日本の麻文化は古く縄文時代に遡り、それ以降、神事や宮中行事に用いられるなど文化として根付いている。それにもかかわらず、近年では精神活性作用のある大麻成分・THCがフィーチャーされ、それゆえCBDも色眼鏡で見られることも多いという。
「現在、日本市場において一番力を入れていると言っても過言でないのが、様々な活動を通しての新しいCBDの価値提供やイメージ作りです。その背中を強力に押してくれるのが2023年の3月から議論が開始される法改正です」
安全で合法的なCBDではあるが「大麻取締法」がイメージされることで、確かなエビデンスのある麻の健康効果についても、どこか声高に言えない雰囲気があるという。それがクリアになることで、上場企業が取り組みを始めたり、インフルエンサーが宣伝をしたりと、CBDをとりまく環境や意識が大きく変わっていくのではないかと大久保氏は話す。
「そうしたときに本来CBDの効果を必要とする『病院に行くまででもない体の不調』を感じる人たちに商品を届けるチャンスになりますし、イメージがクリアになって多くの人々が動くことで、投資をしたり協業をしたり、我々だけではできない商品開発も可能になると思います」
CBDメーカーから総合ウエルネスブランドへ
現在、エンドカ本社では南米などに生息する植物の根を煮出したお茶「アヤワスカ」の研究が行われている。アヤワスカを科学的、医学的に分析し、健康分野での商品化を目指しているのだという。
「すでにエンドカはCBDメーカーから総合ウェルネスブランドへ舵を切っています。“Unlocking Secrets of Nature(自然の神秘を解き明かす)”を掲げ、大自然に存在する様々な天然成分を研究し、新たな商品を開発していきます」
ヘンプにしろアヤワスカにしろ、人々の認識を変えるような大きなチャレンジをしながらも、より良く生きるために身近な意識改革も提案している。
「今までの時代であれば問題解決に挑むとき、栄養ドリンクやエナジードリンクを飲んでテンションを上げていくアプローチでしたよね。でもエンドカはリラックスすることで解決しよう! という真逆のアプローチを提案しているんです」
確かに法が変わり、個々の意識が変わり、リラックスして問題解決を図るアプローチのニーズが増えれば、コンビニの栄養ドリンクの棚にCBD製品が並ぶ可能性もあるかもしれない。そうなれば「CBD製品が塩やにんにくと同じレベルで流通する」未来も現実味を帯びてくる。
[1]ユーロモニターインターナショナル社発表「Cannabis in Japan(日本のカンナビス市場)」(2022年11月発表)より
Text by Junichi Suzuki(ALTANA inc.)
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