大好きなファッションで社会問題や環境問題に貢献したい。生まれた境遇にかかわらず子供たちが夢を見、その夢に向けて努力できる世界を作りたい。そんな熱い想いを胸にNPO団体「DEAR ME」を主宰する西側愛弓さんは、なんと大学在学中にひとりでDEAR MEをスタートさせました。きっかけは海外一人旅。その旅で西側さんが目にしたのは、どんなに美しい街にも必ず貧困地区があり、そこには満足に衣服を身につけられない子供たちがいたこと。今までファッションは「人生の楽しみのひとつ」だと思っていた西側さんにとって、その光景は衝撃そのもの。その時に初めて日々の潤いとして服を楽しめる環境がどれほど恵まれていたかに気づきハッとしたそうです。どうにかして大好きなファッションで世界の貧困問題に対しアクションを起こせないか、そう思い立って立ち上げたのが「DEAR ME」でした。
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手探りでの出発と仲間のサポート
――DEAR MEは設立当初からフィリピンのスラム街の子供が夢を描けるよう彼らがモデルになるファッションショーを開催されていますが、学生時代にDEAR MEを立ち上げた時、そういった支援をするための下地はあったのでしょうか?
とんでもない。普通の学生が貧困問題に対して何かしたいと勢いに任せ、手探りで始めたので全てが体当たり。旅先では様々な貧困を目にしましたが立ち上げ当時はフィリピンに行ったこともなく、ネットで見たマニラのスラム地区の子供の姿に心揺さぶられたのが始まりでした。それで英語もできなければ伝手もないのに先にマニラ行きの航空券だけ取って、そこから現地のNPO団体に片っ端から電話しました。50件以上かけましたが、見ず知らずの日本人学生が突然「子供の支援のためのファッションショーをやりたいから協力してくれ」なんて向こうも困惑しますよね。苦戦している私を見かねた大学の友人たちが手助けしてくれるようになり、そこでようやく興味を示してくれた現地のNPO団体と話がまとまったんです。そこから神戸の子供服メーカーさんやフィリピン人の教授の手助けもあり、ひと月がかりでなんとかショーの開催に至りました。それが大学3年の時で、それ以降大学の長期休暇は全てフィリピンでの活動に充てていました。今思えば若さゆえ怖いもの知らずだったなと自分でも苦笑します。勢い任せの行動だったため、改めて振り返ると当時協力してくださった方々に迷惑をかけてしまっていたなと反省もしてるんです。
ファッションが夢を描くための大きな一歩に
――社会貢献の方法は数あれど、あくまでもファッションをその方法に選んだのはなぜでしょう。
高校時代の私は勉強にも部活にも興味がなく打ち込めるものがなくて、そんな中で唯一好きだったのがファッションでした。でもデザインができるわけでもないし…と後ろ向きになった時期もありましたが、毎日服を選ぶことで前向きだったり楽しい気持ちになれることに気づき、大袈裟ですがそれが当時の生きる希望。それに衣食住と言いますが、衣ってやはり生活する上で必須のもの。服を着ることは暑さ寒さから身を守る以上に、人生を豊かに彩るスパイスになり得ると思いました。だから夢を描くことが難しい子供たちにファッションに触れてもらい、それを契機に自分の夢を持って欲しい。現在までに7回ショーを実施していますが、参加してくれた子供は総勢160人。コロナの影響で開校が遅れていますが、貧困層の人たちが無償で通えるファッションスクール「coxco Lab(ココラボ)」も始動しています。このスクールは2年制で服飾や美容技術を無料で学ぶことができ、描いた夢を叶えるためのステップとなって欲しいとスタートしました。
――フィリピンでの活動を行いながら大学卒業時には(株)サイバーエージェントに新卒で入社されていますが、就職の道を選んだ理由は?
DEAR MEは当時あくまでも学生の活動。NPOとして形にするためには社会人経験をし、ビジネスのことを知る必要があると痛感していました。そのため成長機会の多いメガベンチャーに入社し、なるべく多くを学び吸収すると決めて就職したんです。2年後にはNPOとして独立すると自分で期限を設け、DEAR MEの活動と並行して仕事していました。仕事内容は新規営業を主に担当していたので、初めましての方に様々な提案をするスキルも身に付いたと思います。思えばハードな2年でしたが、社会人・会社員としての経験で培ったものが今非常に役立っていますね。
貧困に端を発し様々な問題と向き合う
――貧困問題をきっかけに現在はアップサイクルなど環境問題にもフォーカスされ、2020年には社会課題を服によって解決すべく「coxco(ココ)」というブランドも立ち上げているのですね。
世界の貧困には労働環境やフェアトレードなど様々な要因が関わっています。それらに対し今の自分にできることを、と始めたcoxcoは、アパレルブランドのように見えて作っているのは服の形をしたメディア。愛用しているリサイクルペットボトル100%のチュールスカートをはじめ、残布や再生素材で作った製品が中心です。これらを手に取ることで社会問題に触れるきっかけとなって欲しい、服という媒体を通して社会課題を広めたい。その想いが発端なんです。なお、フィリピンのショーも6回目からはアップサイクルを取り入れ、参加してくれる子供たちが自分でデザインしたドレスを日本の服飾専門学校の学生さんが作ってくださっています。その素材に古着を用いているのですが、古着がドレスに生まれ変わると知ることは参加する子供達の学びにもつながるのではないでしょうか。
――サイバーエージェント退社後、DEAR MEは2019年に正式にNPO法人となり代表理事に就任されましたね。NPOを運営するにあたって必要なことはなんでしょう。
志を同じくする仲間を見つけること、これに尽きます。学生時代もそうでしたが仲間がいるからこそ出来ることなので、同じ想いを共有できる人をいかに集めるかにかかっています。そのためには自分の想いやヴィジョンを言語化し、どうしてそれをやりたいのかをしっかり突き詰めて相手に伝えること。そのヴィジョンに共感してくれる仲間と一緒に夢に乗っかり進みたい。現在メンバーは社会人と学生から成る約20名ですが、採用基準はこの活動にかける熱量です。また、今はファッションを主軸にしていますがcoxcoに関しても今後はライフスタイルを含む幅広い領域をカバーしたいと考えており、他にもアパレル企業と連携してアップサイクルを学ぶ機会を消費者に提供するプロジェクトも進行中です。
信じる気持ちと恩返しのココロ
――フィリピンでの社会貢献にとどまらず、ブランド設立や新プロジェクトの展開など非常にパワフルに活動されています。その原動力は?
ファッションを愛する気持ちでしょうか。今の活動は私が人生を楽しむきっかけとなったファッションに対しての恩返し。ファッションを入り口にし、社会や地球全体にとってより良い未来があると信じて突き進めるのはファッションで世界は良くなると信じているからです。私の永遠のテーマは「ファッションで社会を良くする」ことなので、今後も力を貸してくださる方々の想いを紡ぎながら社会問題と向き合っていきます。
「想いだけでは変わらない、だから何か行動を起こす」。そう話してくださった西側さんにとって、自分が愛するファッションを武器に社会をより良くする試みはまだ始まったばかり。きっとこれからも想いをシェアできる仲間と一緒に、世界をもっと美しいものにしてくれると信じています。
西側愛弓 にしがわ・あゆみ
NPO法人DEAR ME代表理事。
大学在学中にファッションを通してフィリピンの貧困層の子供に夢を与える「DEAR ME」を立ち上げ、2019年にNPO団体「DEAR ME」を設立。
フィリピンでの活動のほかエシカルなアパレルブランドも展開し、ELLEでスタイルインサイダーも務める。
HP:https://npodearme.com/
coxco:https://coxco-official.com/
Instagram:https://www.instagram.com/ayupooonn/
TEXT:横田愛子
PHOTO:大久保啓二
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