2020年からの新型コロナウイルス感染拡大により、化粧品ブランドはオフラインの店舗でのリアルなメイク体験を積極的に提供することができなくなった。そのため、擬似的にメイクを体験できるバーチャルメイクへの関心が高まっているが、技術的な制約により実際のメイクをテストするのと同じような満足感を得ることが難しいところもある。
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そんななか、韓国で誕生したのが「Ticker」というアプリだ。このアプリでは革新的なFace追跡AR技術を利用し、あらゆる部位の細かいデジタル化粧やデジタル整形を可能にしている。「Ticker」アプリは、次世代ビューティーテック企業である韓国の株式会社TACHYONB&Tが開発したアプリだ。未だかつてない技術やサービスを展開するという理念を持つ株式会社日本IPFS(以下、「日本IPFS」)との想いの一致から、2021年7月15日にMOU締結し、2021年10月に日本上陸を果たす。「Ticker」とは、一体どんなアプリなのか。「Ticker」日本版を展開をしている、日本IPFSの栗田さんに話を聞いた。
コマース分野の発展で誕生したアプリ
「Ticker」はバーチャルメイクを提供するビューティー・ライフ・プラットフォームだ。ARテクノロジーをベースにしたリアルタイムのフェイス・トラッキングを使用し、バーチャルメイクをアプリを通じて提供している。
「Ticker」には他のメイクアップ体験アプリやウェブサービスと異なる点が、2つあるという。それが、多重構造3Dマッピングを通じて、実際の発色と最も類似したカラーをユーザーに体験させることができるという点と、メイクアップ方法による多様なカスタマイズが可能だという点だ。加えて、動きのある動的な環境でも顔を正確にトラッキング(追跡)することで、バーチャルメイクが完璧に維持されるという。「Ticker」は2021年の春に韓国でローンチ以来、ビューティー部門でGoogle Playチャート10週連続で1位になり、累積65万ダウンロードを記録するほどの人気のアプリとなった。
「Ticker」が開発されるきっかけとなったのは、コロナ禍におけるEコマース分野の成長があるという。
「コロナ・パンデミックは様々な生活様式に影響を与えています。そのなかでも、最も目立って発展したのがEコマース分野でしょう。しかし、このコマース分野の盲点は、リアルでの体験ができないことです。コロナ禍でデパートにおいても化粧品を体験することに制約がかかり、購入・販売動向に多大な影響を与えました。この問題を解決するために、デジタルビューティービジネスを始めたのです。」
デジタルで化粧品をAR体験するというコンセプトの成功は、実際の化粧品にどれだけ類似させてデジタル化粧品コンテンツを製作できるかにかかっていると栗田さんは話す。「Ticker」では、実際の化粧品を基準として95%以上の正確さでデジタル化粧品をつくることができる技術力を備えているという。そして今回、世界に向けて展開する第一歩として、日本をターゲットにした。日本はビューティー市場規模が約4兆5000億円と、アジア2位の大きな市場だ。それに加え、日本ではAR技術を活用したプリクラ機が発達してきたため、ARを活用したバーチャル整形、バーチャルメイクの学習レベルが世界的に高い国だといい、こういった理由から日本進出を決めたという。
「『Ticker』の日本進出バージョンに技術的な違いはありませんが、アプリ内のメイクアップARコンテンツの違いがあります。たとえば、同じ製品でも日本と韓国では化粧法が異なるため、日本のメイクトレンドに合わせた日本人向けのARコンテンツを提供することを可能にしています。韓国のARメイクは自然さ、リアルさに焦点が当てられています。そのため、ARコンテンツはすべて実際のものに類似しており、実際にメイクをしたような体験に焦点を当てています。この本物となるべく同じものを追求するという部分が、古くからプリクラに慣れている日本のARとは大きな違いだと思います。どうしても韓国とは文化的な違いがあるので、日本人向けに特化させ、日本の若いユーザーのトレンドに合ったコンテンツを今後も搭載していく予定です。」
リアルなメイク体験を実現
「Ticker」は現在15の特許を出願している。顔認識やそれに対応したメイクアップ、eコマースに関連した特許だ。そしてTickerの技術的な最大の強みは、これらのアプリケーション内のARコンテンツの構成であるという。
「100%カスタマイズ可能なメイクアップARコンテンツは、実際の製品の発色と95%以上類似しており、実際の製品を試すような体験をユーザーに提供します。静的および動的な環境においても、ARビューティー機能を維持するためにユーザーの顔を完全に追跡することができるのです。」
また「Ticker」では、ARバーチャルメイクなどのビューティ機能を使いながらビデオ通話できる、リアルタイムフェイストラッキングを通じたモバイルオブジェクトウェアリングシステムや、写真や映像をSNSに共有した際に自動的にハッシュタグが登録される「自動ハッシュタグシステム」などの機能が搭載されている。たとえばAR仮想メイクアップ機能を使いながらビデオ通話ができる機能は、アプリのローンチ後に披露されていた。今後はさらに高度化された映像処理機能の研究開発のために現在はその機能をアプリから一時的に外して熱心に高度化開発を進めているという。
アプリ内には、実際に発売しているデパコス商品や韓国コスメアイテムなどが試せるメイク機能も実装されている。実際に販売されているメイクアイテムを試せるこの機能が、Tickerの最大の利点でもあると話す。
「メイクは時代別、シーズン別、国別でカラーとテクスチャーだけが違うのではなく、メイク方法が多様に変化します。Tickerの最大の強みは、この変更に合わせて100%カスタマイズできることです。個別製品でフルメイクした後、ユーザーが自分でそのオリジナルメイクを保存して読み込むことができるメイク保存機能も提供し、100%ユーザーサイドのカスタマイズも実現しています。」
デジタル体験の提供
今後、「Ticker」アプリの力を入れていくポイントは大きく2つある。ひとつはビューティー業界のマーケティング、マガジン、コンテンツ会社などとの提携を増やすこと。コラボレーションを通じてお互いに新しいビジネスモデルを作っていくモデルだ。韓国では製造会社のコスメックス、マガジン会社のマリクレールコリア、ユーチューブコンテンツ会社のディミールとの提携をすることになり、日本でもトップクラスの企業との連携を行っていく予定だという。もうひとつはデジタルビューティー体験だ。こちらは業界初となるコンセプトだそうで、インディーズからデザイナーズブランドまで様々なブランドとのコラボレーションを行っていく予定とのこと。
現在のコマース市場は飽和状態であり、過熱競争状態だと栗田さんは話していた。このコマースの競争で、デジタル体験という消費者に新しいサービスを提供する価値がこれからのビューティー業界のトレンドとして位置づけられていくという。
最後に、日本IPFSの展望も教えてもらった。
「世界中のすべての化粧品をデジタルに変換し、世界的なライブラリをメタバースに供給することが日本IPFSの最終目標です。デジタルビューティーはメタバースに不可欠だと考えています。そして美容だけでなくファッション、小物などのAR体験サービスも行っていく予定です。さらに、今後主流になっていくNFT産業にも入っていきます。それは、デジタルビューティーNFTというものです。世界的なブランドとのコラボを通じて、希少価値の高いデジタルオリジナルコンテンツを制作、NFTとして発行し、自社のNFTマーケットプレイスで販売していきます。また、アイドル、セレブ、Netflix、ゲーム、キャラクターなどとのコラボレーションも計画しています。」
デジタル技術が身近になっている現代において、ビューティー分野がNFTなどへどう展開し、どのような経験をもたらしてくれるのか今後も注目したい。
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