企業や商品のブランディングを行う際、その目的はイメージアップやファンの拡大だろう。でも逆効果になってしまったケースも少なくはない。
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ブランディングやらかし事例の紹介
では早速、「やらかしてしまったブランディング事例」を紹介する。
・Gap: ダサダサの新ロゴを数日で撤回
・Peloton: 夫から妻へのクリスマスプレゼントCMが炎上
・マクドナルド&バーガーキング: ヘルシーメニューが全くヒットしない
・Uber: ロゴのリデザインで社長が暴走
・ドルチェ&ガッバーナ: 中国向けのCMが大炎上
Gap: ダサダサの新ロゴを数日で撤回
アメリカのファストファッションブランドであるGap。日本でも馴染みの深いブランドであるが、以前にロゴのリデザインを行ったことをご存知の方は少ないのではないだろうか。
それもそのはず。なぜなら、公表後わずか6日間という短期間で新しいロゴの使用を止め、元のロゴに戻してしまったのだから。
フォントは様々な企業のロゴにおいて採用されている”王道”のHelveticaを使い、色は以前のロゴにも採用されていた深いブルーにグラデーションをかけたもの。なかなか安易なセレクション。
これはお世辞にも “優れた” ロゴとは言えない。どうやら、社外から応募された作品の中の一つだったらしく、プロの目から見てもかなりお粗末だ。
結果は不評の嵐。1週間とたたずに元のロゴへと戻し、100億円以上の損失をもたらしてしまったという。
学び: ロゴデザインは安易にトレンドを追いかけるのではなく、ブランドの強みと伝統を表現しよう
Peloton: 夫から妻へのクリスマスプレゼントCMが炎上
Pelotonは、フィットネスバイクやランニングマシン、そして登録型のレッスン動画ストリーミングサービスを展開している。
フィットネスバイクとランニングマシーンには、大型のHDタッチパネルが付いている。ユーザーは、このスクリーン上で提供されるPelotonのエクササイズプラットフォームから好きな動画を選択し、エクササイズを行う。
生放送のクラスに参加することもできるし、オンデマンドクラスもある。ユーザーはエクササイズの種類からクラスを選べることはもちろん、好きな音楽のジャンルから選択も可能。
このサービスが人気を集め、2019年に上場を果たしている。その勢いに乗ってその年のクリスマス時期にテレビCMを放送したのだが、その内容がユーザーからの反感を買い、株価が1日に5%も下がった。
そのCMがこちら。
これの何が問題なのか?
どうやら、「クリスマスプレゼントとして夫が妻にエクササイズマシーンを贈る」というシナリオが、男性優位の視点で女性は痩せるべき、というメッセージが込められていると捉えられたのが原因らしい。
学び: アメリカ向けのCMはそのメッセージングを慎重に考える必要あり
マクドナルド&バーガーキング: ヘルシーメニューが全くヒットしない
みんな大好きヘルシーフード。もし大好きなファストフード店でよりヘルシーな食事ができたら最高だよね。
そんな風潮に合わせ、日本マクドナルドは2006年に新メニュー「サラダマック」が登場した。
当時のプレスリリースには「体によいことをムリせず楽しく続け、バランスのいい生活を応援するマクドナルドからの新しい提案として、野菜と果物を使ったカラダにやさしい5種類の新メニュー『サラダマック』を、2006年5月13日(土)から全国のマクドナルドで発売いたします」と書かれている。
しかしこれが大失敗に終わった。なぜか?そう。マックに行くお客さんは背徳的な高カロリーフードを楽しみに行っているのだ。言い換えると、マックというブランドにヘルシーさなんて求めていないのだ。
同じく、アメリカのバーガーキングでも以前に低脂質、低カロリーのフライドポテトが発売されたことがあるが、これも失敗に終わっている。
学び: 自分のブランドの社会における立ち位置をしっかりと理解しよう
Uber: ロゴのリデザインで社長が暴走
その事件は2016年の初頭に起こった。スマホにインストールされているUberのアイコンが識別できないほどに変貌していた。色も違えば形も違う。
何より全く”Uber”っぽくなくなっていた。Uber全体のブランドアイデンティティが突如リデザインされたのが理由。
なぜこんなことになったのだろうか? リブランディングに至ったストーリーを読んでみるとこれが実に面白い。
今回のプロセスに関しては、UberのCEOのTravisが自ら指揮を取って行ったというのである。
米国のテクノロジーメディア Wiredは今回のUberのリブランディングに関して、下記のように取り上げた:
CEOのTravis Karanickはデザイナーではない。にも関わらず、リブランディングにおけるプロセスを他にゆだねることが出来なかった。おそらく彼にとってはこのリブランディングプロジェクトは一つの自己表現の場だったのかもしれない。そして、周りのスタッフには“デザインのことはよくわからないけど、重要なのは知っている。だから良いものを作りたい”と語った。
そして、リリース直後よりUberの新しいロゴやビジュアルアイデンティティに対して、ユーザーから多くのコメントが寄せされた。そして、その多くが下記のような批判的なものだった。
・誰でも簡単にデザイナーになれると思ってるんじゃないかな。
・CEOの“複数のアイディアがあって全て表現したい”という声が聞こえてくる。
・CEOはデザインプロセスに関わるべきであるが、直接指示を出すべきではない。
・新しいロゴから伝わってくるのは、”ものすごく多くのお金と周りにイエスマンがいますよ”ということ。
・うちのデザイン会社ではクライアントが全てのプロセスに関わりたいと希望する場合は+20%チャージしています。中途半端に関わられると余計に仕事がやりにくくなるので。
学び: ブランディングはトップの個人的なエゴではなく、プロフェッショナルなチームで進めるべき
ドルチェ&ガッバーナ: 中国向けのCMが大炎上
日本でも大人気のイタリアファッションブランドのドルチェ&ガッバーナが2018年にアップしたネットCMの動画が大きな波紋を呼んだ。
これは、同ブランド上海で行われる大規模ファッションショーのプロモーション用に制作、公式インスタ上にアップされた動画。問題になったのは、衣装に身を包んだ中国人モデルが、ピザやパスタなどのイタリア料理を箸で食べるシーン。
この動画を見たユーザー同士がSNS上で中国を侮辱しているということで、大炎上を巻き起こした。
結果として、不買運動が加速。アリババなどの大手ECサイトからD&Gのアイテムが削除され、出演モデルは謝罪文をアップ、ファッションショーは直前で取りやめ、同ブランドの経営者2名が謝罪動画をアップ、そして最終的には、D&Gは中国市場から撤退する事態になった。
学び: ブランドのローカライズは、その地域でのユーザーテストをしっかりやろう
ブランディングをやらかさないための4つのポイント
1. ブランドの存在意義が明確になっていない
ブランディングがうまくいかないまず最初の原因は、自分達の存在意義の欠如。言い換えると、そのブランドが世の中に対してどのような役割を果たすのかが明確になっていないことだ。
他のものを全て取り払っても、そのブランドからは奪い去ることのできない要素 = ブランドコアが明確にされていないと、その後の施策は全く役に立たない。
それを明確にするには、ブランドの存在意義を明確にすることから始める必要がある。
ブランドの本質的な存在意義をクリアに定義する良い方法は、それを短いフレーズで表現すること。例えばNikeの”Just do it.” や Appleの “Think Different” など。
2. ブランド名がイケてない
これはめっちゃ基本なんだけど、ブランド名自体がかなり微妙な場合、ブランディングの難易度が極端にアップする。発音しにくい、覚えてもらいにくい、紛らわしい、などなど誤った名称を付けてしまうと、後から修正するのが結構難しい。
ブランド名を考える際のコツはいくつかあるが、例えば
1.世界共通で発音しやすい
2.他言語で他のものを連想させる名前は危ない
3.複数のスペル方法がある名前は避ける
4.ドメイン名獲得は考えすぎない
5.名前に数字を入れるのは極力避ける
6.名前の由来にストーリーがあるのは良い
7.困ったときは自分の名前を入れてみる
3. お客様第一主義とユーザー視点がごっちゃになっている
ブランディングキャンペーンなどを行う際には、ユーザー視点をしっかりと持っておく必要がある。これは、お客さまの声を最優先するのとは似て非なるものである。
というのも、顧客のニーズを捉えながらも、ブランドとして伝えていきたいメッセージをしっかりと伝える必要があるから。
ユーザー視点を持つことと、顧客に媚びることは同じではない。
何故ならば、ユーザーから聞こえてくる声は、あくまで既存の商品やサービスから受け取った体験を分析した結果にしか過ぎないからである。
時代をリードするブランドになりたいのであれば、ユーザー視点をしっかりととらえ、自分達のメッセージプラス受け取る側の感覚も理解しておく必要があるだろう。その辺のバランスを上手に取るのが現代のブランディングにおいては求められる。
4. プロセスを無視してアウトプットだけにこだわる
ブランディングのプロジェクトにおいては、最終的なアウトプット以上にそのプロセスが非常に重要である。一般的なブランディングプロジェクトでは、ビジュアルを通じて企業価値の最大化を図る為に、経営陣とエキスパート達によるチームが編成される。
その際には、誰に何を任せ、どこまでを仕事の範疇とするのか。そして、プロのデザイナーはビジネスに対してどのような役割と価値を提供するべきなのかを理解する必要がある。
おそらく最も重要で難易度が高いのは、会社への思い入れが強く、デザインバックグラウンドのない経営者が過度な口出しをしすぎないことなのかもしれない。
ブランディングを後回しにしないで
多くの日本企業にとって、ブランディングは大きく見過ごされている分野な気がする。
というのも、営業やマーケティング、最近ならDXなどの短期的な結果につながる施策や、最近のバズワードには注目が集まりやすいが、普遍的な価値を生み出す「ブランディング」はその効果が数字で表しにくく、古臭いイメージもあるので、どうしても後回しにされがちだから。
しかし、グローバル規模で見てみると、ブランド価値の高い企業は時価総額や利益率が高くなっている。そうなってくると、ブランディングを無視するには大きすぎるし、軽視するには重要すぎる。
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