ブロックチェーンを活用し、「電気の生産者の見える化」などに取り組んできた株式会社UPDATER。同社の新規事業として注目を集めているのが、そのブロックチェーン技術を「モノの価値やお金の取引の見える化」に応用したSDGsプラットフォーム事業「TADORi」だ。
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今年の10月には、商品が完成するまでのストーリーやお金の支払い先をたどることができる「タドれるシリーズ」第5弾として、モンゴル産の「タドれるカシミヤ」を発売した。今回の取り組みでは、同社のブロックチェーンがどのように使われ、何が実現できたのだろうか。
そこで今回、同社の「TADORi」事業の責任者を務める野澤貴子さんに「タドれるカシミヤ」を中心に、事業の内容と、今後の展開などについて聞いた。
「顔の見えるライフスタイル」を提案する
はじめに、SDGsプラットフォーム事業「TADORi」は、2021年7月から始まった新規事業だが、どのような目的のもとにスタートしたのだろうか。
「当社は、電力事業者の中では、初めてブロックチェーンを活用した企業なのですが、そこで電力のトレーサビリティーを実現しました。そこから、電力以外でも『顔の見えるライフスタイル』を提案したいと考え、商品がどこでどのように作られ、誰が何に支払っているのか、透明化することに取り組もうと始まったのが『TADORi』です」
「TADORi」は、身の回りの全部が辿れる、という意味で名付けられた。その中でも、特に身近でマーケットが大きい衣服や食の関わりが多くなっており、今回はモンゴル産のカシミヤを手掛けることになった。
「カシミヤを選んだのは、モンゴル出身で当社のインターンであるアマルバヤル・アリウンジャルガルさんの『カシミヤが適正な価格で取引されていない』という問題意識がきっかけです。元々は、モンゴル大使館主催のピッチで、プレゼンをしていたのを私も聞いていまして、『うちの会社でやれるんじゃないか』という話になったんです。
さらに、彼女が今回協業したSustainable・Mongolでアルバイトもしていたことから、社長にお会いする機会を得ました。すると、社会起業家のようなビジョナリーな方で、話がとんとん拍子に進み、カシミヤ製品の製造、販売が決まりました」
また今回の成果として、Sustainable・Mongolの協力を得たことで、生産者である遊牧民の名前から、原料、整毛、紡績、製造、輸送、販売コストまで明らかにすることができた。
これまでの「タドれるシリーズ」では、商品の販売価格に含まれた支援先への応援金を辿ることのみに限定されており、ブロックチェーンの活用は限定的だったのだ。
「お客さんや周囲の反響として、遊牧民の方の名前まで見えてくるところは、すごくいいねという声がありました。また、今回初めて生産者まで明らかになったので、原料の証明や工場の生産証明にもなりますし、仮に品質に何か不具合があった場合も、ブロックチェーンでどこが原因か辿ることができます。
アパレルブランドからも、中長期的に一緒にやりたいですという声をいただきました。現状ですと、企業によって原料の調達に関しては商社などが挟まれていることから、ラストワンマイルまで辿れないという事情があるんです」
同社のブロックチェーンが活用され、好意的な反響が寄せられた一方で、課題も見つかったという。
「今回のカシミヤはサンプルケースとして作ったので、ご縁があったSustainable・Mongolの社長が、遊牧民の方から原料の毛を買い付けて、整毛工場や貿績工場、縫製工場やニット工場に工賃を払うという形で、ハブになって全部発注をして下さいました。カシミヤのどのアイテムを何枚いくらで発注するという明細も、全部細かくもらっているんです。
その上で、私たちが当社のブロックチェーンエンジニアに頼んで、それぞれのウォレットを作成して、それぞれの原価を書き込んでもらうという結構アナログな取り組みでした。このやり方をする以上、私たちもこの目で確かめる必要があると考え、現地へ視察に行きました。
今後はファッション業界をはじめ、さまざまな業界と協業するために、こうしたアナログな形ではなく、原料や製品のタグについたQRコードを読み込むと全ての記録がブロックチェーンに書き込まれるようなシステムを開発し、自社のプロダクトとして持とうと思っています」
ブロックチェーンをポジティブな姿勢で活用したい
その意味で、今回は、Sustainable・Mongolとの信頼関係のもとでプロジェクトが実現したが、今後はブロックチェーンで取引を透明化する意味について、技術を提供する側とブランド側双方の理解が必要になるだろう。
「すごく使い勝手の良いプロダクトをリリースしたから、皆さんが使ってくれるわけではないと思います。導入にあたっては、お互いの透明性も求められます。その上で、製品の透明性が高い方がZ世代を含めた方々の購買意欲が高まることを提示するなど、ポジティブな機運を作る必要があると感じています。
ブロックチェーンは、違反者に罰則を与えるなど、ネガティブな使い方も可能です。ただ、当社は元々「顔の見える電力」ということで、発電事業者の方々にもちゃんと顔があって、電気の生産者がいるところに消費者を繋げて『電気を大事にしよう』とか『どうせ買うならこっちがいいよね』と提示してきた会社です、だから、あくまでポジティブな提案をしていきたいと思っています。
例えば、エシカルなもの作りをしている人たちにはトークンがたまったり、透明性が企業の信用調査の1つの材料になったりする世界観が作れると、真面目にやっている人や会社がいいよねという評価に繋がっていくと思うので、それがブロックチェーンで実現できるといいなと思っています。
そのためにも、業界の皆さんと風向きを変えるような取り組みをしたいですね。リーディングカンパニーの何社かとコンソーシアムを組むのが理想です」
ブロックチェーンの活用には課題も多いが、いくつもの可能性を感じさせてくれる。最後に、今後の「TADORi」の事業をどのように展開していきたいのかについて聞いた。
「例えば、トレーサビリティ証明をしたこだわりの食材、サーキュラー・エコノミーの文脈でいうと、ペットボトルのリサイクルが証明されたサステナブルな商品の開発が、どれくらい消費者に響くのを、試してみたいですね。
合わせて、実際のモノのトレースができることで製品単位のCO2排出量の算出にも寄与できるはずなので、電力事業とも連携し脱炭素に貢献できるソリューションをつくっていきたいと考えています。
今後、こうした身の回りのあらゆる物事を透明化することに取り組んだ結果として、電力事業と同じように『新しい選択肢』を、お客さんにいくつも提示できるようになったら嬉しいなと思っています」
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