Crockett & Jones タッセルローファー
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F:続いては「クロケット&ジョーンズ(Crockett & Jones)」のタッセルローファーです。最近は男性のローファー姿を街中でよく見かけるようになりましたよね。
栗野:そうですね。ただタッセル付きのローファーはまだみんな手を出していないな、という理由からタッセル付きを購入しました(笑)。
F:クロケット&ジョーンズを選んだのはなぜですか?
栗野:親しい友人が「ジョンロブ(JOHN LOBB)」のデザイナーだった時期に彼女のテイストが好きでよく買っていたんです。でも、彼女がジョンロブを辞めてからは距離感を感じてしまって。そうこうしているうちに、最近またよく革靴を履くようになった。「革靴はたくさん持っているけど、茶色いタッセルシューズは持っていないな」と思って探していたんです。様々なものを見比べている中で、クロケットは同価格帯の中で一番よくできていたから購入しました。
F:最近になりまた革靴を履くようになった、とのことですがどのような心境の変化があったんでしょうか?
栗野:「ちゃんとしたい」みたいな気持ちがあるのかも。
F:確かに今回のラインナップもジャケットが多かったですね。
栗野:前以上にジャケットを着ることが増えたし、ネクタイを締めることが増えました。スニーカーを履いているから「ちゃんとしていない」という意味ではないのですが、革靴にジャケットを羽織ってネクタイを締めるようなトラッドなスタイリングが気持ち良いんです。
F:それは、栗野さんがイギリス好きであるということも大きい?
栗野:どちらかと言えば、久々に渡英したことも大きい。というのも、ロンドンには、ジャーミンストリートやバーリントンアーケードなど、所謂老舗街が点在しているのですが、一時期は本当に寂れてしまっていた。ましてやコロナ禍もあり、人通りが少なかった。でも3年ぶりに訪れたら、すごく混んでいたんです。しかも、お店の人に話を聞いたら、若いお客様が増えている、と。
F:どういった背景があるんでしょうか?
栗野:一つは、コロナ禍で服を着る回数が減った分だけ、良いものを持っていた方が意味ある、ということに気がついたこと。もう一つは、ラグジュアリーブランドがあまりにも高価なものになってしまって、かつ「デザイン的に来年は着られないかな…」と思うようなものがかなり多いことが挙げられると思います。
栗野:話は少し横道に逸れるのですが、そういった空気感をパリでは感じることがなかった。おそらくパリにはジャーミンストリートもバーリントンアーケードもないから。つまり、目に見える「トラッドって素敵だな」と実感できる回数が少ない。例えば、東京でも浅草は「江戸情緒だな」とか、神田は「古本屋が多く軒を連ねていて風情があるな」とか目視で実感できる街並みが残っていて、だからこそ今も残り続けていると思うんです。
F:フランスはそういったパラダイムシフトを感じづらい街並みである、と。
栗野:パラダイムシフトが起きつつあるとしても、なかなか目視できないから、その流れに乗り切らないんじゃないかな。老舗メーカーやトラッド感が残るためのコードってあるんだな、と思いましたね。
New Balance 550
F:栗野さんと言えば、ジャケットにニューバランスを合わせるスタイリングでお馴染みです。
栗野:僕はモデルにこだわりはないんですけど、これは一目惚れ。本来はバスケットシューズらしいのですが、僕みたいにジャケットやスラックスに合わせたいという人にはおすすめできます。
F:どのようにスラックとの相性が良いのでしょうか?
栗野:割と細みで、ボテッとしていない。それにオールレザーなんです。オールレザーでオールホワイト、僕が最も便利だなと思うものです。
F:どちらで購入されたんですか?
栗野:ロンドンのドーバー ストリート マーケット(DOVER STREET MARKET)です。ユナイテッドアローズ(UNITED ARROWS)にもあるか一応調べたのですが、全くの同型は取り扱いがなくて。
F:日本のニューバランス人気は揺るぎないものがありますが、海外ではニューバランス=少しダサいスニーカーというイメージが根強いのかな、と思っていました。
栗野:ダサかっ“た”ですね。この間、クリエイティブディレクターになった、テディ・サンティス(Teddy Santis)に変わってから、アメリカでも日本並みの注目を集めています。テディ・サンティスが、どういう人物かというと、「エメ レオン ドレ(Aimé Leon Dore)」というブランドのディレクターでもある。「キス(Kith)」よりももう少しトラッド的で僕は好きですね。
F:ちなみに栗野さんは、ニューバランス以外のスニーカーは買われないんですか?
栗野:たとえニューバランスがトレンドじゃなくなったとしても、ニューバランスを履き続けると思います。自分の足に一番合ってるし、流行っているから買うというのは自分のポリシーに合わないので。
F:なるほど。今年は他にニューバランスのモデルで購入したものはありますか?
栗野:「57/40」シリーズは3足くらい買いました。
レコード「布施明/When Akira Fuse Meets Burt Bacharack」
栗野:これは、歌手の布施明さんが渡米して、カーペンターズ(Carpenters)などを輩出した名門レコードレーベル「A&M」のスタジオで録音したものです。1972年にこのプロジェクトが行われていたことを含めて、歌唱力や完成度、本当に素晴らしい一枚です。タイトルにもなっているように、布施さんによるバート・バカラックの12曲がバカラック本人の監修で収録されています。
栗野:僕は、小学校5年生くらいの時からレコードを買っていて、かれこれ60年近くレコードを集めているのですが、このレコードの存在を知らなかったんです。もちろん、バカラックは知っていたけど、布施明さんがカバーアルバムを出していることを知らなかったし、ましてやわざわざアメリカまで行って、バカラック本人に会い、A&Mスタジオで録っているなんて。本当に驚きました。
F:そんな素敵な出会いはどこのレコードショップで?
栗野:代々木上原の「アダルトオリエンテッドレコード(Adult Oriented Records)」です。
F:ジュエリーブランド「ユージュ(YUGE)」のデザイナー弓削匠さんが2018年にオープンされたレコード屋さんです。
栗野:弓削くんが音楽好きなことも知っていたし、一緒にDJをやったことがあったので、彼がレコード屋さんを始めた、と聞いた時は、きっと趣味の良いレコードを揃えているだろうな、と思っていたんです。その後、最近お店に遊びに行った時に、突然弓削くんが店内に流した音楽がこれだった。
F:いくらで購入されたんでしょうか?
栗野:3500円です。思っているより安いと思われるかも知れないのですが、僕は中古レコードの場合、2000円以上のものはなるべく買わないと決めているんです。だから、自分自身の中ではかなり異例の金額での購入です。でも、このレコードが他では買えないであろうと推測して買いました。
F:購入するレコードに希少性は求めない?
栗野:まったく求めませんね。レコード好きの中でも、オリジナル盤じゃないと嫌がる人や、帯付きじゃないと欲しくないという人もいると思いますが、僕はもっと単純に「その音が聴きたいから」という理由で買っています。つまり、投資対象じゃないんです。だから絶対に売らない。
F:小学校5年生から現在までに、一度も手放さずにレコードを集めていたらすごいコレクション枚数になっていそうですね。
栗野:おそらく、今2万枚くらいあります。前の家は、レコードの重さで床が凹んでしまったんです。だから、今の家を建てる時に根太を倍の厚さにしたんですけど、最近ふと気がついたら床が全体的に傾いている気がして。もう悲鳴を上げているのかもしれない(笑)。
F:ちなみに、栗野さんが初めて買ったレコードは?
栗野:自分のお金で初めて買ったのは、アストロノーツ (The Astronauts)の「パイプライン」です。
F:栗野さんは不定期でDJも行っていますよね。いつ頃からDJプレイをするようになったんですか?
栗野:もう10年以上前ですね。ビームスのショップスタッフをやっていた時から長年友人である足立君という人がいて。彼は日本音楽選曲家協会の初期メンバーでもあるのですが、「栗野さん一緒にDJやりませんか?」と声をかけてくれたのがきっかけです。
F:栗野さんのプレイスタイルはアナログDJ。
栗野:溝が読めなかったらDJできないですもん。
F:単純明快な理由ですね(笑)。
栗野:僕はあまり、BPMも変えないから。
「Life Between Islands」のレコードと図録
栗野:これは、ロンドンの美術館テート・モダン(Tate Modern)で、2021年12月から2022年の5月頃まで開催されていた企画展「Life Between Islands」の図録とそれに連動したアナログ盤です。企画展の内容としては、イギリスにおけるジャマイカの影響、あるいは、ジャマイカやカリブ海地域におけるイギリスの影響です。
F:実際に美術館に足を運ばれて購入したんですか?
栗野:それが観に行けなくて。でも、僕はテート・モダンの会員なので、会報誌が年に4回送られてくるんです。その会報誌でこの企画展の存在を知り、図録を取り寄せました。図録とレコードはセット販売されていたわけではないので、レコードは国内で購入しました。
F:アナログ盤はどのような内容なのでしょうか?
栗野:「サウンド・オブ・ユニバース」というレコード屋さんのオリジナルレーベルが、1973年から2006年までのレゲエ、ジャングル、ジャズ・ファンク、ラバーズロックなど様々なジャンルのサウンドシステム・トラックを3枚組の大ボリュームで紹介しています。「サウンドシステムカルチャー」とレコードにも書いてありますが、サウンドシステムというのも、ジャマイカから生まれたもので、野外ダンスパーティを提供する移動式の音響設備や、それを提供する集団を意味します。ジャマイカの音楽史や、レゲエにおいては欠かすことのできない要素ですね。
F:先ほどイギリスとロンドンのお互いの影響について、をテーマにした企画展とおっしゃっていましたが、そこに音楽はどのように絡んでくるのでしょうか?
栗野:ジャミロクワイ(Jamiroquai)や、ポール・ウェラー(Paul Weller)など、イギリス出身のミュージシャンは非常にブラックミュージックを意識しています。それは、イギリスに移り住んできたブラックたちが、差別や敵意に対する反骨精神として音楽を機能させてきた歴史もあるからでしょう。だから、イギリスの音楽シーンを語るには、ブラックミュージックの存在を無視することはできない。
F:「今年買ってよかったもの」という“今年”という観点で、この図録やレコードを挙げていただいたのには何か意味があるのでしょうか?
栗野:コロナ禍とほぼ時を同じくして、「Black Lives Matter(BLM)」が盛り上がりを見せましたよね。あれは、権利に関する問題提起だったと思うのですが、本当に彼らのことをちゃんと見るのであれば、権利だけではなく、背景にあるカルチャーそのものをリスペクトする必要があると個人的には考えています。
F:イギリスにはブラックカルチャーをリスペクトする土壌が整っている?
栗野:あくまでも私見ですが、例えば、ビートルズやローリングストーンズが、ブラックミュージックから多大なる影響を受けていることが知られています。それは真似をしているうちに、彼らのカルチャーそのものを理解し、リスペクトが深まったんだろうな、と。「黒人の真似をする」ということから彼らのカルチャーの理解は始まるんじゃないでしょうか。
F:カルチャーの理解が深まらない限り、BLMは解決しない?
栗野:あるいは「リベンジを果たす」という構図になりますよね。カニエ・ウェストことYeみたいなブラックセレブリティはそう見えます。あれはあれで一つの見え方であり、方法なのでしょうが泡沫的な効力しかないのでは?と考えてしまいます。
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