どんな業界にも業界内の定説があり、それは一般消費者の認識とかけ離れていることが少なくない。
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アパレル業界にもいくつかあるが、一般消費者の認識とかけ離れているものが多い。だからこそアパレル業界は苦戦しているのだろうし、新しい仕掛けがどんどんと当たらなくなるのだろうと思う。
大手商社までが参入し始めて乱立するD2Cブランドなんてまさにその典型で、コンセプトも机上の空論が多く、ブランド名もややこしくて覚えにくい。見るからにニッチ市場でしか売れなさそうだが、やっている人たち、特に大手商社はそれを認識してやっているのだろうかと疑問で仕方がない。大手商社なんて大量販売してナンボの仕組みで成り立っているんだろうに。
まず、10年くらい前から言われつつけているこれ。
ちょうどH&M、フォーエバー21の上陸直後の2010年くらいから言われていると記憶しているのだが、10年間経って何の効果も出ていないのにまだ言い続けているのかと呆れるほかない。
そもそもこの認識が正しいのかどうかすら疑問である。
安い衣類をワンシーズンで着なくなる
というのは本当だろうか?
異常に汚れた、転んで破れた、などのアクシデントによる破損以外、ワンシーズンで着なくなることはそうそうない。
買ってみたけど似合ってなかったとか、何となく違うと感じたとか、そういう理由で着なくなることはあるが、それは「高い衣料品」でも普通にある。
また、ワンシーズンだけの短期間トレンドに則った商品だったので、次のシーズンには着るのが恥ずかしいという商品もあるが、それは「高い商品」とて同じである。いくら何万円しようが、短期間トレンド品を次のシーズンに着ることは恥ずかしく感じる。逆に「高い商品だから」と言って着続ける方がダサいと言われるし、無理をして背伸びをして買ったとしか受け取られない。
当方は、この手の言説を旧型アパレル人(年齢関係なく志向的に)特有のポジショントークにすぎないと思ってせせら笑っている。
そりゃ誰だって自分が提供する商品やサービスが高く売れるにこしたことはない。当方だって原稿料を1本20万円くらいにしてもらいたい。そうすれば月に2本だけ書いてあとはガンプラを作って暮らす。
しかしそれは現実的ではない。当方にはそれだけの価値は無いと周りが判断しているからだ。衣料品もそれと同じで、いくら高く売りたいと売り手が思ったところで、その値段があると判断されないと売れない。そのためには売り手がその価値を作り上げる必要がある。ツイッターで何万回ポジショントークを繰り返したところでその価値は全く生まれない。
次に、夏冬のバーゲンシーズンに聞こえてくる売り手の文言である。
「冬のバーゲンで防寒アウターなどの冬物を買っても2カ月くらいしか着られない。それよりも商品が次の春物が豊富なうちに春物を買う方がお得」
というものだ。
しかし、これも当方には疑問しか感じない。
今、1月に春物を買ったところで、一部の商品を除いては実際に着用するのは4月に入ってからで、着用期間は梅雨時までの2カ月である。
3カ月寝かせて2カ月しか着用できない。これのどこが効率が良いのだろうか?
2カ月しか着用できないのは、今買った防寒アウターも4月から6月までしか着用できない春物も同じである。しかも春物は着るまでに3カ月も待たなければならないが、防寒アウターは今すぐ着られる。どちらの方が効率が良いのかは一目瞭然で、当方は防寒アウターを買う方が高効率だと思う。
洋服を着るには「気温」が重要で、当方は暑がりなので「最高気温」を重視するが、教えられることの多い友人であるマサ佐藤氏によると、一般人は「最低気温」を重視するという。
いずれにせよ、暑すぎる、寒すぎるという気温で着用する服は大きく左右される。今時「ファッションは我慢だ」と言っているようなファッション変態はマイノリティに過ぎない。
となると、防寒アウター立ち上がりの10月20日に買ったって、着用するまでに少なくとも2カ月、多ければ3カ月タンスに入れっぱなしになる。また本格的な寒さが襲来するのは、毎年1月からである。12月は基本的に暖冬傾向である。
となると、1月バーゲンで防寒アウターを買った方が今すぐ着られてしかも安く手に入るのだから、高効率である。
これは夏物も同じである。半袖を着るのは早くて4月末、遅ければ6月に入ってからだから、その時に買えばいい。何も嬉しがって1月に高い金を払って先物を買う必要はない。
2カ月から3カ月も保管している方が非効率だろう。
昔の服屋はこの理論で売っていて、消費者も「そんなものか」と思いながら買っていた。また着物には先物を着るという風習があったから、その風習の名残もあっただろう。
記憶する限りにおいて、高度経済成長期、バブル期から存在する売り文句である。
ハウスマヌカンやカリスマ店員のころから使い古されている。
だが、実際、売り場からのデータを見ると、年々体感気温に則した商品が売れるようになっている。寒くなれば防寒、暑くなれば半袖が動く。これを称して「体感気温MD」と呼ぶが、すでに20何年前の業界紙記者時代からその傾向は指摘されている。
20何年間言い続けても効果がないのが「先物買い」である。
まあ、そんなわけでこの辺りの言説を守り続けているアパレル業界はますます、消費者意識と乖離していくのだろうと思う。もちろん啓蒙は大事だが、今回取り上げたどちらもポジショントークに過ぎないから、消費者には今後も響かないだろうと思って眺めている。
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