(写真左から)本物、偽物(クローン品)
Image by: フェイクバスターズ
スニーカーやストリートウェアのリセール市場が過熱するのに併せて、フェイク市場も拡大している。国内でもスニーカーのフェイク品が出回ることが増えてきたが、海外では賄賂やパーツの流出など様々な問題が発生している。「日本はフェイク品に関する情報が弱い」と話す、真贋鑑定サービス「フェイクバスターズ(FAKE BUSTERS)」を運営するIVAの代表取締役社長 相原嘉夫(あいはらよしお)氏にリセール市場とフェイク品、鑑定士の実情について聞いた。
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賄賂で本物パーツ流出も、フェイク品の現状
スニーカーやストリートウェアのフェイク品は、リセールサイトが立ち上がり始めた2018年頃から数が増加。それまでフェイク品はハイブランドや腕時計などを中心に流通していたが、各国でマーケットプレイスができたことでフェイク品を売りやすい環境が整い、スニーカーの偽物を製作する工場や販売業者が増加した。
「スニーカーは二次流通によって価格が高騰しているだけで、本来安価な物。ハイブランドは製品のクオリティが高いので、技術的に作るのが難しくサラッと見ただけでも偽物とわかるものが多いんですが、スニーカーは本物ですらクオリティにバラつきがあるので付け込みやすい。多少の差異ならユーザーも納得できてしまうのが偽物業者が急増した理由の一つだと思います」
フェイクバスターズは、企業との提携の他にも、ユーザーからの鑑定依頼を引き受けており、ユーザーからの鑑定依頼の約40%がフェイク品で、「ナイキ(NIKE)」が8割、「アディダス(adidas)」とカニエ・ウェスト(Ye)による「イージー(YEEZY)」が1.5割、その他が0.5割の割合で偽物が見つかるという。
■フェイク品が多いモデルの特徴
- リセール市場でよく数が動くモデル
- 高価格で取り引きされているモデル
- デザインの特徴が少ないモデル
「偽物市場も流通の体制が整っていて、工場からエンドユーザーに売られることはほとんどありません。ショップのような位置付けにあたる仲介の業者が工場から大量に仕入れ、そこからマーケットプレイスで販売されています。仲介業者もリスクを取りたくないので、 リセール市場で約20万円で取引されているジョーダン ブランドとトラヴィス・スコットのエア ジョーダン 1といった高価な物や、ナイキとサカイのコラボモデルなど5万円程度で販売されている取引数が多いモデルが狙われやすい傾向にあります」
フェイク品の中でも完成度にはランクがあり、最高級ランクのN級品からS級品、A級品、A -(マイナス)級品、B級品、C級品といった具合に分けられ、N級品の中でも更に完成度の高いモデルをフェイクバスターズではクローン品と呼んでいる(オリジナルと同じという意味で「1:1」と呼ばれることが多い)。ほとんどの業者が販売する際にN級品として販売するが、実際にはB級品やC級品であることもしばしばあるという。しかし、工場が乱立したことで、偽物工場どうしでも企業間の競争が起き、偽物のクオリティは年々上がっているそうだ。
「おそらく賄賂が流れているんですが、稀に本物を作っている工場からパーツが流出し、本物と同じパーツを使った偽物も出てきます。そういったかなり完成度の高いモデルがクローン品にあたるんですが、本当に見分けがつきません。本物と並べて手にとって比較してもほとんどの人が見抜くことができないと思います」
■クローン品:工場の非稼働時間帯の活用や、正規工場からの素材の横流し、正規と同一素材の調達などを実施して製造するため、限りなく正規品との判別が付きにくい。
■N級品:正規品を分析し、材料や形状にも拘っており、正規品との判別が困難。
■S級品:いわゆる「スーパーコピー」と言われるレベルで、再現度は一定水準にあり、鑑定の知識がないと判別困難。
■それ以下:A級品などと言われるレベル以下が該当し、素人目でも違和感を感じたりするなど再現性が低い。
フェイクバスターズは独自の情報網や、所属している鑑定士によるリレーションによって、パーツが流出したモデルや、完成度の高いモデルについての情報を入手し、社内の鑑定士に共有している。クローン品であれど、しっかりとした情報と、培った知識があれば見抜くことが可能だそうだ。
「例えば、THE TENシリーズのエア フォース 1のVoltとBlack、エア ジョーダン 11 コンコルドなどは危険なモデルとして共有しています。困るのは、危険なモデルでシューズボックスがなく、中古といったような条件が揃った時。流石に判別ができないのでフェイクバスターズでは鑑定不能になる可能性が極めて高いです」
人材不足が常態化、鑑定士に求められるもの
フェイクバスターズは、日本、台湾、ニューヨークに拠点を持っており、オンライン対応も含め約50人の鑑定士を雇用。厳しい試験や試用期間を経た人のみを採用しており、日本の鑑定ラボには一部の鑑定士が出社している状況だという。実物を鑑定ラボへ郵送するコンプリート鑑定では、ヒューマンエラーを防ぐため一足のスニーカーをオンラインも含めた数十人が複数回にわたって見極める。1時間で約10足しか鑑定できないほど、鑑定には時間を有するという。
「人材不足は本当に致命的ですね。常時採用を進めていますが、フェイクバスターズの基準を満たす鑑定士はほとんど見つかりません。鑑定士に大切なのは、どれだけ偽物を見てきたか。なので、スニーカーショップやブランドで働いていた経歴は一見有利のように思えますが、鑑定士としてはほとんど意味をなさないのです」
フェイクバスターズでは、フェイク工場で働いたことのある人や、リセールサービスでの経歴を持つ人などが鑑定士として働いている。採用試験では現在働く鑑定士と同じモデルを偽物と見抜けるかなどのテストを行っている。
「鑑定士たちはフェイク工場の情報収集も積極的に行ってくれているので、優秀な鑑定士はスニーカーを見て、どこの偽物工場で何月に何番目のラインで製造されたかまでを見抜くことができます。それくらいのレベルでないと意味がないですし、独学で学べるものでもないので、新たに鑑定士を探すことは本当に難しいです」
鑑定士への賄賂の誘いは日常茶飯事、中国の現状
フェイク品工場が多くある中国では、鑑定の文化も発展している。Weibo(微博)などのSNSを通して個人で鑑定依頼を受け付けている人も多く、鑑定士がインフルエンサーのような立ち位置となっているという。
「鑑定士のもとに偽物の業者から『賄賂を渡すからフェイク品を本物と鑑定してほしい』といった依頼もザラにあります。ただ、それを受けると他の鑑定士にバレるので、後から暴露されて信頼がなくなり、鑑定士生命が終わるということに。優秀な鑑定士同士はお互いを蹴落としたいと思っているので、殺伐とした世界ではあります」
フェイクバスターズでは在籍している鑑定士のメディア露出などは一切行っていない。理由の一つに相原氏は、中国のリセールサービスで起こった事件を挙げた。
「数年前にとあるリセールサイトで偽物が大量に販売され、炎上騒ぎになりました。こちらも賄賂が流れていて、賄賂がリセールサイトに渡ったか、もしくは賄賂がリセールサイトの鑑定士に渡ったかのどちらかと言われています。鑑定士が前面に出ると賄賂の問題になったり、管理ができなくなるといった事例があるので細心の注意を払っています」
こうした現状で相原氏が危惧するのは、増え続けているリセールサービスについて。「ストックエックス(StockX)」や「スニーカーダンク(SNKRDUNK)」「ゴート(GOAT)」の他にも、中国の「ポイズン(毒)」をはじめとするいくつかの企業が日本でサービスを開始すると噂されている。
「リセールサービスの方たちはスニーカーが好きだからと過信してしまっているんですが、現実問題として危険なモデルが持ち込まれていないだけだと思うんです。本当に試された時には見極められないでしょう。日本は中国や韓国などに比べて情報が少ないですし、市場規模が小さかったので問題になっていないだけで。これから日本でもリセールサービスが増えていくので、偽物が多く出回る可能性は高いです。一度フェイク品を見抜けず鑑定が通ると、販売業者が目をつけて様々なモデルが出品されることになります。フェイク品ばかりになり、あっと言う間にサービス終了という事態が起こり得るので、リセールサイト各社はこれまで以上にフェイク品に対して重く受け止める必要があると思います」
■フェイクバスターズ
「フェイクバスターズ」は偽造品が多く存在しているNIKEやSupreme、THE NORTH FACE、BALENCIAGA、goro’s、CHROME HEARTSなどを含めた数多くのブランドを対象とした世界最大の真贋鑑定サービス。世界中から集まる大量の鑑定依頼を、多彩な経歴を持つ鑑定チームと最新鋭の専門機器、AI鑑定技術を駆使して、正確かつ迅速に対応している。日本国内No.1スニーカーフリマ「スニーカーダンク」、国内初のフリマアプリ楽天「ラクマ」、韓国初のスニーカーフリマ「OUT OF STOCK」、国内最大級ブランドリユース「BRING」など数多くの企業と業務提携を実施。2020年5月に米国ニューヨークと台湾台北にそれぞれ拠点を開設することで、事業の海外展開を進めている。現在は日本語に加え、英語、簡体中国語、繁体中国語、韓国語の5ヶ国語に対応しており、今後は日本市場のみならず、アジア市場、欧米市場、欧州市場への展開も進めていく。
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