たまに独立や転職で相談を受けることがある。どちらも失敗して今の境遇にある当方はだいたいの場合、賛成しない。
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特に独立起業でオリジナルブランドを作ることには賛成しない。
昔ならOEM屋になることを勧めたが今では、OEM屋としての独立も勧めない。
それはこの回でも少し触れている。
そんな当方がブリッツワークスの青野睦社長から、独立の相談を受けたのがもう7年くらい前のことである。某大手ジーンズメーカーを辞めてオリジナルブランドを作るという構想に対して、オリジナルブランドについては賛成できなかった。
青野社長以外にもジーンズ関連企業から独立してOEMを手掛けるようになった知人が何人かいたのだが、そのいずれもさして上手く行っていないから、オリジナルブランドにせよOEMにせよ、いかに独立起業が難しいのかがわかる。
そんな青野社長だが、ジーンズとワーキングユニフォームを同時に手掛け、ワーキングユニフォームのデニム生地ブームにも乗ることができたので大したものだと感心している。現在はバイク用ウェアに進出しているほか、ジーンズ関連のOEMも受けておられる。
今回は新春特別企画として、仲良しの青野社長とのリモート対談をお届けしてみる。
1、受注生産への過剰な礼賛があるが?
オーダースーツ屋やクラウドファンディング、小規模ブランドの予約販売などはそういうジャンルとして存在することに異論はないが、ワーキングユニフォームやジーンズというのは、基本的に大量生産システムありきの商材であり、縫製工場だけでなく、素材メーカーもそういう供給体制になっている。Tシャツ・スエットも大量生産ありきの業界システムとなっている。
ジーンズ業界でいうと、ベティスミスがオーダージーンズで上手くブランディングしたが、ベティスミスは他方で量販店向けの商品や大手チェーン店向けの商品が主軸である。逆に量を売る主軸があったからこそ、オーダージーンズという副業を立ち上げることができたと見るべきだろう。特にデニム生地については大量生産向けとの抱き合わせにすることである程度安く仕入れることができたといえる。
作業服も同様であり、趣味の嗜好品としての要素が強いジーンズよりも、低価格は重要視される。
青野社長によると「現場作業員さんは、早いと2カ月に1回、作業服を買い替える(破損するため)といわれています」とのこと。
「2カ月ごとに買い替える仕事着は安ければ安いほど喜ばれるのは当然です。低価格を実現するには大量生産が必要になるので、ワーキングユニフォームは大量生産が必要不可欠です」
となる。
業界メディアなどでは、古着やリメイク品、リユース品の活用拡大を「有効な解決策」と吹聴するが、これにも疑問しかない。
青野社長と当方の共通認識では「仮に古着だけになってしまうと、新しく作る設備が無くなってしまう。それは縫製工場だけのことではなく、生地工場、糸工場、染色工場すべてが無くなる」ということである。
2、安い服は悪だという業界人の風潮への疑問
これについても青野社長は当方とほぼ同意見である。
バイクウェアへの進出と同時にバイクに乗ることを始めた青野社長だが
「今、2台目が欲しくていろいろと健闘しているところですが、なにせセレブではないので(笑)、できるだけ安くて良い物を買おうと比較検討しています」
という。
洋服もこれと同様なのではないかという。
今の世の中には、趣味の分野がたくさんある。バイク、ガンプラ、音楽、カフェ巡り、漫画、アニメ、スポーツ、酒などなどだ。洋服もその趣味の分野の一つに過ぎない。
洋服という趣味に多額のお金をかける人がいてもまったく不思議ではないが、洋服にはほどほどしか出費したくないという人が多数いても何の不思議もない。
また生活のどの分野にもほぼ均等にお金をかけたいという人がいるのも当然である。
「80年代・90年代と比べると価値観が多様化し、洋服も趣味の一分野になったということでしょう」(青野社長)
3、オリジナルブランド立ち上げのデメリット
すでに有名なアパレル企業や著名人は例外として、オリジナルブランドを立ち上げると売れるようになるまでには、ある程度の長期的な時間が必要となる。
それは当たり前で、どこの馬の骨ともわからない見知らぬブランドの服がすんなりと買ってもらえるはずもない。100円とか50円の商品ならまだしも、安くても5000円はしてしまうような商材をおいそれと買うはずがない。
ある程度売れるようになるまでは3年~5年はかかるだろう。
そうなると、5年くらいは資金も時間も先行投資ということになり、それが「もったいない」と考える人も多くいる。
青野社長は「OEMも手掛けているので工場との直接折衝もよくするのですが、好調な工場さんほどオリジナルブランドを立ち上げていないという感じを受けます」と指摘する。
これは当方には盲点だったが、近年、インターネットの普及と発達によってオリジナルブランドを立ち上げやすくなった。素人がブランドを立ち上げるケースも増えたが、一方で、工場がオリジナルブランドを立ち上げるケースも増えた。だが、業界内で名前が鳴り響いている国内有力工場はオリジナルブランドを立ち上げているケースはほとんどない。
「5年間も手間暇と資金と人員を投入するよりも工場としての営業活動を重視する方が効率的だからではないでしょうか」(青野社長)という結論で、これには当方も納得した。
4、ジーンズ人気は昔のように復活する?
現在、ブリッツワークスは、バイクライダー向けのダンボールニットのジョガーパンツの開発を続けている。
その模様がYouTubeで公開されている。
バイクの「2りんかん」との商談だが、先方が「最近の若い人はジーンズを穿いていないので、デニムのライダーパンツを勧めにくい」と仰っている。
2022年の海外レディースコレクションでは「デニムトレンド」と報道されているがこれがマスに広がるかどうかは疑わしい。トレンド品として少しは売れるかもしれないが、80年代・90年代のようにカジュアルシーンがジーンズ一辺倒になるとは到底考えられない。
今回のジョガーパンツのようなラクチン・高機能パンツに慣れた人たちは、絶対にそれを手放さない。ジーンズを買い足すことはあってもジーンズをメインに据えることは到底考えられない。
今後もジーンズはカジュアルパンツの中の1アイテムとしての存在が続くだろう。
そんな感じである。
コロナ禍に限らず、閉塞感が漂う衣料品業界だが、ポジショントーク的なムードに流されることなく、業界の各社は地道な取り組みで乗り切ってもらいたいと願ってやまない。
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