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アパレルから広がりを見せるRFIDとこれからのサプライチェーン

アパレルから広がりを見せるRFIDとこれからのサプライチェーン

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技術が進歩し、インターネットが普及したことによって、商品はかつてないほどの速さで流通するようになった。しかし、それにともなってECサイトとリアル店舗の連携や商品の過剰な在庫、また廃棄などの環境汚染の対策など、課題は増え続けている。

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それらを解決する技術として、無線電波でICチップを読み取るRFID(Radio Frequency Identification)がある。このRFIDを用いたソリューションを提供しているのがAvery Dennisonという会社だ。今回、Avery Dennison Smartrac マーケットディベロップメントディレクターの三井さんに、RFIDの技術とそれがもたらす未来について伺った。

RFIDによるサプライチェーンの改革

Avery Dennisonは、累計600億枚以上のRFIDを出荷してきた世界最大のUHF帯RFIDのソリューションプロバイダーである。

RFIDとは、電波でICチップの情報を非接触で読み書きする自動認識技術のことを指す。そのため、アイテムに取り付けるタグ、タグを読み取るリーダー、読み取ったデータを蓄積、管理するソフトウェアが揃ってはじめて機能する。それぞれの仕様や組み合わせは多岐にわたり、1つでもオペレーションを間違えるとシステムがうまく作動しないという事態が起こってしまう。そこでAvery Dennisonは、現状の課題や目指す姿を理解し、それを解決・実現するためのビジネスケース、プロセスやソリューションを、顧客とともに作っていくサービスを提供している。

最近では、フランスのランジェリーブランドEtam Groupや世界的なアパレル企業のKOOKAÏへのRFIDの導入を行ったが、それは在庫管理の最適化やサプライチェーンにおける透明性を実現するためであった。この背景には、コロナによってオムニチャネルの重要性が一層高まったことへの対応、サステナビリティへの関心の高まり、そしてそれらを踏まえて、新しい顧客体験を生み出していくことがブランドに求められていたことがあるようだ。

商品にデジタルIDを付与することには、様々な可能性が秘められている。サプライチェーンの各所でデータを取得することが可能になり、何がどれだけどこにあるのか、どういう状態にあるのかを正確に把握することができるようになる。それにより、サプライチェーン全体で欠品をなくすことができるだけでなく、事前に納入される物量がわかるので倉庫リソースを最適化することも可能になる。

この恩恵は、日本でも言われるようになってきたBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)で見ることができる。BOPISとは、オンラインというチャネルで購入し、リアル店舗という別のチャネルで受け取る方法を指す。

たとえば、店舗で購入された商品を自社や外部のEC倉庫から発送したり、ECサイトで購入された商品をユーザーに近い店舗から発送するということができる。そうすることで一箇所で過剰に在庫を抱える必要がなくなり、また廃棄の抑制や不要な調達・生産・輸送を削減することに繋がる。さらに、物流企業では、荷物にデジタルIDをつけて物量を予め把握した上で輸配送を計画することで、トラックの積載率を向上させる取り組みも行っている。そういった蓄積されたデータの活用こそが、高い精度の計画や運用、またサステナビリティの実現を可能にする。

こうした取り組みは日本だけでなく、海外でも展開されている。三井さんは「今年世界最大のスーパーマーケットチェーンが在庫精度、店頭での購買体験、オンラインや店舗での受け取りサービスの向上を推進するため、アパレル用品に加えて、家庭用品メーカーのほか、一部のハードライン(金物や自動車用品)やエンターテイメントやおもちゃなどにもRFIDの活用範囲を拡大することを発表し、私達の業界ではちょっとした話題になっている」と語ってくださったように、いま改めて注目すべき技術であることには違いない。

RFIDの技術開発

RFIDタグは、離れた距離から複数のIDを一括で読み取れ、箱の中に入っていて目に見えないICチップにも反応する。この機能によって、従来のバーコードやQRコードでの管理で商品1点1点を(必要であればダンボールを開けて)読み取るため、データを取ることができる範囲や頻度に制約があったが、こうした読取作業の工数を大幅に削減することができる。

Auburn UniversityのRFIDラボの調査では、従来の店舗在庫の精度が70%を下回る程度である一方、RFIDタグを使用した場合、店舗在庫の精度が99%を超えるという結果が発表されている。日本は欧米に比べて在庫精度が高いと言われているが、それでもRFIDを導入することによる改善は十分に見込まれる。たとえば、確認作業に多大な工数が発生する棚卸しの作業を効率的かつ精度を上げて行うことができるため、業務の改善や新しい価値提供の機会を広げることが可能となる。

そうしたサービスを提供するAvery Dennisonは、グローバル規模の顧客基盤を持つという点に強みがあり、業界もアパレル企業に留まらず、物流・化粧品・食品といった業界の顧客と共にあらゆるユースケースを経験し、そこから学んでいるとのこと。だからこそ、あらゆる現場のニーズに応じた最適なRFIDソリューションを提案することができるようだ。

それを可能にするのは、自社工場で製造する業界最大のキャパシティである。30年ほど前からRFID事業に参入しており、RFIDインレイの開発においても、各国の周波数に適した設計やユースケースを十分に理解した上での提案ができる。そうした高性能・高品質のサービスを提供しているからこそ、グローバル規模でRFID業界を牽引するチップ、ハードウェア、ソフトウェアの企業や業界団体、研究機関とパートナーシップを結んでいる。

とはいえ、まだまだRFIDの導入には課題がある。三井さんが語ってくださったのは「RFID導入の目的がRFID導入になっている」ということだった。RFIDはあくまでソリューションであり、RFIDを導入するだけですべてがよくなるということはないとのこと。つまり、何が解決したい課題なのか、何を実現したいのかに基づいて、必要であればRFIDを選択するという判断力が必要である。

そのためには、RFIDの効果を適切に理解しなければならない。日本企業では「RFIDはバーコード業務の効率化ソリューション」であり、工数削減効果のみがRFID導入の効果として考えられがちのようだ。工数やコスト削減だけでは、RFID導入の費用を賄うことは困難であり、なによりRFIDのメリットを享受しきれていない。先程のスーパーマーケットチェーンの事例にも通じるように、新しい顧客体験やビジネスでインパクトを生み出す先行投資の1つとしてRFIDを考えるべきなのだ。

他にも、RFIDの読み取り精度の問題があるとのこと。たとえば、読み取り精度が99.9% (1000点中、999点が認識できるレベル)であっても、残りの1点が読み取れないから導入しないというケースがあるようだ。しかし、どんな環境でも常に100%を維持するというのは現実的な話ではない。また、こうした新しい技術の導入には、既存のプロセスに手を加える必要がある。「大事なことは、現在の状況と何を改善しようとしているのか、そのためにどの程度読めればいいのかを正しく判断すること」と三井さんは語ってくださった。

物流の未来のために

1935年の創業当初から「モノにアイデンティティを与える」ということを一貫して行ってきたAvery Dennisonが、2021年春にフィジカルな世界とデジタルな世界をつなぐデジタルプラットフォームであるatma.ioを立ち上げた。RFIDの技術によって商品がどこからどのように来たのかという「プロダクトジャーニー」を追跡することが可能となり、それぞれの商品の「固有のストーリー」を消費者に提示することができるサービスである。

昨今、リジェネラティブ(環境再生)やサステナビリティという考え方が重要になりつつあるため、モノの本当の価値を消費者やビジネスユーザーに伝えていくべきとの思いが込められている。この理念に賛同する企業は多く、世界のアパレルトップ 20 社のうち6 社、また米ファーストフードチェーンのトップ10 社のうち4社がすでに導入しており、160億点ものアイテムが登録されているとのこと。

こうしたトレーサビリティを実現化していくことで、顧客体験は大きく変化していくことが期待される。現状、消費者が商品を判断する手がかりとなるのは、価格やブランド、ラベルに記載された原材料がほぼ唯一の基準となっている。しかし、昨今では人権問題や産地偽装、環境負荷といった商品の透明性が求められているだけでなく、消費者もサステナビリティへの貢献などを確認した上で商品を選択していくような意識の変化が求められている。

そこでトレーサビリティが整備されれば、ECサイトで商品を検索する際に、ソートできる項目として価格だけでなく、環境への配慮といった基準を設けることができ、新たな価値観で消費者が購入体験をすることができるようになる。「そうした世界が実現されること、またその一翼を担える存在になれることを目指している」と三井さんは力強く語ってくださった。

実際に海外ではすでに多くの化粧品や食品、物流企業がRFIDの活用を始めているが、日本ではまだこれからという段階。Avery Dennisonは新たにRFIDを導入しようとする企業をサポートしていくとともに、アパレル業界を始めとした小売や一般消費財でも活用の幅を広げていく考えを持っているとのこと。

最近では新しいIoT技術を持ったスタートアップとともに未来の可能性を模索しており、パッシブブルートゥースタグを提供するWiliotへ出資および開発支援などもしている。今後、デジタル技術を用いて、どのような物流改革を行っていくのか。その変化に期待が膨らむばかりである。

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