近年、SDGsの浸透により、社会全体でリサイクルに対する意識がこれまで以上に高まっています。しかし、どのような素材がどのような手法で再生されるかなど、その詳細までは広く知られていないのが実状。今回は、アパレルのリサイクルにおける基礎知識として、「プレコンシューマー」「ポストコンシューマー」の概要、そして、これらを取り巻く世界的な動きについて紹介したいと思います。
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繊維業界のリサイクル生地は大きく2つ
アパレル業界はとりわけ製品ロスが多く、日本では年間約140万トン、世界的に見ると1秒につきトラック1台分もの衣類が廃棄されています。これはファストファッションの台頭で安価な衣類の供給が増加し、気軽に廃棄する動きが加速したことが影響していると考えられています。
廃棄された衣類のリサイクル生地は、工場での製造過程で発生する端切れや糸くずなどを使用する「プレコンシューマー」、消費者によって使用・廃棄された衣類や一般ごみなどを分解して生み出す「ポストコンシューマー」の2つに大きく分けられます。
現在、リサイクルに使用されている衣類は全廃棄量のうちの2割以下、衣類に生まれ変わるものは1%にも満たないと言われ、それ以外は焼却または埋め立てられています。現在、繊維の3R(リデュース、リユース、リサイクル)は事業者の自主的な取り組みに依存している部分が大きく、業界からは根本的な解決のため繊維リサイクル法の可決が期待されています。
「プレコンシューマー」と「ポストコンシューマー」の違い
プレコンシューマーは、プレ(前)とコンシューマー(消費者)という言葉が組み合わさっていることから分かるように、消費者に届く前の廃棄物を原料とします。利用される繊維は、染色や加工前の生地を使うため不純物の含有率が低く、少ない工程で一定のクオリティを担保できるのが特徴。 アメリカでは、アパレルメーカーの試作品から生まれるテキスタイルを回収し、リサイクルやアップサイクルを促進する組織“Fab Scrap(ファブ・スクラップ)”が2016年に発足。マークジェイコブスやJ CREWなど名だたるメーカーが契約を結び、毎週約3.6トンもの生地を回収しています。日本の大手企業でもサステナブルな製品づくりの一貫として、プレコンシューマーの繊維を素材に組み込むなどの取り組みが行われています。
ポストコンシューマーは、ポスト(後の)、コンシューマー(消費者)という言葉の通り、消費者によって使い古された廃棄物から生み出されます。衣類だけでなく、ポリエステル生地の場合はペットボトルやプラスチックごみなども原料として使用されます。 消費者から回収するゴミを資源とするため、工場内から生まれるプレコンシューマーと比べると不純物が多く含むポストコンシューマー。使用に際しては、それらの除去や回収段階での分別といった作業が必要となるため、リサイクルにたどり着くまでの難易度が非常に高いと言われています。
ナイロンのリサイクル
ナイロンは、ほかの素材よりも低い温度で融解することから不純物が残りやすく、一般的にポストコンシューマーには適さないと言われています。加えて製品の回収率も低く、リサイクルはほぼプレコンシューマーとなっているのが現状です。また、原料に石油を使用していることから、これまではSDGsやリサイクルの分野で目立って語られることがありませんでした。 しかし近年、リサイクルナイロンが、新たに作られるものより二酸化炭素の排出を大幅に削減できると発表され、クリーンな素材として注目を集めています。リサイクルナイロンの世界最大手ブランド“ECONYL®(エコニール)”をグッチやバーバリー、プラダなどがこぞって採用し、日本でも伊藤忠商事が業務提携を締結。国内メーカーでもリファインバース株式会社が廃棄漁網をリサイクルしたナイロン樹脂を開発しています。 リサイクル工程は、漁網やプラスチックなどのごみを回収後、合成繊維の工場で原料であるカプロラクタムに戻し、再びナイロン繊維へと加工します。
ポリエステルのリサイクル
ポリエステルはナイロン、アクリル三大合成繊維とされ、耐熱性や強度に優れていることから、アパレル業界ではジャンルを問わず幅広く使用できる素材として重宝されています。 1997年に容器包装リサイクル法が施工され、材料として多く使われるペットボトルがリサイクルの義務対象品になったことで、ナイロンよりもリサイクルの普及が早く進められるようになりました。ポストコンシューマーでは、アメリカUnifi社の“REPREVE®”、国内では帝人フロンティアの“ecopet”などが代表的なブランドとして商品展開を広げています。 また、2021年にはデンマークにおけるポリエステルの大手供給業者であるFiberpartner ApSが、世界初となる生分解性ポリエステルを発表。海中に放置されても自然に分解し、生態系への影響が極めて低い繊維として、アパレル業界での利用が期待されています。
TEXT:伊東孝晃
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