繊研新聞 小笠原拓郎
Image by: FASHIONSNAP
JUNYA WATANABE MAN×Levi's® デニムパンツ
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小笠原:これは「ジュンヤ ワタナベ マン(JUNYA WATANABE MAN)」と「リーバイス(Levi's®)」のコラボデニムパンツです。「リーバイス®レッド(Levi's® RED)」と同じく、麻が入っていて。クレイジーステッチも良いですよね。リーバイス®レッドの第1弾として販売された立体裁断でポケットが片方だけついたモデルも買ったんですよ。
F:リーバイス®レッドは僕も買いました。
小笠原:これを買ったのは今年の春夏で、去年も出ていたので買おうとしたら結局ドロップしたのか店になかったんですよね。残念に思っていたんですが、偶然青山の店に行ったらあったので買いました。普段あまりダブルネームは買わないんですが。
F:ダブルネームは好きじゃない?
小笠原:1+1が2になったり3になったりなかなかしないじゃないですか。リーバイス®とジュンヤのダブルネームということは正直どうでもよくて、リーバイス®レッド以来リネンを使ったデニムがあまりないなと思っていたところ、ステッチワークの遊びというか手作り感が凄く好きだったので購入を決めました。
F:リーバイス®はたくさん持っている?
小笠原:もう1本だけですね。今持っているのはmade in USAの「501®」なんだけど、たまに会社に穿いていくと「それ穿いたらダメなやつだろ(笑)」と言われます。でも私は資産価値として買ったわけじゃないから。
F:デニムコレクターではないんですね。
小笠原:違いますね。大戦モデルが良いとか「66」が好きとかも分かるけど、それが100万円とかになるのは流石に違うんじゃないかなと思ってしまいます。
COMME des GARÇONS HOMME PLUS ジャケット
F:これはすごいですね。リバーシブルでもあり、ハウンドトゥース地のところに首を通せば前掛けみたいなデザインにもなるんですね。「コム デ ギャルソン オム プリュス(COMME des GARÇONS HOMME PLUS)」の2021-22年秋冬コレクションですか?
小笠原:そうです。3wayで丸々2着分の作りなので値段も結構高かったです。やはりこれは作り手の意図通りに着るのが一番良いというか、こうして前に垂らして着るのが正解なんだと思う。
F:ショーのルック通りの着こなしですね。どこを気に入ったんですか?
小笠原:ショーを見て、単純にハウンドトゥースの太い糸の色とのバランスが好きだなと。このシーズンはリバーシブルや2way、3wayがテーマになっていて、ジャケットの下からストールみたいものが出ているアイテムも良いなと思ったんですが、着たらエレガントすぎて似合わなくて(笑)。
F:コム デ ギャルソンはよく小笠原さんのベストバイ企画に登場しますね。
小笠原:去年はなかったですけどね。川久保さんとはジャーナリストとしてぶつかり合いもありますから。馴れ合いはお互い好きじゃないので。
F:コム デ ギャルソンでも忖度なく記事を書く?
小笠原:そうですね。思ったことは書くようにしています。例えば、「このままで良いの?」と思い書いたシーズンもありました。コム デ ギャルソンのやってきたこと、新しい美しさを探す姿勢を評価しながら、このままで良いのかという問題提起をしました。その時は出禁も覚悟しましたが、PRチームには「ちゃんと川久保に伝えます」と言われました。川久保さんもある程度は私の書くことを異なる視点としてちゃんと認めてくれていると思いますし、だからこそこちらも踏み込んでいく。もちろんベースには、コム デ ギャルソンに対するリスペクトがあるからです。プレスリリースをなぞったり、デザイナーのコメントをそのまま引用するようなレビューばかりでは、日本のファッションとファッションジャーナリズムは成熟していかないと思っています。自身の知識や経験を背景にジャーナリストはデザイナーのクリエイションに踏み込んでいかなければいけない。勿論そのためには、ジャーナリストも様々なことを勉強しなければいけません。
F:今年「トリコ コム デ ギャルソン(tricot COMME des GARÇONS)」のブランド名が「タオ(tao)」に、「コム デ ギャルソン ジュンヤワタナベ マン(COMME des GARÇONS JUNYA WATANABE MAN)」が「ジュンヤ ワタナベ」に名称を変更しました。何か意図を感じますか?
小笠原:私も気になって何か意図があるのか聞いたんですが、回答はまだ返ってきていませんね。
F:下の世代に引き継ぐことを考えてのことかと勘ぐったりもしました。
小笠原:それもあるかもですが、個人的にもっと濃いピースを作っていくということなのかなと思いはしましたね。トリコ コム デ ギャルソンは稼ぎ頭なはずで、ある程度MDを意識したもの作りをしていたと思うんだけど、個人名にするということはもっと尖って濃いものを作っていく方向にシフトするんじゃないかなと。仮にそうだった場合、マーケティング寄りのブランディングはどこが担うのか。そこを川久保さんが社長としてどう考えているのか気になりますね。
今年を振り返って
F:総括すると、今年はショーも少なく去年から引き続き服を買う欲望が湧きづらかった。
小笠原:それに加えて、「アウディ(Audi)」を買ったというのは大きいかもしれないですね。去年に家を改築して、今年は車。結構お金を使ってしまいました(笑)。
F:去年、小笠原さんはファッションがコンサバにはなって欲しくないという話をしていました。コロナがどうなるかまだわかりませんが、今後ファッションデザインの保守化は進むと思いますか?
小笠原:難しい質問ですが、今うちのニューヨーク駐在記者にアメリカのマーケットがどういう風に回復していくのか取材してきてと頼んでいて。そこで言われているのが「インベストメントピース」をアメリカの消費者は探しているということなんです。そのワードが私的にはすごく気になっています。どういうことかというと、やはり本当に価値のあるものを大切に着ようというマインドにアメリカの消費者はなってきていると。まぁ階級社会なのでお金持ちがファッションをたくさん消費するという構図は変わらないと思うんだけど、別にそんなに裕福ではないけれど本当にファッションが好きな人たちが、自分にとって本当に価値のあるものを高くても頑張って買うという傾向が出てきているそうです。それがすごく気になっていて、やはり高くてもちゃんと価値を感じられるものをワンシーズン着て終わりというわけでなく、何年もちゃんと着て楽しんでいこうという消費の仕方をしようとしている。だからデザイナーはこれから安易なものではなく、価値を感じられるクリエイティビティやクオリティのものを作っていくことが大切なんだろうなと思ったりしています。
F:「インベストメントピース」と聞くと、それこそリーバイス501®xxやレアスニーカーなどの値段が高騰している資産価値のあるアイテムのことかと思いきや、そういう意味ではないんですね。
小笠原:良いものなら資産価値も付随してくるかもしれませんが本質はそこじゃないみたいなんですよ。ファッションが好きでベビーシッターの仕事をしながらお金を貯めた学生が「セリーヌ(CELINE)」のジャケットや「シャネル(CHANEL)」のバッグを買ったりするみたいで。ファッションが好きな人たちが、今何を選ぼうとしてるのかがすごく大事なんだろうなという風に思ったりはしています。
F:そういう流れが日本にも来たらクリエイター達には良さそうですね。特にウィメンズですが、今の日本にはコンサバ市場しかないとデザイナーたちは口を揃えて言っています。
小笠原:そうですね。話は戻りますが、さっき言ったいわゆる「新しいものなんて必要ない」と言っているデザイナーは何を作るんだろうなっていうのがあるんですよ。そういう考え方があるのは認めるけど、ファッションデザインってそうは言っても新しさから逃れられないんじゃないか。もちろんサステナブルも新しさの一つではあるんだけど、サステナブルだけどデザインがないものって本当に必要なんだろうかと思うところがある。デザインがないってことは、サステナブル視点でもブランドがなくなった方が世の中のためにはいいわけじゃないですか。今の時代SDGsがトレンドで、それは大切な考え方だけど、それしかプロダクトの売りがないというのは果たしてどうなんだろうかと思ってしまいます。だからやっぱり「インベストメントピース」のように新しい価値をどう提供するのかというのが、ファッションデザインには必要なんじゃないか。実用衣料だったらまた違いますけどね。ちなみにFASHIONSNAPは東京出身者が多いですか?
F:どちらかといえば地方出身者の方が多いですね。
小笠原:私も出身は愛知なんですが、地方には良いお店があって。私たち世代が学生の頃は、近くに5つくらい年上のすげえイケてるお兄さんやお姉さんがいたと思うんですよ。それを見てファッションを学んできたというのがあると思うんです。それこそ熊本なんかもそうなんですよね。有田正博さんがやっていた熊本の「パーマネントモダン(PERMANENT MODERN)」というお店に通っていた馬場圭介さんや島津由行さんが日本を代表するスタイリストになるわけだけど、上の人を見て「あの人かっこいい!」と憧れ、街のファッション文化が作られてきたと思うんですよ。今はそういうようなことがすごく希薄になっているのかなって。
F:確かに今の若い人たちはそういう身近なおしゃれな人ではなく、InstagramやTikTokなどのSNSで目立った人を参考にしている印象です。結局バズったものが目に止まるわけで、それゆえ均質化しているところはある気がします。
小笠原:紙媒体中心の私が言うと「わかってねえな」と言われるかもしれないけど、いわゆるインフルエンサーが言っていたりすることって、的外れなことばかりじゃない。自称スタイリストみたいな人がいたりとか、巨大なフェイクを中高生などの若い人たちが本当なんだと信じてしまっているのが今の時代。余計なお節介かもしれませんが、それはとても恐ろしいことだなと感じています。
F:パワーインフルエンサーになると、我々メディアよりも影響力を持っていたりしますからね。
小笠原:それこそ今なんの経験もない人がBtoCで服を作ったりしていますが、大したものができないのは我々は端から分かっているわけじゃない。だけどそれが売れて、大したものじゃないものたちを良いと思っている若い世代の人たちが大量に生まれていく。どんどん服を見る目が劣化していくよね、という怖さを感じるというか。
F:中々難しい問題ですよね。SNSを無くすことはできませんし、小笠原さんをはじめとした服のことをわかっている人が発信するくらいしか術はなさそうです。
小笠原:僕が発信したところで、「何言ってるんだこのおっさん」となるだけでしょうけどね(笑)。
小笠原拓郎
1966年愛知県生まれ。1992年にファッション業界紙の繊研新聞社に入社。1995年から欧州メンズコレクション、2002年から欧州、NYウィメンズコレクションの取材を担当し、20年以上にわたり世界中のファッションを取材執筆している。
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