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キラキラのカミソリ、パステルカラーの錠剤のアクセサリー、首吊りロープのネックレスを通して、このサブカルチャーはメンタルヘルスをオープンに語る場を提供している。
By Elizabeth McCafferty Translated By Nozomi Otaki
錠剤、ばんそうこう、注射器、カミソリなど、医療的なイメージを用いるファッションサブカルチャーが、メンタルヘルスの偏見を打ち砕き、対話を促している……。なんとも型破りな話だが、それこそがまさにメンヘラ・ファッションだ。
メンタルヘルスから派生した日本語の〈メンヘラ〉は、今や世界的に有名なパステルトーンのカワイイ(kawaii)ファッションに、自傷行為、PTSD、慢性病など、いまだにタブー視されているテーマを組み合わせている。ファンたちによれば、このルックはキュートな美学を保ちながら、コミュニティ全体がメンタルヘルスについてよりオープンに話し合うきっかけを生み出したという。
このスタイルの発祥の地は、東京、原宿。長年にわたって数々の風変わりなファッショントレンドを生み出し、〈原宿〉や〈原宿ファッション〉という言葉が多種多様なサブカルチャーの別名になっているほどだ。メンヘラという言葉が、メンタルヘルスと複雑な関係にあり、自殺率の高さで有名な国で生まれたことは、特に意外でもないだろう。過労自殺という言葉すら存在する国だ。
#menheraというハッシュタグは、本記事の執筆時点で、TikTokに6940万回、Instagramに13万1000回投稿されている。これらのコンテンツは、キラキラのカミソリ、シルバーの注射器、首吊りロープのネックレスなどの世界的なギャラリーとなっている。第三者には衝撃的で過激にも思えるだろう。しかし、このコミュニティに属する人びとは、このスタイルが自らのメンタルヘルスについて打ち明けるきっかけとなり、そこには世界が学ぶべき教訓がたくさんあると語る。
23歳のアディ・サマーズ(Addy Somers/@addyharajuku)は、英国を代表する原宿やメンヘラ・サブカルチャーのコンテンツクリエイターとして、世界的に知られている。彼女の楽しく明快なコンテンツを通して、私はメンヘラ・ファッションに出会った。サマーズはこの7年間でInstagramでは10万人、Tiktokでは50万人のフォロワーを獲得している。
「わたしは毎日メンヘラ・ファッションです。この前はカッターナイフのネックレスと、錠剤の形のアクセサリーをつけました。(中略)これには一般的なイメージを覆すストーリーがあるんです」とアディ。「普通のひとにも受け入れられやすいので、みんな惹かれるんです。もちろん、少し変わっているので目立つかもしれませんが、周りを怖じ気づかせるほどではありません。キュートな服装を楽しみながら、自分の物語を伝えることができるんです」
メンヘラ・ファッションのアイテムは、着るひとにとって非常にパーソナルである場合が多い。服やアクセサリーは、その日の気分やメンタルヘルスの話題が自分に与える影響によって変化する、自己表現のキャンバスなのだ。これはあるテーマや感情をクリエイティブに発散(vent)させる〈ヴェント・アート〉のひとつといえる。メンヘラの場合は、ファッションを通してそれを実現している。
メンヘラ・ファッションは、本質的にインクルーシブで、精神的な健康衛生と同時に、目に見えない障がいや健康状態へ意識向上を目指している。カミソリやばんそうこうのような表面的なアイテムで、自傷、ホルモン補充療法の注射、依存症の問題を提起するだけではない。メンヘラ・ファッションを販売するデザイナーは、幅広いサイズを展開し、着心地がよく動きやすい柔らかでゆったりとした素材を使用している。レギンス、スウェット、大きめのセーターなど、快適さが肝心なのだ。
「(メンヘラ・ファッションはこういうもの、という)期待はありません」とサマーズは主張する。「楽な服装でも、コルセットをして複雑な服を着ていても、あなたらしさは変わりません」彼女は、メンヘラ・ファッションの目的は同情や注目の追求ではないということを強調した。それはエンパワメントの表明なのだ。
「これは人生において本質的にネガティブなものを、堂々と身につけられるものへと変える手段なんです。わたし自身、そのプロセスはすごくためになりました。自分の体験を乗り越えるのではなく、自分が主導権を握れるようにそれを前面に押し出すということです。そのカタルシス効果は計り知れません」
なぜこのトレンドは日本から世界へ広がっていったのだろうか。「メンタルヘルスの治療状況は、欧米諸国では改善していますが(中略)まだまだ誤解も多いです」と彼女は説明する。「メンタルヘルスは、ファッション、アート、メンヘラ・コミュニティが議論を促し、安らぎをもたらすことのできる普遍的な体験なんです」
オハイオ州を拠点とする服・アクセサリーデザイナーのピューヴィセル・ラジャン(Puvithel Rajan/@puvithel)は、ファッションによる自己表現が人びとの力になると信じていて、だからこそメンタルヘルスのテーマを作品に用いることが多いという。現在30歳の彼女は、創作を通して健康や社会問題への関心を高めたいと願っている。今はPTSDをテーマとしたメンヘラ・ファッションラインを制作中だ。インタビュー中に彼女が身につけていたトップスには、〈自分を傷つけたくなかった(I did not hurt myself)〉と書かれていた。
「今わたしが着ている服は、別のアーティストとのコラボです」とラジャンは説明する。「PTSDについては、〈被害者非難〉がとても多い。このデザインは、人びとに当事者を責めないで、と呼びかけるためのもの。当事者への非難が、この病気や症状を引き起こす原因にもなります」
「特にこれ(ファッションに医療的なイメージを用いること)に関しては、偏見を取り払うことが重要です。わたしのお気に入りは錠剤のデザインです。わたし自身、これらの(イメージを使うことを取り巻く)偏見についてずっと悩んできました。恐ろしいものではなくキュートなものに変えれば、みんな後ろめたく思ったり、差別することはなくなるはずです」
「メンヘラ・ファッションを身につける理由は、人によって違います」と彼女は付け加えた。「例えば、ホルモン補充療法でテストステロンを注射しているので、注射器のアクセサリーをつけているひともいます」
ラジャンも、サマーズのエンパワメントに関する考えに同意する。「メンヘラ・コミュニティはアクティビストであり、政治団体です。ただのファッションではありません。ハッシュタグ#menheraは、コミュニティが自由に対話できる安全な空間なんです」
メンヘラ・ファッションやアクセサリーは外部の人びとをギョッとさせるかもしれないが、その支持者たちは、メンタルヘルスの問題を理想化したり矮小化したいわけではない、と強調する。23歳のレイチェル・ケイトン(Rachel Caton/@sunreiireii)はこう語る。「メンヘラはメンタルヘルスコミュニティによる、メンタルヘルスコミュニティのための言葉です。(中略)決して扇動的なものではありません」
しかし、ケイトンはメンヘラ・ファッションの潜在的なリスクも理解している。「過敏に反応しやすいひともいます。残念ながら、人びとがオンラインで見たトレンドを真似することで、間違って解釈されたり、誇張されすぎることもあります。十分なリサーチをしなければ、配慮に欠ける行いをしてしまうんです」
「このコミュニティの人びとは自分でリサーチし、このファッションの由来をよく理解しています」と彼女は続ける。「わたしがメンヘラ・ファッションに出会ったとき、頭の中で電球が光って、これこそわたしが求めていたものだ、と思ったんです」
ケイトンは原宿ファッションのさまざまなスタイルで遊ぶのが好きだという。「わたし自身もメンタルヘルスの悩みを抱えていて、自分の体をその日の気分を表すキャンバスとして使っています。(中略)『どん底の気分だけど、少なくとも今日のわたしはかわいい』と思える空間があるのは最高でしょ?」
29歳のデザイナー、シャーロット・レミントン(Charlotte Remington/@eggliencreations)は、メンヘラ・ファッションのあらゆる要素を作品に取り入れている。このスタイルは、双極性障害によるうつ症状や躁病エピソードと向き合う助けになったという。
「躁状態のときはエネルギーを全て吐き出すはけ口が必要だったので、いろんな作品で実験を重ねて、そのなかでエポキシレジンが大好きになりました」と彼女はいう。「メンヘラをテーマにした服、バッグ、エナメルピンの制作やデザインを始めました。(中略)わたしはネガティブな感情を発散したいという思いと、ポジティブさでみんなを励ましたいという気持ちのあいだで、常に揺れ動いています。わたしの店は、こういう感情と向き合うのに役立つアイテムであふれています」
ファッションの世界でのいわゆるヴェント・アートは、メンヘラ・ファッションが初めてではない。2001年、Alexander McQueenは精神科病院にインスパイアされたショーで物議を醸した。確かに、カミソリやカッターナイフを身につけているひとを見て、最初はショックを受けるかもしれない。しかし、メンヘラ・ファッションは、他の多くのメンタルヘルスの意識向上キャンペーンと同じ目標を掲げている。それは人びとに〈大丈夫じゃなくても大丈夫〉と宣言する機会を与えることだ。そのメッセージは、パステルカラーの錠剤のブローチをつけるだけで発信することができるのだ。
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