繊研新聞 小笠原拓郎
Image by: FASHIONSNAP
今年のお買い物を振り返る「2021年ベストバイ」。6人目は本企画の常連、繊研新聞社 編集委員の小笠原拓郎さん。コロナ禍で、海外ブランドのファッションショーを現地で見れない中でも「新しい美しさ」を持つ本物の服を求めたそうです。「巨大なフェイク」が蔓っていると警鐘を鳴らすジャーナリストの小笠原さんが選ぶ2021年に買って良かったモノ6点。
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JIL SANDER ネックレス
FASHIONSNAP(以下、F):ルーシー・メイヤー(Lucie Meier)&ルーク・メイヤー(Luke Meier)夫妻による「ジル サンダー(JIL SANDER)」の2021-22年秋冬コレクションのネックレスですね。
小笠原拓郎(以下、小笠原):1年まるまるフィジカルショーを見ない年ってなかったわけで、正直服を買おうという欲望が低減したように感じます。去年もジル サンダーを購入しましたが、それはフィジカルでショーを見ていたから。インポートブランドのショーが見られていないので、必然とインポートの服を選べないという感覚が正直ありました。そのため今年はフィジカルショーを見れた国内ブランドの服を多く買った年になりましたね。ということで、ジル サンダーでは服じゃなくてアクセサリーを選びました。
F:アクセサリーはよく身に着けますか? あまりイメージにありませんでした。
小笠原:確かに最近はあまり着けなくなりましたね。若い頃は「クロムハーツ(CHROME HEARTS)」をジャラジャラ着けていたりもしたんですが、実はすぐ失くしてしまう癖があるんですよ。パリの蚤の市で見つけたヴィンテージシルバーブレスレットを気に入ってよく着けていたんですけど、コレクション時期にニューヨークからロンドンに移動した時にないと気づいて。どこで落としたのかもわからないんです(笑)。
F:愛用したアクセサリーが世界各地に散らばっているんですね(笑)。ちなみに結婚指輪はどこのですか?
小笠原:「グラフ(GRAFF)」です。妻がスタイリストなので、貴金属のクオリティをよくわかっていて。これはある女性編集長にも共感してもらったんだけど、グラフは値段に対しての地金の量が1番多いと思うんですよ。このリングは50〜60万円でしたけど、同じ値段で他のジュエラーで探すと金が薄くなってダイヤのクオリティも落ちてしまうんですよね。そういう意味で、グラフは知名度は高くないけどその分コスパが高いブランドだと思います。
F:ジル サンダーのネックレスもコスパを考えて購入を?
小笠原:いえ、デザインを気に入ってですね。男が着けても違和感ありませんし、仏教的な雰囲気もあって良いなと思って。お店に行っても思いますが、やはりジル サンダーのプロダクトはクオリティが高いですよ。
F:どういうアイテムと合わせていますか?
小笠原:まだ暖かい時は白とか黒のシンプルなTシャツに合わせていましたね。ちょっとヒップホップテイストになるんですよ。結構重量感があるので、これは流石に無くさないと思います(笑)。
KIDILL×Dickies コート
小笠原:2021-22年秋冬シーズンの「キディル(KIDILL)」と「ディッキーズ(Dickies)」のコラボレーションコートです。2021-22年秋冬はキディルばかり買ったんですよ。
F:キディルは今絶好調な国内ブランドの1つですね。
小笠原:デザイナーの末安さん(末安弘明)は何年か前から知ってるんですけど、実はちゃんと話したのは去年の年末で。パンクな感じは好きなんだけど、パンクって何か既存のものに対して異を唱えるものであるはずなのに、パンクという形式やアイコンを使ってパンクを表現するのは矛盾していない? ということを彼に伝えたかったから、年末に長いインタビューをして色々と話を聞いたんです。そうしたら、1月のショーがすごく良くて、いくつか買おうとなりました。
F:記号化させずパンクを本質的に表現できていた?
小笠原:そうですね。それまではパンクのアイコニックな人たちとのコラボばかりだったので、そうじゃない形で表現していたのはすごく良かったですね。ショーの後に彼にも伝えたんですが、パンクは男性より女性の方が自由なんですよ。男性は様式を勉強して着るところがあるんだけど、女性はゼロベースで自由に着ている。その方がパンクの精神性に合っていると思うんですよね。だから女性のモデルが着ているルックの方が良かったと感想を伝えました。
F:その中でこのコートを選んだ決め手は?
小笠原:率直にすごく面白いなと思ったからです。もっと似合うコートもあったんですが、マッドサイエンティストみたいでいいなって。うちの大阪出身のスタッフには「坂田師匠かよ」と言われましたが(笑)。
F:確かにこのペイント柄だとツッコミが色々と入りそうですね(笑)。どういったアイテムと合わせていますか?
小笠原:今日着ているものにも合わせたりしますよ。ちなみにこのTシャツは渋谷にある居酒屋「なるきよ」が作ったブランドのものです。確か2022年春夏にデビューかな。これはノベルティとしてもらったんですよ。
F:小笠原さんは8歳になる娘さんがいますが、派手な格好に対しては何と? この取材中も後ろで「変な服ー!」と言われていますが(笑)。
小笠原:ご覧の通りワーワー言われていますよ(笑)。それこそ授業参観などの学校行事にパパは来ないでと。この間運動会に、「プラダ(PRADA)」のバナナとファイヤー柄のシャツで行こうとしたら娘に全力で止められましたね(笑)。友達の前では派手な格好をして欲しくないみたいです。
F:理解されるにはもう少し時間が必要かもしれませんね(笑)。
小笠原:そのくせ着たがるんですよ、私の派手な服を。昨日も「トーガ(TOGA)」のブルーとオレンジのニットを見て「サイズが合うようになったらちょうだい」と言うわけです。
F:英才教育が進んでいますね。娘さんがファッション業界に入りたいと言ったらどうしますか?
小笠原:入るのは自由だけど、軽い気持ちでデザイナーになりたいと言っていたら「そんな甘いもんじゃないぞ」と言うでしょうね(笑)。
KIDILL ガウン
F:次もキディルの2021-22年秋冬コレクション。薄手のガウンですね。
小笠原:さっきのコートにレイヤードしてもいいですし、柄も気に入っています。このガウンを買ってしばらくして、「コム デ ギャルソン オム プリュス(COMME des GARÇONS HOMME PLUS)」が2022年春夏コレクションを発表しましたが、ショーではコートやロングシャツをドレスのように着る提案をしていましたよね。ジェンダーをめぐって男性がどんな格好にアプローチするのが新しいのかというのを川久保さんはドレスに見立てたコートやロングシャツで表現したと思うんですが、キディルも同じような提案をしていたんですよね。
F:キディルの前身となるブランドは「ヒロ(HIRO)」ですが、その時代から末安さんのクリエイションは見てきたんですか?
小笠原:彼がロンドンでやっていた頃は見れていないんですよ。マスイユウなんかがよく言っていますが、ロンドンにいた時の彼は誰よりもぶっ飛んだ格好をしていたみたいですもんね。「それもう裸じゃん」という姿でクラブにいたらしいから(笑)。
KIDILL カーディガン
F:三度、キディルの2021-22年秋冬コレクションのアイテムですね。
小笠原:今までキディルは一度も買ったことがなかったんですけどね(笑)。ショーを見たあとすぐに末安さんに「あのピンクのカーディガン買うわ」と連絡したくらい即決でした。
F:小笠原さんは良くピンクを着ているイメージがあります。
小笠原:10代の頃から好きなんですよ。ちなみにマスイユウも同じものを買ったらしいです。
F:キディルを高く評価している?
小笠原:そうですね。日本のブランドの中では。
F:近年、プロダクト寄りの服を作るデザイナーが増えているように感じますが、小笠原さんはやはりファッション性を大事にしている?
小笠原:プロダクトとしての服とエモーショナルなものをもたらす服のバランスが自分の中では大事で。プロダクト寄りのデザイナーは「果たして本当に新しいものが必要なのか」という考えを持っていて、それももちろん理解できるんですが、やはり30年この仕事をやってきて色々な服を持っているからこそ、これ以上服を買うとすれば何か気持ちを動かしてくれないと買えない。それには新しさが必要なんですよ。もちろんこれは個人的な話で、ファッションには何が正しいかなんてものはないし、様々な方向性があって良いと思いますけど。
F:キディルにはエモーショナルな部分を感じたわけですね。
小笠原:2021-22年秋冬はそうですね。
F:ちなみに今、繊研新聞にはファッションショー取材を行うコレクション担当記者は何人いるんですか?
小笠原:3人ですね。来年1月のロンドンのファッションウィークは行きたい気持ちはありますが、会社のジャッジ待ちという感じですね。
F:以前のようなファッションウィークのサイクルには戻らないと思いますか?
小笠原:戻る気がしますね。でも、ファッションサイクルのスローダウン化についてドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)が提言していましたけど、結局始まっちゃうと全然変わっている感じしなくないですか? プレコレクションもやっていますし。人の服の買い方は変わるかもしれないですが。
F:ネットで服を買ったりもしますか?
小笠原:あまり買わないですね。ランニング用のスニーカーは買ったりしますけど、服は買ったことがないです。ネットだとときめかないんですよね(笑)。それがこれからのeコマースの課題だと思うんですが、現段階のネットの売り場を見ても気持ちは上がらない。色々なものを見て経験してしまっているから、それがネットだと材料が足りなくて選べないというか。これはコレクションも同じですね。やはりネットで映像を見ても、実物のショーを見てるのと比べて情報量が少なすぎるからそこまで踏み込んで書けませんし、欲しいという欲望も生まれにくいなと。
F:個人的にパリコレのムービーを見るのは結構辛かったです(笑)。
小笠原:同意見です(笑)。デザイナーのトークライブをやったりとみんな色々工夫していますが、やはり今までのこのデジタルの努力はなんだったんだってくらい、圧倒的に実物を見るほうがいい。色んな工夫をしたけどそんなもんは遥かに及ばないというか、見た瞬間に一発でわかってしまう分かりやすさ、服の持っているテンションやエネルギーを伝えるのにショーに勝るものはないんですよ。だから結局あの見せ方に戻るしかないんじゃないかなと考えています。ただ事前のティザー公開など、コロナ禍で得たデジタルのテクニックは今後も活用できそうですけどね。
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