COVID-19で需要が拡大した通称「サブスク」ことサブスクリプション。日本でもそのサービス幅は広がりを見せている。代表的なものは、Netflix、Apple Music、Spotifyなど。こういったものはもはや生活になくてはならないサービスになっている方も少なくないのではないか。
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最近では水、食品、サプリメントなどが定期的に家まで届くサービスも登場してきており、コロナ禍の「おこもり需要」に応えている。
今回はそんなサブスクリプションサービスの中でも、アメリカの「サブスクリプションボックス」に焦点を当ててご紹介する。サブスクリプションボックスとは言葉の通り、自分が注文した物がボックスに入って家まで届くサービスのことだ。
「ボックス」であるメリットは?
商品だけが届いてもサブスクリプションとしても機能を果たすが、わざわざボックスに入れて提供しているのは何故か。その理由は大きく2点だ。
1. セレンディピティ
セレンディピティとは、思わぬものを偶然に発見すること。「こんなのが欲しかった!」という予期していなかったプロダクトに出会える可能性があるところはサブスクリプションボックスの一つの特徴だ。
サブスクリプションボックスには何が送られてくるかわからないものも多い。新たな出会いのワクワク感があるのは「開けるまで分からない」サブスクリプションボックスの強みだ。
>>パーソナライズの死角とデジタル・セレンディピティ
2. ワクワクする開封体験
ボックスを開けるとき、まるでプレゼントを開ける時のような体験ができるのも特徴の一つ。入っているものがわからない時はもちろん、何が入っているかわかっている場合も、自分が選んだものが入っている箱を開けるワクワク感が体験できる。
>>D2Cの開封体験デザイン – ブランドに学ぶカスタマーと繋がる方法
アメリカで人気の最新サブスクサービス5選
・【ワインのサブスク】Vinebox.
・【洗剤のサブスク】CleanCult.
・【おもちゃのサブスク】Kiwico.
・【訳あり野菜&果物のサブスク】Misfits Market.
・【エシカルプロダクトのサブスク】Causebox
【ワインのサブスク】Vinebox
Vineboxは、認定ソムリエたちが厳選したワインがグラス一杯分(100ml)×3種類送られてくるサービス。ワイン通向けというよりは、ワイン初心者が「お気に入りの1本」を見つけるのに最適なサービスだ。
黒を基調とした高級感のあるボックスが特徴で、ワインも一本一本、香水を思わせるような細い容器に入っている。毎回異なるワインが送られてくるため、ボックスを開けて新たなワインと出会う楽しみが感じられる。テイスティングをする感覚で利用できるサービスだ。
プロのソムリエが厳選した味といえど、自分の口に合わないワインであれば、いくら良いワインだったとしてもワインボトル1本を消費するのは意外と苦労するもの。新たな味を求めて冒険しようと思っても、ワインボトル一本買うことは意外とハードルが高い。
このサービスを使えば、お気に入りの一本を見つけるためにワインを丸々一本買う必要はなく、口に合わないワインだった場合に余らせてしまうことも起こらない。もう飲まないボトルが家に何本もある、という状態にもならずに済む。
ワインにとって重要な鮮度も担保されている。ワインボトルから小分けにするときも、酸素に一切触れずに入れ替える技術を用いて、鮮度の高いワインを提供している。(HPより)
>>ミレニアル世代の飲みスタイルを捉えたスタートアップ3選
【洗剤のサブスク】CleanCult
CleanCultは、自分の好きな種類の洗剤を、好きな香りで、自分に合った周期で届けてくれるサービスだ。扱っているのは植物由来の材料だけを使った無添加洗剤のみ。
最初のオーダーはガラスのボトルに入った状態で送られlくる。そして、その後に送られてくるリフィルも、環境負荷の少ないカーボンニュートラルな素材の、カラフルな牛乳パッケージのようなものを使用している。
Cleancultの誕生の背景には、ファウンダーのライアン・ラップバーガーの強いこだわりがあった。彼はあらゆるプロダクトの成分表示をチェックせずには居られない性格。普段から食品やシャンプーの製品ラベルを確認して、健康や環境に良いものだけを購入するよう心がけていたそうだ。
しかし、食品や化粧品とは異なり、実は洗剤やハンドソープには成分表示が義務付けられていない。
この手の商品においてラベルをチェックする習慣を維持するのが難しくなったラップバーガーは、やがてサステナブルな製品をアピールしている洗剤ブランドはいくつか存在する。しかし、多くの製品がプラスチックのパッケージを使っていることに疑問を持ち始めた。
こうして、パッケージまでもがサステナブルなCleancultが誕生した。
そんなCleanCultは、ミッションとして”A WORLD OF CLEAN INSIDE EVERY DROP”を掲げている。パッケージ、廃棄方法、全てをサステイナブルにするには?と考えた結果、材料からパッケージング、パフォーマンス、出荷、そして容器のリサイクルまでの全てのプロセスの仕組み化を再考。
結果としてパッケージや洗剤の成分、そして輸送の際の排気ガスの削減にまでこだわったサービスが誕生した。
>>デザインから環境問題を考える。エコ・サステナブル系サービス5選
【おもちゃのサブスク】Kiwico
Kiwicoは知育玩具のサブスクだ。おもちゃのサブスクという子供用を想定しがちだが、おもちゃの対象年齢は児童だけではなく、自分で考えて組み立てるものなど、大人でも楽しめるおもちゃも用意されている。
ボックスの中におもちゃ、おもちゃの説明書が入っており、年齢やおもちゃの内容によっておもちゃ以外の付属品も変わる。
例えば0~36ヶ月の乳幼児向けのおもちゃであれば、子育てを始めたばかりの親向けに「子供との接し方」を説明するパンフレットだったり、おもちゃの使い方を説明するビデオが入っていたりする。
これは、Kiwicoのユーザーとなるのは子供だが、顧客は親ということを炉介した上での設計と言える。子供がおもちゃを使用する際のUXデザインだけでなく、親のCXデザインまで総合的な設計がされているプロダクトだ。
3人の子を育てる「ママ」が起業。その背景とは
KiwiCoを設立したSandraは、彼女自身が3人の子供を育てる母。育児の中で「子供に”何かを自分で創造する”経験をさせたい」気持ちがあったが、そのようなものを自分で見つけて子供達に提供する難しさを感じた経験からKiwicoを立ち上げた。
会社のVisionは「To inspire the next generation of innovators.」子供たちの問題解決スキルを育成し将来の課題解決に役立てることをミッションとしている。
おもちゃを開発しているのは教育者、メーカー、エンジニア、ロケット科学者のチーム。ブレインストーミング、プロトタイピング、実際に子供達に使ってもらってテストすることを繰り返して、なんと1つのおもちゃを作るのに1000時間以上を費やしている。
母親が実の子供に対して提供したいことを徹底的に考えた結果できたサービスだ。
>>UXデザインとCXデザインの違いとそれぞれの役割
【訳あり野菜&果物のサブスク】Misfits Market
Misfits Marketは、安価で手に入る農作物を消費者に届けるサブスクリプションサービス。
形の悪い作物を安く手に入れた分食品を安く提供することで消費者に還元する仕組み。これは実は日本でお馴染みの無印良品と似た取り組みだ。
干し椎茸はそのまま食べるわけでもなく、見栄えにはあまりこだわらないはず。多くの場合、おいしい出汁がとれればいいわけで、割れているものでも風味は変わりません。私達は、形の悪いものもすべて買い取り、サイズや形の選別もせず、また、包装の簡略化ということで、パッケージはおなじみの透明な袋に商品名を印字しただけ。
品質はそのままに、あらゆる無駄を省いたことで、従来品より価格を3割ほど抑えることができ、その結果、大ヒット商品となりました。《引用》日本発「無印良品」から世界の「MUJI」へ【第2回】
実はアメリカは農業大国であるが、生産されている1/3の農作物が食料品店基準を満たさず、収穫されずにそのまま処分されたり、収穫されても店頭に並ばなかったりする。またその影で何百万もの食糧不足で苦しむ世帯が存在することも事実。
こうした生産者と消費者それぞれが抱える問題をを解消するため、サービスが誕生した。Misfits Marketsには産地直送の農作物が90種類以上用意されている。
産地直送ゆえに野菜の鮮度が失われてしまうことがなく、届くのは形が悪くても高品質で無農薬の新鮮な野菜ばかりだ。
blogも運用しており、野菜を使ったレシピや野菜の栄養素、豆知識に関して発信もしている。野菜を買ってからどのように調理するかまで含めてサポートしている。
実は2020年の7月に約91億円の大型資金調達をした期待のスタートアップでもある。
>>食の多様性を支えるフードテック・スタートアップ3選
【エシカルプロダクトのサブスク】Causebox
最近日本でもよく聞く「エシカル」という言葉。エシカルプロダクトとは、自然環境に配慮した製品や、社会問題の解決に貢献する仕組みを組み込んだ製品のことを指す。Alltrueは、エシカルプロダクトを集めた、女性向けのサブスクリプションボックス”Causebox”を提供している。
Causeboxはシーズンごとに手元に届く仕様。年間通して4回届くアニュアルプランと、ワンシーズンごとに注文するプランがある。
1つのボックスにつきエシカルプロダクトが5~8個入っており、それぞれのプロダクトは「女性の活躍支援」「環境保護」「職人の手作り商品」「チャリティー」「スモールビジネス」のいずれかの分野に関連している。
毎回商品が届くとYoutubeで”unboxing(開封)”動画が公開されている。その鍵は、女心をくすぐる「映える」デザインのボックスであること。思わず動画を撮ってしまいたくなるデザインで、まさに開封体験までこだわったサブスクリプションボックスと言える。
最新の2021年秋に届いたボックスの開封動画も複数投稿がある、人気のサブスクリプションボックスだ。
>>エシカルデザインとは
日本でのサブスクスタートアップの状況は?
実は日本にもサブスクリプションボックスのサービスが増えつつある。日本のサブスクリプションボックスは「パーソナライズ」が鍵。
今回は2つのサービスをご紹介するが、どちらも避けたい成分を選択できたり、フィードバックやリクエストを送ったりすることで自分好みにより近づいていく仕様になっている。
アメリカよりもなぜ「サブスクリプション=パーソナライズ」の色が日本では強いのか。それは日本人のとある国民性の影響が考えられる。
実は日本人は「失敗したくない」と言う気持ちが人一倍強いと言われている。日本の終身雇用制度や、学歴社会はその代表格だ。一旦レールから外れるとやり直しが効きにくいので、皆がレールを外れないように(リスクを取らないように)行動する傾向が他国に比べて強い。
>>日本では完全に敗者だった【インタビュー】btrax CEO, Brandon K. Hill
それゆえ、「何が届くか全くもってわからない」状態では日本人には受け入れられにくい。中身が完璧にわかっていなくとも、「自分好みのものが届く可能性が高い」状態に持っていくことが鍵となる。
そのために日本のサブスクリプションボックスでは「パーソナライズ」が強く押し出されているのだろう。
日本でも広がる サブスクリプションボックス2選
そんな「パーソナライズ」に特化した、サブスクリプションボックスのサービスを紹介する。
・【コーヒーのサブスク】PostCoffee.
・【おやつのサブスク】Snaq.me
【コーヒーのサブスク】PostCoffee
Postcoffeeはコーヒーのサブスクリプションボックスだ。
初回の注文の際は好みのコーヒータイプ診断をし、ライフスタイルや嗜好に関する10個の簡単な質問に答える。これにより、約15万通りの組み合わせからその人に合った好みのコーヒーが3種類届く。淹れ方や飲む頻度、量なども指定可能だ。
一度届いたコーヒーに対して味や好みのフィードバックや飲みたいコーヒーのリクエストを送ると、送られてくるコーヒーが注文者好みに近づいていき、届くたびに自分好みのボックスに近づいていく。
サブスクリプションでありがちなのが「◯回以上は商品を買い続けなければいけない」という「定期縛り」。しかしPostcoffeeは最低契約期間も設けていない。
いくらパーソナライズされるからといって完全に自分好みのものが届くは限らない。「気に入らなくてもすぐに辞められる」という心理的安全性も担保し、サブスクリプションを始める障壁も極限まで低くしたサービスと言える。
【おやつのサブスク】Snaq.me
Snaq.meはおやつのサブスクリプションボックスだ。
こちらも好みのおやつ診断を事前に実施し、100種類以上のおやつの中から好みに合ったものが選ばれて届くサービスだ。人工甘味料や着色料などは使用していない素材を活かしたおやつが揃っている。
こちらも、避けたい食物の成分を選ぶとその成分の入っていないお菓子を選べたりと、細かく指定可能だ。
お菓子という単なる「モノ」ではなく、おやつ時間、そしてワクワクしたり楽しんだりする体験、つまり『おやつ体験』を提供するというコンセプト。日常をちょっと良くする「おやつ時間」を気軽に楽しんで欲しいという気持ちから誕生したサービスだ。
実はSnaq.meは2016年からあるが、2020年にサービスをリファインした。ブランドを変えるリブランディングやリニューアルではなく、今まで作り上げてきたものを言語化し、洗練させる、という意味での「リファイン」。ブランドロゴ、ブランドビジョン、ブランドストーリーなどを再定義している。
おわりに
開封体験には、カスタマーと繋がり、ブランドの価値を高める可能性が詰まっている。そのためには、ターゲットとなるユーザーのニーズを理解し、彼らに響くサービス開発、開封体験をデザインすることが重要だ。そしてもちろん、ユーザーの共感を得られるようなブランドストーリーを的確に伝えることも必要だ。
>>人々の心を掴むブランドストーリー 5つのポイント
そしてユーザーニーズの把握はもちろん、環境問題、食料廃棄問題、女性のエンパワーメントなど、よりマクロな社会の流れを把握してプロダクトに反映させることも鍵となる。
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