近年、SDGsが課題となっているなか、株式会社ネキストが循環型社会を実現するために新たな取り組みを開始した。それが「UpcycleLino(アップサイクルリノ)」である。このサービスは衣服を生産する際に生じる裁断くずを再利用することで、処分される糸や生地に新たな価値を与えるものだ。
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今回、同社のディレクター北之坊 敏之さんに「UpcycleLino」の取り組みや、来たるべきサステナブル社会の実現のためのビジョンをお伺いした。
裁断くず=残布のサーキュラーエコノミー
「UpcycleLino」における再利用の工程を簡単に説明すると、最初に裁断くずを細かく粉砕し綿状にする反毛という作業が行われ、バージン綿と一緒に撚糸が紡がれる。その後、機屋で生地が織られ、再び工場で製品が生み出されるという流れになっている。
裁断くずの廃棄がなくなるだけでなく、産地をまたぐ循環した仕組みを生み出した点で、日本の繊維産地の応援も兼ね備えた国内唯一のサーキュラーエコノミーと言えるだろう。
上記のようなサービスを提供するきっかけとなったのは、アパレル産業と環境問題の切っても切り離せない関係がある。アパレルは世界的にも製品在庫の焼却処分など環境負担が非常に高い産業と捉えられてきた。
北之坊さんは「弊社においても、職人が手をかけ、丁寧に織り上げた上質な天然繊維の生地が使われきれずに廃棄されてる状況がありました。それがきっかけで、なにか環境を配慮した取り組みができないかと社内で模索が始まり、裁断くずに注目したのです」と話す。
実際に服を作ると、必ず原反の3割程度の裁断くずが出るようだ。3割程度とはいえ、100着、1000着と衣服を生産していくと、その量は膨大になってしまう。だが、同社はほとんどの商品を自社縫製工場で生産しているため、裁断くずの完全な分別整理が可能だった。また古くから繊維産地と取り組みをしていたこともあり、約5年の歳月を経て産地を超えたサーキュラーエコノミーを実現することができた。
残布から衣服の生産にいたる循環過程
今回、新プロジェクトとして、デニムシリーズがリリースされた。最小ロットに必要なデニム生地を織るためには、約1500着分の裁断くずが必要になるとのこと。
同社が販売する「nest Robe」や「CONFECT」のほぼすべての商品が、徳島県の自社縫製工場で生産しているため、そこで出た裁断くずを素材や色、混用率別に分けて管理をしている。だからこそ、他社では真似をすることができない循環型社会を創造することができる。
では、サーキュラーエコノミーを実現するために、技術的な困難はなかったのだろうか。北之坊さんによると「当社が多用している麻や綿は静電気を帯びにくいため、糸を撚り合わせるのが1番苦労しました」とのこと。
そこで、超長綿のピマ綿とインドオーガニック綿を絶妙な混入率でつなぐことで、紡績を可能にすることができた。また、反毛糸はバージンの糸に比べて節も多く、強度的にも弱いため織りにくいという問題があったが、そちらも試行錯誤を繰り返して問題のない生地を仕上げた。
真なるサステナブル社会の実現のために
さらなるSDGsの実現のために、同社は綿以外のリサイクルも視野に入れているという。再生困難であった綿と麻の循環を可能にしたこともあり、一般的な衣服に使用されている素材であれば、ほとんどのものがリサイクル可能であるようだ。ただし、環境に悪い石油由来の繊維は極力使わないとしている。
また、近年では様々な企業がサステナブルな取り組みに力を入れているが、同社は明確な目標を掲げている。たとえば、裁断くずやオーガニックコットンの利用、衣服の修理、廃棄されるサンプル品の販売だけでなく、その工程で使用する水や電力の削減や節水型の染色機の利用、適正な生産数による在庫廃棄ゼロなどである。
「一緒に開発してきた企業には、積極的に他社にプレゼンテーションをするように伝えています。弊社のような小さい会社だけでなく、少しでも多くの企業が取り組むことが重要だと考えています」と北之坊さんは語ってくれた。
実際、消費者も環境問題に無関心でいることは難しい社会になってきた。環境に配慮した社会をファッション産業から改革する同社の活動に注目しつつ、私たちも可能な取り組みを行っていく必要があるだろう。
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