カーボンフットプリント(以下CFP)とは、プロダクトの生産からリサイクルに至るまでの過程において排出されるCO2の総量を測定し、プロダクトに表示する試みを指す。環境問題に影響を与えるCO2の排出量を可視化することで、消費者も巻き込んだ環境配慮のムーブメントにつながるとして、世界各地で注目されている。
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そのなかで、木の実由来の素材を使った日本のブランド「KAPOK KNOT」が、アウター全製品のCFPを算出し、公開することを発表した。環境負荷が未だ大きいファッション業界で、CFPの算出はどのような意義や、未来を考えるきっかけになるのだろうか。KAPOK KNOTを運営するKAPOK JAPAN代表の深井喜翔さんに、お話を伺った。
植物を用いた素材開発
KAPOK KNOTは「Farm to Fashion」を掲げ、農園からこころよい暮らしを届けるファッションブランドだ。東南アジアにあるカポックという植物を活用し、サステナブル素材を用いたアパレルを生産している。カポックは、薄さと暖かさを兼ね備えている画期的な素材だったが、繊維の軽さと短さによって加工が難しいとされていた。
そのなか、KAPOK JAPANは研究開発からカポックをシート状にすることで衣類の製造を可能にした。シート状のカポックは、従来のダウンのキルティングデザインなどに縛られることなく、暖かさを兼ね備えたデザインが可能で、地球環境に配慮した画期的な生産を可能にしている。
このように、もともとブランドのルーツとしてサステナブルを1つのキーワードとしていたKAPOK KNOTにとって、CFPの算出は消費者の信頼を得るために不可欠だったと深井さんは語る。特に現在欧米や中国を中心に世界各国で脱炭素化への取り組みが加速する一方で、日本ではまだCFPは馴染みがないのだそうだ。「今回の試みを発信することでCFPに関心を持つきっかけとして貢献したい」と深井さんは教えてくれた。
今回のCFP算出においては、KAPOK KNOTは「素材、製造、消費者の使用」のカーボンフットプリントを算出している。算出したCFPは、商品ごとにホームページに掲載され、いつでも確認することができる。表記の際は、サイズの違いや生地幅の微細な違いを考慮して表示していると深井さんは語ってくれた。
LCAツールの活用による算出
通常、CFPの算出は容易ではないが、同じくサステナビリティーを重要視するブランドAllbirdsが発表した「ライフサイクルアセスメント(LCA)ツール」を参考にする形で算出が行われたそうだ。このLCAツールによって、CFP計算の原理を理解することができたという。ただし、情報ソースとして国内における電力使用などについては記述が無かったため、自分たちで算出を行ったと深井さんは語ってくれた。
深井さんによると、今回使用されたLCAツールは今後オープンソースが増えていくことで環境問題に関わるさまざまな物質の算出へとつながる可能性があり、現にチャレンジしている事業者もあるそうだ。今後のオープンソース化が進むことによって、さらにCFPの動きが活発になる可能性がある。
「なんとなくいいこと」が評価されうる世の中へ
今回、KAPOK KNOTのプロダクトで算出されたCFPは、環境省が算出している平均値よりも低かった。この算出結果について深井さんは「削減すべき領域が可視化されたことには満足しており、今後製造分野での再生可能エネルギーや素材分野での木分解素材の開発など今後の改善点が見えてきたため、取り組んでいきたい」とコメントしてくれた。
CFPの算出はファッション業界全体にとって、どのような影響を与えるだろうか。深井さんは、以下のようなコメントを残している。
「今まで「サステナブル 」や「社会にいいこと」とは「なんとなくいいこと」が多かったと思うのですが、どれだけいいことかを明示すれば評価されうる世の中になってきている。その1つがCFPですが、今日本で考えられている炭素税はとても低く、フランスの20分の1程度だから、導入されても大したことないと思われている。でも、来年にはフランスや欧米諸国と同じぐらいまで引き上げるという発表が出るそうです。要は、高い炭素税が出てくることで、これまで「なんとなくいいこと」とされていたCO2排出を下げる取り組みに、経済的なメリットが生まれるわけです。カポックは植物由来の素材なので、水鳥の羽根を使うダウンと比べた時にCO2排出量が圧倒的に低い。だからもし、原料の値段が同じだったとして、炭素税が下がるからという理由でカポックを採用する企業が現れるのではないかと思っています」
このようにCFPの算出は、消費者や生産者にかかわらず、自らのアクションや可能性を可視化し、取組へのモチベーションにつながる機会になるだけでなく、経済的にも重要な指標となってきている。今後のCFP算出の動きやKAPOK KNOTの活動に注目していきたい。
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