高精緻なファッション3D モデリングを中心としたアパレル業界向けテクノロジーサービスを提供している、株式会社FMB。以前当メディアでも紹介したように、ファッションテクノロジーで「未来の標準=ファッションデファクトスタンダード」を生み出すことをコンセプトにしており、3DCGやAIなどのデジタル技術を活用することによりファッション産業の構造を変え、サスティナブルな産業への変革を目指している。そんな同社が、今年6月に行われたピンゴルフジャパン株式会社と株式会社TSIによるゴルフブランド「PING」の合同展示会に、業界最先端ファッション3DCGデータ・機材を提供した。一度の展示会でバーチャルとリアルの両方のファッションショーを鑑賞できる新しい試みとなった同展示会について、株式会社FMBの中谷 ひとみさんに話を伺った。
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バーチャルとリアル
今回の展示会では、実物のランウェイ上でのリアルなファッションショーとともに、3DCGデータとARグラスを利用したバーチャルファッションショーも同時に行われた。このようなバーチャルファッションショーが初めて実施に至ったのは、新型コロナウイルス感染拡大の影響が大きいだろう。人が多く集まる場所が推奨されない状況下でファッションショーを行う場合、バーチャルファッションショーは画期的なアイディアになったと中谷さんは話す。
「ARグラスを利用したバーチャルファッションショーでは、リアルなファッションショーと違い、鑑賞者が自由に歩き回ってモデルに近づいたり、後ろに回り込んだりしてコーディネートを鑑賞することもできます。一方で、やはりリアルなファッションショーの活気はバーチャルなファッションショーでは味わうことのできないものです。一口にファッションショーと言っても、どちらにも違う良さがあります。また、前回の展示会と同じコンテンツを提供するのではなく、展示会ごとに何か新しい試みを、という意向がTSI様にもあり、そのなかで今回TSI様が企画したリアルなファッションショーを踏まえて、弊社の技術と組み合わせられるアイディアを出させていただきました」
前述のように、一つの場所に集まらなくてもショーができることは大きなメリットといえる。従来は限られた人たちにしか届かなかったファッションショーを物理的な制限を超えてたくさんの人に届けることも可能となった。また、リアルなファッションショーをバーチャル上で再現するだけでなく、現実世界に存在しない服を架空のキャラクターが着て歩くショーも作ることができる。もはやファッションショーはファッション業界のみならず、CGを作ることができればどの業界からでも参入できる世界となった。
「近頃では、せっかくバーチャルファッションショーを行うのであれば、リアルなファッションショーでは表現できないCGならではの表現が欲しいという声が多くなっています。一方で、ファッションブランドではフォトリアルレベルのリアルさを犠牲にできるわけではなく、リアルさとCG表現の両立が期待されています。ブランドのイメージを表現するための新たなツールとしての期待が高まっているのではないかと思います。また、メタバースへの参入を視野に入れている企業も増えていると感じます」
今回のバーチャルファッションショーでは、リアルなモデルのウォーキングをボリュメトリック撮影したものを使用した。ボリュメトリック撮影とは、立体映像技術の一つで、人物などの動きや位置も含めて三次元デジタルデータで撮影することによって、3D映像データを生成できる技術だ。このデータをKDDI株式会社の提供するWEB ARサービスとNrealLightで鑑賞できるようになった。
「WEB ARでは携帯端末でQRコードを読み込むことにより、携帯の画面上にARでモデルが表示されます。NrealLightは、装着することにより目の前にモデルがいるかのように表示されます。本体に内蔵されているカメラで位置情報を認識するため、鑑賞者はモデルに近づいたり、歩き回っていろいろな角度から鑑賞したりすることが可能です。今回は、実際に会場に設営されたランウェイを利用し、ランウェイ上にモデルが現れるように設定することで、鑑賞いただいた方により驚きを与えることができたと思います」
実際の来場者も最新技術に驚き、楽しんでいたようだ。現地のステージのスポットライトとAR映像が組み合わさることで臨場感が出て、モデルが本当にそこにいるかのようなリアルさを感じてもらえたそう。また、バーチャルの視聴者からは「本当にモデルがそこにいるみたい」「BGMも聞こえてランウェイの臨場感を味わえる」「今まで体験したNrealLightコンテンツで一番面白かった」「バイヤーにとってはテキスト表示で品番を見ながら体験できるので便利」という声も届いた。
過剰生産を防ぐ3DCG
今回の提供の背景には、株式会社TSIが同社の立ち上げ時から、環境負荷の少ないサプライチェーンと新しい販売方法を開発するために、積極的に3DCGを導入していたことにある。「TSI様との展示会以外の取り組みとしては、パターンの修正業務にも3DCGを活用いただいており、修正会の時間の短縮や、無駄なサンプル数の軽減などのメリットが見出されています」
企画初期段階の検討用として3DCGを使用することでサンプル制作数を減らせるだけでなく、この3DCGをブラッシュアップしてリテールで活用することも可能になれば、ささげ業務と言われる撮影業務の軽減が実現できる。また、量産前の先行受注に使用できれば売れ残りに繋がる過剰生産も防げる。
将来的に、精緻な3DCGを活用したメタバースやゲーム空間でのPR・販促につながれば新たな顧客開発にも繋がるだろう。さらに、NFTを活用した衣服の3DCGデータの売買のチャンスも生まれてくると考えている。
バーチャルファッションショーへの期待
中谷さんはバーチャルファッションショーの利点として、時間や場所の制約にとらわれずにファッションショーが鑑賞できることを挙げる。しかし、臨場感のあるバーチャルファッションショーを行うためには、ARグラスなどのツールが必要になることや、未だ洋服の3DCGづくりのノウハウが確立しておらず、表現に制約が出ることが課題だと話す。「ノウハウに関しては日々弊社の制作チームが研究を重ねて、より美しく自由な表現を磨いています。ツールに関しても、今後のメタバースの浸透などによって所有者が増え、より幅広い対象に届けられるようになっていくと思います。その上で、以前に比べ他業種の企業からもファッションの3DCG利用に積極的な期待をいただいていると感じます。単純に従来の写真や動画を3Dに置き換えることのみではない、CGならではの可能性を見出し始めていただいていると思います」
コロナ禍での画期的なソリューションの一つとして注目を集め、盛り上がりを見せたバーチャルファッションショー。徐々に移動の制限がなくなり、リアルなファッションショーが従来通り開催できるようになってもバーチャルファッションショーはその良さを生かし、活用されていくことだろう。
最後に株式会社FMBの願いについて聞いたところ、「パリコレやラグジュアリーブランドのファッションショーの顧客やバイヤー、プレスなど一部の選ばれた人だけでなく、一般の人々も臨場感を感じられるようなバーチャルファッションショーをいつでもどこでも楽しめるような未来であってほしい」と話してくれた。
「メタバースに参入するブランドが増加し、バーチャルファッションショーが欠かせないイベントになり、多くの人の目に触れるようになれば、既成概念を壊すアイディアがいくつも出てくると思います。そして、新しいデジタルファッションクリエイターの台頭や、ファッション業界のDXがさらに加速することで、持続可能なファッション業化への変革を促進し、次の世代の世界中の人たちがファッションを通じた豊かなライフスタイルを送れるようになっていくことを期待しています」
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