(左)ギンザシックス外観、(右)近藤保彦社長
Image by: FASHIONSNAP
銀座エリア最大の複合施設「ギンザシックス(GINZA SIX)」が開業から5周年を迎えた。新型コロナウイルス感染拡大に伴い訪日外国人の激減による影響などから業績に影を落とし苦境が続いたが、2021年12月の全館売上はコロナ前を上回り、過去最高を記録したという。「唯一無二の商業施設」を目指し、J.フロントグループとしても挑戦的なプロジェクトと位置付けられたギンザシックスの現在地とは? 今年3月に同施設の運営会社GINZA SIXリテールマネジメントの代表取締役社長に着任した近藤保彦氏に聞いた。
■近藤保彦
1963年生まれ。松坂屋豊田店長や松坂屋上野店長、松坂屋名古屋店長などを経て、2016年に執行役員に昇進。2018年にJ.フロント リテイリング 執行役およびJ.フロント建装代表取締役社長に就任し、2022年3月から現職。大丸松坂屋百貨店 執行役員も兼任している。
■GINZA SIXリテールマネジメント
大丸松坂屋百貨店、住友商事、Lキャタルトンリアルエステート、森ビルの4社による共同出資会社として2015年に設立(※森ビルは2020年2月末をもって共同運営業務を終了)。GINZA SIXのプロパティマネジメント業務を担う。
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「百貨店はやらない」宣言 立ち上がり好調もコロナで受難
ギンザシックスは、同じJ.フロントグループ店舗だった松坂屋銀座店跡地を含む再開発プロジェクトを通じて2017年4月に誕生。銀座エリアでは最大規模の複合施設となっている。銀座で最も歴史があった松坂屋の看板を降ろし、「百貨店はやらない」と宣言。銀座中央通りに面したファサードには館の“顔”としてラグジュアリーブランドを誘致し大型のメゾネット式の店舗を展開するなど、J.フロントグループとしても挑戦的なプロジェクトとなり注目を集めた。開業日には約2500人が行列を作った。
初年度は目標の年商600億円を達成。その後も着実に成長を続け、訪日外国人数が過去最多を記録した2019年にはインバウンドの追い風を受けて過去最高の売上を更新する水準で推移していたという。「“百貨店ではない施設に振り切った戦略”に則り、唯一無二性とワールドクラスクオリティを目指した。まさにその方向性が全て大当たりだった」(近藤社長)。
そして2020年。「目標数字を超えていく」という勢いで一年のスタートを切ったが、新型コロナウイルス感染拡大による影響が業績に影を落とした。「ギンザシックスはインバウンドを狙った施設ではない」(近藤社長)というが、コロナ以前(2019年度時点)は約3割が訪日外国人観光客による売り上げだった。インバウンドが下支えした売り上げは、2020年度に約半分まで落ち込んだ。
回復を支えたのは日本人客、若年層からも支持
回復の兆しが見え始めたのは2021年の秋頃。緊急事態宣言が解除されてから客足が戻り、館内の売上は年間で前年比45%増となり、12月単月では2019年同月実績の売り上げを超えた。「ディオール(DIOR)」や「セリーヌ(CELINE)」といった旗艦店が揃うラグジュアリーブランドを中心に売上をけん引。2022年以降も単月で2019年実績を上回る月も出てきているという。インバウンド売上が低迷する中で日本人客の一人あたりの購入額が増え、コロナ前の実績を超えたという現状に近藤社長も強い関心を示している。
最大の特徴は、売り上げの半分を20〜30代の働く若者が占めている点だ。「開業当時、20代による売り上げは全体の10%台だった。高齢の方が来店されていないわけではないが、若い方々に来ていただけているということは、やはり最先端のもの、または特別感のあるものが揃っているということ。何よりこの館の雰囲気から“ギンザシックスが良い”と感じていただき、SNSにも投稿されるようになった」。出店ブランドも若年層獲得の手応えを感じているという。J.フロント リテイリングの好本達也社長も今年4月に開催した2021年度の通期決算説明会で、若年層からは百貨店ではなくギンザシックスが選ばれるといった主旨のコメントを述べており、「顧客から(ギンザシックスは)違う存在であってほしいという言葉が聞こえてくる」という発言もあった。
2021年には開業以来初の大規模リニューアルを実施。約40テナントを入れ替え、「グッチ ウォッチ&ジュエリー(GUCCI Watch&Jewely)」「ザ・ロウ(THE ROW)」「パトゥ(PATOU)」といった高感度なブランドが新たに揃った。ラグジュアリーや時計、ジュエリーを扱う店舗の売場面積比率は開業時から高まっているという。今年は約20テナントの入れ替えを予定しており、秋にも新たなラグジュアリーブランドのオープンを控えている。
いま改めて問われる「リアルの重要性」
「基本的にほぼ満床に近い状態が続いている。安定的な経営をしていると思っていただいて良いと思う」と自信を示す近藤社長。出店先としてギンザシックスがラグジュアリーブランドに選ばれる強みは何か。それはリアルの空間ならではの「プレゼンス力」だと述べる。「コロナがリアルの重要性が見直されるきっかけになった。ブランド側も世界観を出すためにある程度の店舗面積を求めている。海外のブランドが出店先の一つのベンチマークとしてお考えになられているのは確かだ」。店舗面積に加えて内装へのこだわりも他にないレベルだと近藤社長は自負する。各ブランドが施術スペースを構えるなど、唯一無二性を強く追求した化粧品フロアは、2019年のインバウンド売上で最も高い比率を占めていたため売上減のダメージが大きかったというが、現在は復調し始めている。
ギンザシックスは外商組織を持たないが、J.フロントグループの百貨店店舗の外商顧客が買い物に来店するケースが多くあるという。J.フロント リテイリングの好本社長も同決算説明会で「ギンザシックスは百貨店よりも満足できると話す外商顧客もいるほど」と紹介したように、唯一無二の店舗空間は外商顧客も魅了している。
開業5周年を迎えた今年は、外国人観光客の受け入れ再開が期待されるなど徐々に日常へと戻りつつある。今年GINZA SIXリテールマネジメントの社長に就任したばかりの近藤社長にとっては、経営の手腕が問われる一年にもなりそうだ。現在の課題はアプリでの情報発信やプロモーションの強化だとし、アプリに新機能を搭載するなどアップデートを図っていく考えを示した。アプリの会員数は非公表としている。
課題はあるが「我々が目指しているヴィジョンに一歩ずつ近づいてる」とまとめた近藤社長。今後も銀座という地盤の強さを活かしながらラグジュアリーモールとしての発展を進め、最終的には銀座のまちづくりに貢献したいという。「これだけの直営店が揃い、都心の駅からも歩いていけるラグジュアリーモールは他にない。世界に向けても発信できる施設だと思っている」。なお、J.フロントグループのパルコはヒューリックなどとともに、ギンザシックスで得たノウハウを活かし、心斎橋で同様の複合施設の開発を計画している。
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