6月はPride Month(プライド月間)。全ての人が自分の在り方、考え方に誇りを持つように再認識する月であり、LGBTIQ+コミュニティーを祝うパレードや、権利啓発のイベントが多く開催される月だ。
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近年日本でもダイバーシティの受容や個人の価値観の尊重は、ひと昔前に比べて進んできたように思われる。
とはいえ、日本はダイバーシティを意識することが難しい国でもあるといえる。2020年時点で日本に居住している外国人は総人口の2%と言われており、公用語も日本語を用いる単一民族国家だ。ゆえに、外見も思考もどうしても画一的になりがちだ。
一方アメリカでは、「人種のサラダボウル」とも呼ばれる多民族国家。人種構成は白人、ヒスパニック、黒人、アジア系など様々。見た目も考え方も違うのが当たり前という環境で生まれ育ってきている。
ゆえに日本よりもダイバーシティが一般的で、ダイバーシティに対して先進的な取り組みが比較的多いのも事実だ。
今回は、そんなアメリカの企業が、さまざまなダイバーシティを受け入れる姿勢・理解をマーケティング活動に反映させた「インクルーシブマーケティング」の事例を紹介する。
インクルーシブマーケティングとは?
インクルーシブマーケティングとはダイバーシティ(多様性)を受け入れ、それを考慮し、マーケティング活動へ反映させること。ダイバーシティーがインクルードされている(含まれている、受容されている)マーケティングのことを言う。
ここでいうダイバーシティとは、人種、性別、年齢に限ったことではない。宗教、性自認、食習慣、ボディタイプなど、個人の特徴が幅広く含まれる概念だ。
インクルーシブマーケティングの効果と消費者意識
こちらの記事を参考に、インクルーシブマーケティングに対しての消費者意識を見ていこう。インクルーシブマーケティングにはさまざまな効果がある。大きく2つに分けて紹介する。
① インクルーシブマーケティングを行うことにより、マイノリティとされる人たちが、自分たちもその企業のサービス対象に含まれているという自覚を持てるようになる。
参考:https://blog.btrax.com/jp/inclusive-marketing/
② 商品を直接的にプロモーションしない場合でも、企業の立ち位置を明確にし、考え方のファンになってもらい、そこからプロダクトを知ってもらうきっかけになる。
参考:https://blog.btrax.com/jp/brand-stories/
では、インクルーシブマーケティングに対しての消費者の意識はどうだろうか。(下記データ参照元)
- アメリカ、ブラジル、イギリス人の消費者の71%は、ブランドがオンライン広告で多様性と包括性を促進することを期待している。(Facebook Ad)
- インクルーシブな広告では、多人種のZ世代の消費者の23%が購入意向意欲が高まる。(マイクロソフト広告)
- アメリカ、ブラジル、イギリス人の消費者の59%が、オンライン広告において多様性と包括性を掲げるブランドに対してよりロイヤリティが高い。(Facebook Ad)
- アメリカ人の消費者の82%が、LGBTQ+の表現を促進するインクルーシブなマーケティングは、ブランドがあらゆる形態の多様性を大切にしていることの反映であると考えている。(GLAAD LGBTQ Inclusion in Advertising and Media study)
しかし、上記のようなインクルーシブマーケティングへのポジティブな意見に反して、あらゆる差別や偏見への態度にはまだ改善されるべきところがあるのも事実だ。下記のデータを見ていただきたい。(下記データ参照元)
- キャンペーンや広告に登場する女性は、男性よりも露出度の高い服装で登場する確率が14.1倍、視覚的/聴覚的な対象とされる確率が6.9倍、部分的に衣服を纏わない状態で登場したりと身体的な対象とされたりする確率が6.1倍高い。(Facebook Ad)
- 少数民族のキャラクターは、白人のキャラクターに比べて、家族の一員として描かれる可能性と運転する姿が描かれる可能性が半分ほどの割合。(Facebook Ad)
- アフリカ系アメリカ人の66%、ラテン系アメリカ人の53%が、自分たちの民族性が広告でステレオタイプが入った描かれ方をされていると感じている。(Adobe)
結論として、消費者は企業のキャンペーンに対してダイバーシティ、インクルーシブであることを期待しており、企業の努力、取り組みは広がりを見せているものの、まだ埋めるべき溝があるという状態だと言えるだろう。
今回はソーシャルメディア上での発信に止まらない、欧米のインクルーシブマーケティングのキャンペーン事例を合計5つピックアップしてお伝えする。
アメリカ企業のインクルーシブマーケティング事例
1) Bumble
アメリカ発のマッチングアプリBumbleは2018年、”Find Me on Bumble”キャンペーンとして、性別、人種、能力、宗教、セクシュアリティの異なる人々を含む、実際のBumbleユーザーの多様なグループを取り上げ、彼らを「私たちがニューヨークで出会った最も刺激的な人々」として紹介した。
Bumbleは、このキャンペーンによって、恋愛の出発点としてのマッチングアプリという域を越え、多様なユーザーの在り方や関わり方を祝福することで、ダイバーシティを尊重するメッセージを発信した。
出てくる人々が笑顔で撮影に臨む様子は、自然と新たな人との出逢いに対して前向きな気持ちにさせてくれる。
このコマーシャルはCoca-ColaのHilltop広告を想起させる。
Hilltop広告とは、Coca Colaが1971年に公開したテレビCM。
最初はひとりが歌いだすが、多様な国籍や人種の人がみな同じコカ・コーラの瓶を持ちながら“Iʼd like to buy the world a Coke.(世界中の人に、コーラを買ってあげたい。)”と歌い、次々と歌唱に参加していき、ハーモニーをつくりあげる。
これはまさに多様性広告の原点とも言える広告だが、今回のBumbleの事例も、さまざまな人が登場して、1つのコマーシャルを作り上げている点で、共通点を感じる。
2) Essie
アメリカのマニキュアブランドEssieは2019年のPride Monthを記念して、NetflixのQueer Eyeシリーズの俳優であるJonathan Van Nessを初の女性以外のブランド大使とし、ネイルポリッシュのキャンペーンに起用した。
Jonathanは、クィア、ノンバイナリを表明した俳優として、LGBTQ+コミュニティを代表してブランドの代表に選出された。
ネイルポリッシュは女性が主に使用するイメージのある製品。
それを異なるジェンダーやセクシュアリティのモデルをキャンペーンに起用することで、今まで使いたくても自分がプロダクトの対象者ではないと感じて使うのを躊躇っていた方にも、使用するきっかけを与えるようなキャンペーンではないだろうか。
3) Etsy
衣類、アクセサリー、インテリア、エンタメグッズまでなんでも揃ってしまうような幅広い品揃えを誇るアメリカのオンラインマーケット、Etsyが2020年に行ったホリデー・キャンペーン“gift like you mean it”は、「確かにこれもインクルーシブだ」と気づかせてくれるようなキャンペーンだ。
このキャンペーンでは、Etsyで購入したギフトがどのように人々の暮らしを豊かにするか、Etsyを利用してプレゼントを受け取った人を描く、3本のストーリー仕立てのコマーシャルが放映された。
そのうちの1つのコマーシャルでは、日本人の少女が主人公。アメリカに暮らすシオリという名のその少女は、アメリカ人には発音しづらく珍しい名前だからこそ、お店や学校で自分の名前を正しく書いてもらえたり、発音してもらえることが少ない。
そんなシオリが、クリスマスに両親から自分の名前を入れたネックレスをもらうという物語だ。
このキャンペーンの効果はEtsyのギフトがどのように人々を幸せにするかを示しているかを視聴者にはっきりと想像させ、購入意欲を掻き立てるだけではない。
人種やジェンダーという区切りではなく、「名前」という対象を取り上げることで、「どんな人も対象にする」という姿勢を表明しているだけでなく、見る人にこんなところにもダイバーシティが隠されていたのだと、新たな気づきをもたらすキャンペーンだ。
日本人の読者の皆さまには、もしかしたら身近に感じやすい事例かもしれない。
欧米企業のインクルーシブマーケティング事例
インクルーシブマーケティングはアメリカだけにとどまらない。秀逸な欧米企業のインクルーシブマーケティング事例を2つ併せてご紹介する。
1) TESCO
Together this Ramadan: In honor of everyone fasting, these plates only fill up as the sun goes down.
さまざまな地域の食料品を取り扱うイギリスのスーパーマーケットTESCOは、2022年の”Together this Ramadan”のキャンペーンで話題となった。
このキャンペーンは、ムスリムのラマダンの文化に敬意を表して、イギリスのブラッドフォード、ブレント、バーミンガムなどの地域にビルボードを設置した。
実はこのビルボードにはある工夫が施されている。日が沈むと、ビルボードの空の皿を食べ物が満たしていく。約3時間後に食べ物が再び消え、翌朝日が出る時間に、再び空の皿が表示されるようになっている。
これは、ラマダンの期間中は日の出ている時間帯は食物を食べず、日が沈んでから食べるという、イスラム教の文化に則ったもの。
実はムスリムの67%が、ムスリムの慣習のことがメディアでネガティブに報道されていると感じたことがあると言及したそうだ。
事実、イスラム教徒に言及した記事は、否定的な表現が使われているものが、カトリック教徒、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒と比較しても多いという事実がある。
このキャンペーンでは、ムスリムの文化の尊重の姿勢を示しているだけでなく、ムスリムの文化に対しての理解を深めることができるキャンペーンだ。
クリエイティブなアイデアで文化感のギャップを埋めている秀逸な例と言えるだろう。
2) Sephora
フランスの化粧品ブランドSephoraは2021年、”Try Something Good”と言うキャンペーンを実施した。キャンペーン動画の視聴者に向けて、黒人が経営するビューティー・ビジネスにスポットライトを当てた。
このキャンペーン広告では、さまざまな人種や年齢の女性を登場させただけでなく、黒人が経営するビューティーケア商品のブランドを強調し、制度的な格差を解消する姿勢を表明した。
広告でダイバーシティの尊重を訴えかけることに止まらず、支援を必要とする黒人コミュニティのビジネスの認知拡大、ひいてはビジネスの成長に貢献するキャンペーンの事例だ。
まとめ
今回は欧米のインクルーシブマーケティングの事例をご紹介した。
事例を見ても、インクルーシブマーケティングは、消費者に対してインクルーシブであるというメッセージを発信するだけではなく、そのメッセージに共感したファンの増加や、ブランドストーリーの構築につながり、ユーザーが数ある商品の中から「そのブランドでモノを買う理由」になる。
全てのユーザーに対して、ブランディングという観点でも重要な鍵となるマーケティング手法だということがお分かりいただけただろう。
ダイバーシティを普段の生活の中で感じにくい日本にいる私たちだからこそ、これらのようなキャンペーンは、ダイバーシティを身近に感じるきっかけとなるだろう。
参考記事
- https://promo.com/blog/9-brands-winning-with-inclusive-marketing-and-how-you-can-too
- https://www.impactplus.com/blog/inclusive-marketing-examples
- https://inclusivecreative.monks.info/
- https://www.impactplus.com/blog/diverse-inclusive-marketing-statistics
Ayaka Matsuda
松田彩佳
Marketing Associate
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