コロナ前に、AI(人工知能)によるアパレル需要予測が持て囃されたが短期間で話題に上らなくなった。
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必需品でありながらも嗜好性が強いカジュアルウェア・ファッションウェアは需要予測が難しい。一方、食料品や食品などは比較的容易で、個人が一日に食べる量はほぼ決まっているし、食べる物もだいたいが決まっている。なので個人データを入手できれば需要予測は立てやすい。
一方、カジュアルウェア・ファッションウェアは、予期せぬブームが起きたり予期せずブームが終わったりしてその変動幅が凄まじい。
最も極端な例を提示すると、98年~2000年に起きたユニクロのフリースブームとその反動だろう。2002年8月期(単体)には売上高が18・4%減、営業利益が47・1%減と大幅減収減益となり、続く2003年8月期も売上高が11・7%減、営業利益が13・9%減と大幅減収減益となった。
2001年8月期と比較すると2003年8月期では売上高は1000億円以上減らしており、営業利益は約67%減でおよそ640億円も減らしている。
これはフリースブームの大反動によるものであり、当時の状況を振り返ると2001年には周囲の人々も口々に「ユニクロのフリースは何枚か買ったしもう飽きたから今年は買わない」と言っていた。
同じ物を作って売っていても前年と同じような量は売れるとは限らないのがカジュアルウェアやファッションウェアの恐ろしいところである。
よくアパレル企業では「このアイテムは昨年〇〇枚売れたから今年も同じ枚数を生産して販売しよう」と会議で決めるがその根拠は論理的には極めて乏しい。
ちょっと極端な例を提示したが、カジュアルウェア・ファッションウェアというのはことほど左様に需要が不安定なので、現在のAIが精度の高い需要予測をすることは不可能だと考えられる。
この不安定さがネックとなりつつあるのが、現在のワークマンなのではないかと外野から眺めている。
不安定さとの引き換えで、カジュアルウェア・ファッションウェアは市場規模が大きい。このブログで何度も書いているが、作業服業界の長年の悲願の一つが「カジュアルウェアへの進出」であった。
97年に入社した業界紙には「作業服のプロ」記者がおられた。この大先輩が解説してくださったことが現在の当方の作業服業界に対する知識の元となっている。この大プロ記者によると「作業服は総需要枚数がだいたい決まっているがカジュアルウェアは決まっていない(厳密にいうと決まっているが、作業服ほど厳格ではないという意味)。ブームが起きればさらに拡大する。だから作業服業界はこれまで何度もカジュアルウェアへ挑戦して失敗してきている」というもので、ワークマンはその悲願をようやく果たせた1社だといえる。
作業服というのは、高機能・低価格でなければならないので、そのノウハウを生かしたカジュアルウェアというのは今の時代の消費者心理にマッチした。そのため、メディアの過剰報道も手伝ってあっという間に拡大することができた。
そして、カジュアル用途に向けたワークマンプラス、ワークマン女子という店舗の開発に成功した。そしてブームにもなったので順調に客数も伸ばしている。
だが、最近の店頭状況を見ていると、このブームが却ってあだとなりつつあるのではないかと感じる。
これは当方が店頭を見て類推したことだとお断りをしておく。
ワークマン女子、4月にオープンしたワークマンシューズを見ていると品切れアイテムの品番数が多い。新業態のワークマンシューズなんて残っている品番数の方が少ないくらいだ。
6月、7月と定点観測に訪れてみたがワークマンシューズの売り場は売り切れ品番が増え、残っている品番数が少なくなるばかりだ。その結果、どうなるかというと残っている品番数を売り場全体に薄く広げるという陳列方法となっていた。これでは消費者はつなぎ留められない。
ワークマン女子にしても同様で人気アイテムはすぐに無くなり、残っている品番を広げて陳列することでカバーする。
複数年に渡って店頭を観察していると、ある品番が売り切れたからと言って補充されるわけではない。稀にされることもあるが補充されないことの方が多い。
基本的には現在のところ売り切れ御免である。そうすると新商品が入荷するまでは残った品番を薄く広げて陳列することで誤魔化すほかない。
ワークマンは何万枚~何十万枚という数量を作り置き、それを複数年かけて完売してモデルチェンジするという生産体制を採っていることは知られている。
それが何故可能だったかというと、主戦場が作業服業界だったからだ。作業服業界にはカジュアルウェアのような「突発的なブーム」というのがほぼない。そして、需要枚数も10年~20年の長期的展望では変動するものの、2~3年程度ではほとんど変わらない。AI的に言えば需要予測しやすい販路だったといえる。
作業服業界が主戦場のままで、カジュアルは副業的なこれまでの位置付なら今の企画生産体制でも安定的な売れ行きは確保できただろうと考えられる。
しかし、ワークマンが発表している新たな成長戦略は主戦場をカジュアルに移し、作業服を副業的に位置付けている。
各フォーマットの10年後の店舗数ガイドラインは下記です
①#ワークマン女子 アウトドア100% 400店(最終的には1000店)
②WORKMAN Plus 作業60%、アウトドア40% 900店(新規200店 ワークマンから転換460店)
③ワークマン 作業80%、アウトドア20% 200店(WORKMAN Plusへ460店転換)
当社は「ノルマ」を廃止して、社員に「ストレス」をかけない方針です。このため、出店見込み数はあっても期限付きの出店目標数はありません。
と公式発表している。
ノルマもなく期限を是が非でも守るという目標でもないことが明言されているが、基本的な方針としてカジュアルメインと考えていることは明白である。
なにせワークマン女子が最終目標1000店・ワークマンプラスが900店に対してワークマンは200店しかない。
主客逆転している。
そうなると、現在のワークマン女子・ワークマンシューズの店頭でさえ、品切れ品の補充がなく、代わりとなる品番の早期投入も無いわけだから、目標に近づけば近づくほど企画・生産体制では間に合わなくなることは火を見るよりも明らかである。
現在のカジュアル市場・ファッションウェア市場で、売り切れ品を安易に補充することは危険であり、ワークマンの売り切れ御免方式は正しい。しかし、同じ品番しか並んでいない店頭を放置しておくことはもっと危険で消費者の購買意欲を大きく削ぐ。ZARAやジーユーはそれを回避するために売り切れ御免方式を採用するとともに、新規アイテムを矢継ぎ早に投入することで店頭の新鮮さと充実感を訴求している。
ワークマンがカジュアル市場を真の主戦場と定めたのなら、この矢継ぎ早で継続的な新規アイテムを投入する企画生産体制の構築が求められることになる。これが構築できなければカジュアル市場を攻略することは永遠に不可能となる。
その場合、これまで構築してきた企画生産体制を手放してしまうことにもなりかねず、厳しい選択を突き付けられることになる。
とはいえ、カジュアル市場を攻略するためには何かを手放さなくてはならない。
一見好調に見えるワークマンだが、実は結構重大な岐路に立たされており、その選択を間違えると悲観的な未来が待ち受けることになるだろうと当方は見ている。
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