エアークローゼット 天沼聰代表取締役CEO
Image by: FASHIONSNAP
ファッションレンタルサービス「エアークローゼット(airCloset)」を手掛けるエアークローゼットが7月29日にグロース市場への新規上場が承認された。2014年の設立から約8年、ファッションレンタルサービスの先駆け的存在として市場を牽引してきたが、「ようやく一つのスタートラインに立てた」と話すエアークローゼット 天沼聰 代表取締役CEOはファッションシェアリング市場の未来をどのように見ているのか?エアークローゼットがファッション業界にもたらした新たな体験価値と今後のヴィジョンとは。
ファッションレンタル市場を牽引
ADVERTISING
エアークローゼットは、天沼代表が前身となるノイエジークを2014年7月に設立。2015年2月に月額制ファッションレンタルサービスのエアークローゼットの提供を開始し、同年6月にエアークローゼットに商号を変更した。2017年10月にはパーソナルスタイリングECプラットフォーム「pickss」(現提案型ファッションEC「airCloset Fitting」)をスタート。2020年4月にメーカー公認月額制レンタルモール「airCloset Mall」、同年6月に遠隔パーソナルスタイリングサービス「airCloset Talk」の提供を開始した。2022年にはレンタルサービス内に「ブランドセレクト」オプションを新設したほか、オンラインスタイリングで蓄積したデータを活用した自社開発の「AIパーソナライズショップ機能」を追加するなど事業拡大を進めている。
このほか、今年9月にはRFIDを活⽤した独⾃の物流システムに関する特許を取得したと発表。サブスクリプション・シェアリングサービスを開始したい企業が、基盤作りから始めなくともサービスが開始できるよう、これまで構築してきた循環型物流プラットフォームを外部へ提供していく予定で、循環型物流プラットフォームの外部提供を通して、市場を拡⼤させていきたい考えだ。
エアークローゼットの利用者は20〜60代と幅広く、中心は30~40代女性。ユーザー属性では、仕事と子育の両立で日々忙しく過ごす女性の利用が目立つという。売上高は右肩上がりで伸長しており、2021年6月期の売上高は28億8700万円、売上総利益は14億5500万円。2022年6月期(2021年7月1日〜2022年6月30日)の業績は、売上高が33億9000万円(前期比17.4%増)、営業損益は5100万円の赤字(前期は3800万円の黒字)、四半期純損益は3億7800万円の赤字(前期は3億4400万円の赤字)だった。2022年6月末で無料会員80万人、月額会員数は3万2千人で、コロナ禍に入ってからは同社の想定よりも成長スピードは鈍化しているものの伸長傾向にあるという。
また、同社のサブスクリプションサービスを半年超継続している「ロイヤル会員」の比率は58%にのぼる(2022年6月時点)。働く女性の利用者が多いことからオフィスカジュアル向けのアイテムを豊富に取り揃えているが、コロナ禍で在宅時間が増えたことを背景にカジュアルウェアの比率を増やすなど顧客のニーズを柔軟に反映している。
メンズファッション参入へ
同社は女性へのサービス認知拡大を図るほか、メンズ等の未開拓領域への参入といった事業領域の拡大、物流プラットフォームの横展開などに取り組み黒字化を目指す。「認知度調査をすると、エアークローゼットを知っているのは4%程度で、90%以上の人が我々を知らないというのが現状。サービス自体を引き続き成長させていくにあたっては、まずは知ってもらうことが重要」とし、今後も働く30〜40代女性を中心にデジタル広告やテレビCM等のマス広告、インフルエンサーマーケティングなどを強化し、認知向上を図っていくという。
将来的に参入予定のメンズ領域においては、30〜40代男性に向けたビジネス向けのアイテムを取り扱う計画。スタイリストが最適なジャケットやシャツなどを取り入れ、ビジネスカジュアルなコーディネートを提案する。なお、キッズ、シニア、マタニティといったカテゴリーへの参入に関しては、視野に入れてはいるものの現時点では展開の予定はないという。「我々のミッションにおいて、いかにユーザーの時間価値を高められるかといったところに重きを置いている。『自分に似合う服を探しに行きたいけど、その時間が取れない』といった忙しい方々が、我々の今のお客様。まだまだ待ってくださっている方がいらっしゃるので、まずはそちらを優先していきたい」(天沼氏)。
体育会系のイメージ払拭?スタイリストの"働き方改革"
エアークローゼットには専門スキルを備えたスタイリスト約300人が在籍している。一般的なスタイリストの業務は、現場で対面でのコミュニケーションが必要なほか、衣装の入ったバッグを持ち運んで移動するなど力仕事も多い。そんな中、同社では所属スタイリストのライフステージにも柔軟に対応できる体制が整えられている。
「子育てをしながら弊社で活躍されているプロのスタイリストさんが挨拶に来てくれたことがあったんですが、『この度地方に移住することにしました』と子育てに最適な場所へと拠点を移される決断をされた方がいらっしゃって。エアークローゼットという場所を選ばない働き方を提供してきたからこそ実現できたことだなと」(天沼氏)。妊娠・出産・子育てといったライフステージが変化してもスタイリストの仕事を続けることができ、時間や場所の制約がない働きやすさに魅力を感じると、スタイリストからはキャリアについてポジティブな声が多く寄せられているという。
そのほかにも、新たなキャリアとしてアパレル販売員から同社のスタイリストへと転身するケースもあるという。「販売員として働いている方の中には、コロナ禍での店舗の閉鎖・休業等の影響を受けている方は多くいらっしゃいます。そこでキャリアチェンジとして、スタイリストに応募していただく方も増えてきていますね。場所も時間も選ばない、副業でも専業でも自分の働き方によって選べる。選択肢の広さ、自由度の高さは今の時代の働き方にフィットしているのでは」(天沼氏)。
このほか、エアークローゼットでは文化服装学院やモード学園で講義を実施するなど、オンライン上でのスタイリング業務に関するノウハウの共有や、スタイリストの育成にも力を入れている。今後もスタイリストの人数は拡充していく方針で、社内の教育プログラムや研修体制もさらに強化していくという。
アジア市場のポテンシャル
また、エアークローゼットは将来的には日本国内だけではなく、アジア市場への進出も視野に入れている。具体的な時期については未定としているが、東南アジアを中心に展開していく計画だという。「アジアの中でも東南アジアの国々は、日本のファッションやトレンドに関心が高い方が多い。そうした文化的背景をベースに、シェアリングの概念を各国で根付かせていきたい。ただし、モノだけを現地に流通させるのではなく、文化ごと進出させなければいけないと考えている。スタイリングや今のトレンドといったカルチャー的な部分を一緒に現地に届けられるようなことができたら」(天沼氏)。
レンタルサービス事業は、物流やクリーニング工程における環境、倉庫機能など現地の課題をクリアさせながら、進出時期を精査していくという。オンライン上でスタイリストが行うパーソナルスタイリングサービスにおいては、翻訳機能等の技術的な部分のサービスの整備を行っていく必要がある。所属スタイリストたちは、日本国内で生活しながら、将来的には海外をフィールドにスタイリング業務を行うことが可能となる。海外進出の見通しについて天沼社長は「例えば、現地のEコマースの企業と組んで、パーソナルスタイリングサービスだけ先行して展開するなど、構想を練っている段階。日本企業が進出するとなると様々な制約や条件があるため、各国の制約を鑑みてどのサービスから海外でローンチさせるか決めていく」と話す。
文化として、産業として成長させていく
コロナ禍で先行きが不透明な状況が続いている中、物流・生産の遅れがアパレル業界全体に依然影を落としている。同社のサービスへの影響については、商材の入荷スケジュールの変更等が一部発生した程度とし、「サービスの提供に関わる大きなネガティブインパクトは無い」という。「コロナとの付き合い方は明らかに変わってきており、消費者の外出に対する心のハードルも下がってきている印象。外出に対しては、以前のような目に見えない恐怖と戦っているものとは異なり、どのように共存していくべきなのか"ウィズコロナ"のフェーズに来ている。アパレル業界にとっても悲観する状況ではなくなってきていると感じている」(天沼氏)。
日本国内のファッションサブスクリプションサービスは、ストライプインターナショナルが運営する「メチャカリ」をはじめ、「エディストクローゼット(EDIST. CLOSET)」など複数の企業が展開。近年では、2021年4月に本格ローンチした⼤丸松坂屋百貨店の「アナザーアドレス(AnotherADdress)」が、百貨店業界初のファッションサブスク事業を立ち上げた。競合サービスは既に存在しているものの、売上規模や会員数はエアークローゼットが圧倒的なシェアを誇っており、同社一強の状況が続いている。現在のファッションシェアリング市場を天沼氏はどのように見ているのか。
「我々エアークローゼットが手掛けているサービスは、まだまだ知らない人も多い新しい文化。例えば、自動車業界では無人自動運転技術がありますが、皆がすぐに自分の車を買い替え始めるかというと、懐疑的になり思い留まる人もいるはず。これから我々のサービスがどのように文化として醸成させていくことができるのか、ようやくスタートラインに立てたというのが今。社会とお客様に向き合ったサービス改善を真摯に徹底し続け、エアークローゼットが見ているヴィジョンをしっかりと伝えていく。まだまだサービスも発展途上。明日明後日と日々ユーザー視点に立ってサービスをより良いものに改善し続けていく」(天沼氏)。
■エアークローゼット:企業サイト
ADVERTISING
READ ALSO
あわせて読みたい
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境