パリやミラノ、ニューヨークなどのファッションウィークで初披露される海外ハイブランドの新作を、国内販売前に先行予約(PRE-ORDER)にて販売している「d.code」。2015年に韓国で創業、2018年よりハイブランドの先行予約販売を開始し、PRADA、SAINT LAURENT、BOTTEGA VENETA、BALENCIAGA、Maison Margielaなど800以上のハイブランドと160,000以上の商品を提供している。日本では2022年3月28日よりサービスを開始した。
ADVERTISING
どのような仕組みで、ハイブランドの新作を手頃な価格で提供できているのだろうか。今回は日本法人であるd.code株式会社の代表、金 根佑さんにd.codeのビジネスモデルについて話を聞いていく。
新作をアウトレット価格で
d.codeの大きな特徴は、ハイブランドのシーズン新作をアウトレット価格で販売していることだろう。ECサイトで先行予約を行っており、簡単に購入することができる。
「d.codeでは正式販売時期の2〜3か月前に注文して、正式販売時期に合わせて商品が届くのが大きな特徴です。従来のファッション購入体験とは異なる部分としてまだ慣れてないお客様も多いかと思いますが、KickstarterやMakuakeのような購入型のクラウドファンディングや海外旅行など、価値や商品が届く前に支払いをする行為は、私たちの生活のなかでかなり浸透しています。その概念が、ファッションまでには認識として結びついていないのですが、『遠くない未来に主流になる。主流になるべきである。』と考えてこの事業を進めております。」
ファッション業界には在庫問題がある。過剰生産は売れ残り在庫として、生産者に負担を加重させるだけではなく、生産や在庫廃棄の工程で環境にも大きな負担をかける原因となる。本来は、生産者や環境にとって「ニーズがある分だけを生産する」ことが理想だ。金さんは、それを実現できる買い物のあり方が先行予約であると話す。
「無駄な生産と在庫を減らすことができる分、より手頃な価格で商品をお客様へ提供でき、お客様は価格的なメリットに加え、自身の消費行為がより持続的な社会を作って行くことに貢献できます。『消費者、生産者、そして地球に優しい消費文化の定着』、これが弊社のミッションであり、事業を行う上で社会における我々の役割と考えています。」
アウトレット価格で提供できる理由
もともと先行予約は商品の生産前に注文を行う仕組みだが、ハイブランドにおける先行予約は昔から 「企業間の取引」 として存在してきた。一部の大手バイヤーなどが来シーズンの商品を大量に注文し、生産が終わった時点で国内に輸入され、消費者が購入できるように全国の百貨店や店舗へ流通させるというイメージだ。
それに比較しd.codeでは、来シーズンの商品をユーザーが生産前に直接購入できるように商品を公開し、生産された時点で直接届けてくれるサービスとなっている。いわば、「一般消費者向けの先行予約サービス」で、これまでファッション業界の裏舞台に存在してきた 「企業対企業」 の先行予約を消費者に開放したサービスである。
シーズン新作にも関わらずアウトレット価格で販売できる理由については、主に二つの要素が含まれているという。
一つ目は、国内の定価と海外現地の定価の差分だ。これはブランドによって異なる部分だが、国内の定価は海外現地の定価より平均2〜3割高く価格が設定されている。割高である理由は、販売するために必要な輸入・流通の費用や店舗の賃貸、従業員の人件費などが上乗せされている構造になっているからだ。
「これは『海外より高い=悪い』という話ではなく、ビジネスの構造的に割高に販売せざるを得ないということを、ご理解頂ければと思います。一方、弊社は直接商品を仕入れ、店舗などを持たず、インターネットを通じて直接お客様に販売するため、海外現地の定価で販売できる仕組みとなっているんです。」
二つ目は、新作の初セールを前倒しに行うこと。通常、新商品が発売され2〜3か月後には必ず初セール(2〜3割)が行われるが、d.codeではこの初セールを前倒して先行予約時に適用することで、新作にも関わらずディスカウントができる仕組みを作った。この仕組みが実現可能な背景は、売上予測が難しい生産前の段階に、d.codeが大量の商品注文を担保することで、確実な利益の担保と過剰生産を減らす価値を生産者に提供し、その代わりに、新発売の2〜3か月後に行うセールを新発売の同時に行う事に了承を貰っているとのこと。総合的には、海外と国内の定価の差分と先行予約の追加ディスカウントを加えることで、国内の定価より3〜5割の手頃価格での提供を実現している。
d.codeならではの付加価値を提供
もともとは韓国でサービス展開していたd.code。立ち上げの背景は、学生時代からファッションに関心が高かった創業者が、アメリカの大学の在学中にイタリアでブティックを運営している知人と出会い、同じ大学の学生を対象にハイブランド商品の購入代行をし始めたことが、きっかけだったという。その後、取り扱うブランドを拡大する方法や流通のやり方などを学びながら、卒業後に 「ハイブランドやファッションが好きな人たちの為にサービスを作りたい」という意気込みで今のd.codeが設立された。
「2015年の創業から2017年まで様々な試行錯誤と方向修正をしながら、ハイブランドの商品をお手頃な価格で販売するサイトとして少しずつ名前が知られる状況になりました。そして、2018年からは現d.codeのメインビジネスであるハイブランドの先行予約にシフトしたのですが、これは 『どうすればお客様に良い品の商品をお手頃な価格で提供し続けられるのか?』という問いに対する私たちなりの答えでした。」
当時は会員数や売上自体は右肩上がりに成長していたものの、ハイブランドを販売する競合社が次々と増え、生き残るための価格競争はさらに激しくなり、売れば売るほど赤字になる状況まで追い込まれていたという。 その状況を打開すべく様々な方法を模索したなか、 「お客様に来シーズンの商品を、現地の価格で誰よりも早く購入できるという価値を提供出来るならば、他社との差別化を図ることができて、無益な価格競争をせずとも事業を継続できるかもしれない。 同時に、先行予約で販売したデータを需要予測で活用することで、ファッション業界の在庫問題を少しでも解消する手掛かりになるかもしれない。」 という仮説を元に、早速先行予約を試してみることになったという。
「百貨店で当時一足5万円ぐらいの定価で販売されたBUTTEROというブランドのスニーカーを、注文から配送まで3か月待ちのプレーオーダーで3万円で販売したところ、販売開始のわずか16時間で100足全てを完売しました。その実験から『良い品で、価格的なメリットがあれば、多少配送期間が長くてもお客様に待っていただける』という確信を持つようになり、先行予約に振り切って現在まで事業を進めています。」
日本への進出もその確信に基づくものだったといい、先行予約が提供する価値は国を問わず共通するものと考えた。それに加え、日本人ユーザーの好みが韓国と異なる部分も進出背景の一つにあったという。
「韓国は流行が非常に激しく、人気商品は爆発的に売れる反面、人気商品が偏ったり、入れ替えが早かったりする難しさがあります。一方、日本はより多様なファッションスタイルが共存する国で、かつハイブランドの市場自体も世界で3番目と消費人口も多いため、事業と非常に相性が良い国だったので進出を決めました。」
サービス開始から3か月が経った現在は取引額が1,000万円を超えた月もあり、設立前の想定より早く伸びた結果となり、「良い品をメリットある価格で提供すれば配送期間が長くても購入してもらえる」 という仮説も証明された。利用者からは「価格が安い」「アウトレット価格で新作を手に入れられるのが嬉しい」という点に加え、先行予約を通じて同社が実現したい新たな消費文化のコンセプトに共感する声も多く届いているという。
d.codeでは現在、約200前後の商品が販売されている。先行予約はブランドごとに特定期間のみ開催することが多く、時期によって販売する商品数が異なるという。6月と7月は春夏の先行予約シーズンがほぼ終わっている時期であるため商品数が比較的少ない時期ではあるが、秋冬の先行予約が始まる8月からは現状の3倍程度の商品数を販売する予定とのこと。
「数あるブランドのなかでもMaison Margielaの人気は非常に高いと体感しています。特にタビブーツ、フラット・パンプス、ジャーマントレーナーを含むレプリカシリーズ、5ACバック類は沢山のお客様に購入頂きました。その他にLOEWE、BURBERRY、Jil Sander、Marniのアイテムも需要が高いですね。」
安心して購入できるサイト作り
コロナ禍以降、ECの重要性が一層高まりECサイトにおけるブランディングの手法も多様な試みが出ている。そんななかd.codeでは利用者が信頼して購入できるようなサイト作りを最も重要視しているという。
「50%以上の割引で販売するアイテムもあり、かつ商品到着まで時間も掛かるため、偽物ではないかと心配されるお客様もいらっしゃいます。安心してご購入いただけるように『なぜ、ここまで安く販売できるのか』、『先行予約を通じてd.codeが実現させたい将来像はどういう世界観なのか』などを可能な限り詳しく説明できるよう意識してサイトのディレクションを行ったり、購入時には商品価格の一部だけをお支払い頂き、残りは配送時に自動決済する一部決済に対応し、より安心してご購入頂くような施策などを行っております。」
現在は一部のブランドのみを扱っているが、今後は利用者の声や市場のトレンドを見ながら積極的に取り扱うブランドを拡充していきたいとのこと。一般消費者向けの先行予約サービスを実行していくd.codeに、今後も注目していきたい。
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【Fashion Tech News】の過去記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境