Creators' Book Review Vol.2:半澤慶樹さん(PERMINUTE)/ファッションデザイナー
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さまざまなクリエーターがいま、もしくは過去にどんな本を読んでいるのかを尋ねる連載企画「Creators' Book Review」。
トップバッターの小林裕翔さん(YushoKobayashiデザイナー)に続く2人目は、ファッションレーベル「PERMINUTE(パーミニット)」デザイナーの半澤慶樹さんです。
ドゥーガル・ディクソン、ジョン・アダムス/監:松井孝典/訳:土屋晶子『フューチャー・イズ・ワイルド』ダイヤモンド社,2004
この本に出会ったのは小学生の頃でした。近所の仲の良かった2つ年上の友人の家に毎日のように遊びに行っていた頃、強烈なビジュアルによる表紙と「2億年後の地球!」という途方もない未来を想像させるキャッチコピーに心を奪われたのを覚えています。
人間が絶滅したはるか先の世界を作者のドゥーガル・ディクソンをはじめさまざまな学者が予測した本書では、CGを用いながらユニークなデザインの生物たち(もちろん現存するものからはかけ離れた姿)を紹介しています。イカが巨大化して生態系の頂点にいたり、動物を家畜にする蜘蛛がいたりとかなりエキセントリックな内容ですが、科学的な根拠の正確性など横に置いて彼らの想像する世界にどっぷりと浸れることに当時とても魅了されました。
最近読み返してみると、未来の生命と環境の姿を考えることは極めてファッション的であるように感じられます。 SNSの普及によってなのかもしれませんが、気がつくと藤岡弘、探検隊やオカルト番組などをエンターテイメントとして楽しめていた時代がとっくの昔に終わりを迎えてしまっていますが、そんな時代の空気を感じさせてくれる大事な一冊です。
V・S・ラマチャンドラン, サンドラ・ブレイクスリー他/訳:山下篤子『脳のなかの幽霊』角川文庫,2011
上京後、ファッションを勉強しはじめた頃に書店で手に取ったのが神経学者のラマチャンドランが著したこの本でした。それまで「ちぐはくな身体」「モードの迷宮」(いずれも鷲田清一著)といったファッションと社会との距離についての批評を熱心に読んでいたのですが、その中に「衣服は第二の皮膚である」とあり、皮膚(表層の身体感覚)と意識(からだの内外を定義している仕組み)の関係に興味が湧いてきました。その頃の僕にとても大きな影響を与えたのがこの本です。
事故などで後天的に失われた四肢がその実体がないにも関わらず痛む幻肢という現象や自分の親をそっくりな偽者と認識してしまう症状などの事例を挙げながら、脳に起きたバグと知覚の変化をさまざまな角度から解明していくという内容ですが、専門書のように堅くなく、ユーモアを交えながらの軽い文体でとても読みやすかったです。
ときどきふと自分の左手にiPhoneが握られてないと無意識にそわそわしたり欠落感を感じる時があり、自分の身体を超えた部分まで意識が及んでいることを感じるたびにこの本のことを思い出します。
Lous Martens『Animal Books For Dierenboeken Voor Jaap Zeno Anna Julian Luca』Roma Publication, 2021
上記に挙げた2冊とは違い、さまざまな写真やスケッチで構成されたこの本は、オランダのグラフィックデザイナーのKarel Martensの奥さんが自分の5人の孫のために日々スクラップしていたものを作品集としたものだそうです。
とにかく膨大な写真の量と、日々更新されていたであろうことが簡単に想像できるようなレイアウトが印象的ですが、なにより動物ごとに分類された美しいページからは、めくるごとに孫へと向けられた温かい気持ちが感じられるのと同時に、作者のユーモア(動物に混じってアニメやぬいぐるみの写真も同時にスクラップされていたりする)にクスッとしてしまう独特な美意識のようなものが感じられます。
最近見つけたばかりのこの本を初めて読んだ時に「身近な人に手紙を書くようにして」ものやサービスを作ると仰っていた家入一真さんのことばが作者のまなざしと重なり、キャッチーなビジュアル群の奥に潜むものをつくることの本質が少しだけ感じられたような気がしました。
★よく行く書店 コ本屋 honkbooks
要町と池袋の間にあるブックショップ。ギャラリーのようなスペースを併設しているほか、写真集をはじめとした古本が数多く揃えられています。
ぱっと見で場所は全く分からず、HPに記載のある通りに病院の裏側からインターホンを押して入るのがいつもワクワクして好きです。
コ本屋 honkbooks
(文:半澤慶樹)
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