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アパレルが「定番を長く売る」ことをメインにしても業績改善しない理由

繊維業界記者・ライター兼広報アドバイザー
南 充浩

「定番を長く売る」ことがアパレルの収益を改善するという説が最近強調されている。

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しかし、個人的にはこの説には疑問しか感じない。

変わらない定番品を売り続けることを否定するつもりはないが、衣料品の場合は「定番」をメインにすれば翌翌年からの売れ行きは確実に鈍る。

要はバランスの問題で、適正バランスはブランドによって異なるので一概には言えない。

個人的には「定番」なるものはあっても2~3型程度で良いと思っている。10型・20型もあるとそれは逆に多すぎて「変わり映えのしないブランド(店)」というふうに消費者の目には映り、今年買えば数年間は買わないという具合になってしまう。

「変わらない定番」を看板にして商売が成り立つのは飲食店(チェーン店を含む)・飲料食料品ではないかと思う。

「創業から変わらない名物〇〇の味」なんていうのが珍しくないし、それを求めて毎日お客が来る。また飲料食料品で言っても、コカ・コーラとかサッポロ一番塩ラーメンとか、何年かに一度微妙に変わる部分もあるが大枠はほとんど変わっていない。

これらがなぜ成り立つかというと、一つには「消え物」だからという部分が大きいだろう。いくら美味しくてお気に入りの味でも食べてしまえば無くなってしまうので、その都度必要になる。

となると「毎日でも食べたい(飲みたい)」という欲求が発生し、それを解決するためには毎日買う(食べに行く)必要が出てくる。

「いつも変わらない定番品ばかり」では、いずれお客に飽きられるから、新商品・新メニューも定期的に提案されるが、それはアパレルで言うところの「アクセント商品」的に何品番かを差し込まれる程度に過ぎない。

あくまでも7~8割を占めるメイン品番は「変わらない定番」である。

一方、アパレルだと、いくら優れた品番が完成しようとも、それをメイン商品として売り続けられるのは2シーズンか3シーズンが限界だろう。

理由は、一度買って使っても商品は「消えない」からである。

事故にあうとか、予期せぬアクシデントが起きるとか、そういうこと以外では、衣料品は1度着てすぐに破損してしまうことはない。

着用頻度や物性にもよるが、少なくとも3年間くらいは着ることができる。長ければ10年、20年と着ることも可能だろう。

となると、この間、この「定番」を翌年、翌々年に買い足すことはほとんどない。よほど惚れ込んだお客が、破損したとき用として、もう1枚買い足す程度だろうし、その人でさえ、さらにもう1枚買い足すことはしない。

だから「定番」といえども、飲食店・飲食料品とは異なり、アパレルの場合、定番比率を高くすればするほど、翌年以降の売上高は低下する。

また、定番品ばかりだと、店頭も「変わり映えしない」というふうに見え、そのせいで客入りが減少する可能性も低くない。

恐らく、色・柄についても同様で、定番として売れる黒・紺・グレー・白・ベージュなどばかりでは、店頭は著しく面白味に欠ける。その典型が無印良品の衣料品だろう。

無印良品はブランドコンセプト自体がそういう定番的なものだから、品揃えが合致しており、それ故に支持者も多いと考えられるが、衣料品部門が常に苦戦傾向で伸びないのは、変わり映えしない店頭の見え方によるところも大きいのではないかと当方は考えている。

だから、赤、オレンジ、黄色、グリーンなどのアクセントカラー商品がアパレルには必要になる。

一方で、このアクセントカラー商品は売れ残りやすいので、現在では各ブランドは生産数量は少なめに設定しているようだとユニクロやジーユーの店頭を見ていても感じることが多い。

アパレルの場合、毎年継続的に買ってもらおうと思うのであれば、新商品をメインにして定番品は一部を残す程度でなければ難しい。

「ユニクロは定番品を長く売っている」という理屈が業界のエラい人の間で流布されているように感じるが、その認識は誤りであると言わざるを得ない。

理由はユニクロ、ジーユーともに年番号と季節番号を必ずどの商品にも付けているからである。

年番号とは西暦何年、季節番号とは春=1、夏=2、秋=3、冬=4であり、これを必ずすべての商品に添付している。ということは、どんなに「定番」に見える商品でも1年間で売り切る(売り切ろう)という意思の表れであると見ることができるのではないか。

1年間で売り切ろうという意思が無いのであれば、年番号の設定は不要だろう。

1年で売り切る意思も無いのに、わざわざ「2020年商品」「2021年商品」などと決める必要がない。

国内8000億円の売上高を誇る巨大ブランドに成長した現在は、店舗によっては2年前の在庫商品を値引き販売していることもあるが、ユニクロの理想は1年間で売り切れることであり、年番号・季節番号の設定がそれを証明している。

この「定番を長く売る」という手法がアパレルでは通用しないということは、ライトオンやマックハウスに代表されるジーンズチェーン店各社の凋落、経営破綻が相次いだジーンズメーカー各社の没落、山喜以外を残してほぼ消滅した大手ワイシャツメーカー各社の破綻、ですでに証明されていると考えるべきではないか。

ジーンズメーカーもワイシャツメーカーも「定番品を長く企画製造販売」してきた。その結果がこれである。

またジーンズチェーン店もリーバイスの501、エドウインの503などをメイン商材として高い構成比を維持し続けてきた結果が2010年以降の苦戦・経営破綻である。

「定番を長く売る」ことでアパレルの業績が回復するということは「あくまでも理論上は」ということに過ぎない。それが可能なら大手ワイシャツメーカー各社も消滅しなかったし、ジーンズメーカー大手各社の凋落も無かっただろう。

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