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学生服廃止のメリットは少ない?学生服業界を取り巻く難問の数々

繊維業界記者・ライター兼広報アドバイザー
南 充浩

自分がやむを得ず独立してしまったのは11年前のことになるが、その時点でも繊維業界記者歴は13年くらいは経過していた。当方のような能力の低い人間はつくづく独立などすべきではなかったと思う。

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ちょうどその頃、2010年前後のことだったと思う。

ジーンズ専業メーカーというのは、2021年の現在、随分と様変わりしてしまっているが、元々は岡山・広島が強かった。特に、備前・備中・備後(合わせて三備)と呼ばれる地区が強かった。

岡山と福山を合わせた感じの地域である。

アパレル川下の人たちもこの辺りが、デニム生地やジーンズ製造の一大拠点だということはご存知だろう。

それと同時にワーキングユニフォーム、学生服の一大拠点でもあることは、川上・川中の人はさておき、川下の方はあまりご存知ないのではないかと思う。

で、その頃、業界の古株大先輩から「三備では、ジーンズメーカーはいまだに新参扱い、ワーキング、学生服が老舗という意識が強い」と教えられて、当時業界歴10年超の当方は驚いてしまった。まだまだ業界の奥は深く、歴史は重いのだと。

たしかに歴史的事実を照らし合わせると、戦後1960年代にようやく立ち上げられたジーンズ製造と、戦前から存在したワーキング、学生服との時間的長さは大きく異なる。ワーキング、学生服は圧倒的に古い。

逆に、生地が厚いワーキング、学生服を縫製する設備と技術があったからジーンズ製造へ転用されたというのが事実である。

しかし、そんな長い歴史の学生服も普段、広い意味でのアパレル業界ではあまり意識されないし、学生かその親以外の消費者にもあまり意識はされない。

子育てが終わった当方が子供服というジャンルの存在を全く忘れているのと同様である。

ユニクロ制服、大宮北高が採用検討 上下そろえて費用は3分の1に 保護者ら「価格は魅力的、でも…」(埼玉新聞) – Yahoo!ニュース

というニュースがアップされ、当方はいつものごとく流していた。

ブランドとのコラボなんて学生服では日常茶飯事だからだ。ユニクロもやり始めるんかなあ、という程度だった。

ところが、SNS上では結構な話題となっており、改めて驚かされた。え?話題になっちゃったんだ?と。

改めて世の中の人の多くは、衣料品分野において「ユニクロ」という名称にしか反応を示さないということを再認識した。

埼玉県さいたま市北区の同市立大宮北高校(竹越利之校長)は、2022年4月から制服にユニクロ製品の採用を検討している。

とあるように、決定したわけでもなく「検討している」段階に過ぎないのに。「検討」だけでもニュースに採りあげるというメディアの体質もすさまじいが、それに反応してしまうマス層もすさまじい。

なぜ、当方がユニクロの学生服にあまり関心がなかったかというと、学生服とブランドのコラボなんて自分の経験だけを鑑みても過去20何年間日常茶飯事だったからだ。

HIROKO KOSHINO – 学生服・スクールユニフォームメーカー 瀧本株式会社 スクールタイガー (takimoto.co.jp)

BEAMS SCHOOL product by KANKO :: カンコー学生服 (kanko-gakuseifuku.co.jp)

とこんな具合である。

例えば、瀧本のスクールタイガーはデザイナー、コシノヒロコとコラボをしているし、カンコー学生服はビームスとコラボをしている。

こんなものは、学生服業界では日常茶飯事である。

学生服向けのセーターやブラウスなどではイーストボーイが有名で、学生間では人気が高いと聞いている。

イーストボーイ公式通販 – 制服・スクールアイテム (eastboy-ec.jp)

これらは氷山の一角でググればもっとたくさんの事例が出てくる。

しかし、これらのいずれもマス層には大した話題にもなっておらず今に至っている。

逆にいうと、それほどに「ユニクロ」への注目度はメディアもマス層も高いということである。というか、洋服のブランドといったら、ユニクロ、ジーユー、しまむら、ワークマンくらいにしか知識と関心がないのではないかとさえ思ってしまう。

ユニクロからすると、ワーキングユニフォーム狙いのネーム刺繍入れサービスに続く、カジュアル以外の新しい販路ということになる。

メディアやマス層が興味を示すのは、価格である。

ユニクロ製品を選択した場合、制服の購入にかかる初回の費用は、現状から約3分の1の価格に抑えられるという。(現在の制服の)購入費用は、1着4~6万円。

とのことでこれが1・5~2万円くらいになるというわけだ。

学生服は高すぎる、安くすべき、という意見が多いことは承知しているが、ユニクロを選べばいいじゃないか、と簡単に言うことは当方は危険だと考えている。

理由は、学生服産業は、冒頭でも述べたように三備地区の地場産業であるという点である。学生服産業を壊滅させると地場産業の一つも壊滅してしまうということになる。ちょうど豊岡のランドセル問題も同様である。

普段、ユニクロ一極集中が問題だと言っている人ほど、学生服までをユニクロに牛耳られ、三備地区の地場産業の一つまでを壊滅させるようなことに手を貸すべきではないといえる。

その一方で、学生服業界自体にも問題はある。原材料費などの高騰や学生人口の減少傾向から、学生服自体が値上がりする傾向にある点だ。学生服業界は先も述べたように様々なブランドやデザイナーとコラボをするが、これは値上げのための手段に過ぎないという要素も大きい。

当方の顔見知りの地方の学生服販売店の社長も「値上げするためのブランドコラボはちょっとひどすぎる。値上げせざるを得ない事情はわかるが、そろそろ価格も上限に達しつつある」と指摘している。

たしかに、売上高は買い上げ客数×客単価という公式になり、学生人口の減少で客数が低下しているなら、客単価を上げるしかないという業界の狙いはわかる。

だが、当方の中学生・高校生の時の学生服は総額6万円もしなかった。もちろん、物価は多少は異なっていただろうが、せいぜい3万円くらいだっただろう。そして、30年前の物価と今の物価は大きくは変わっていない。個人的には学生服は一式で3万~4万円くらいに抑えるべきだとは思うが、学生人口の減少をどこで補うのかは簡単に答えが出ない。

学生服メーカーは厚地織物縫製の技術を生かして、他の衣料品分野へ進出すべきという意見もあるだろうが、簡単に進出できるジャンルなど残されていない。

ワーキングはすでに老舗大手が固めているし、ジーンズカジュアルは生き残りが難しい分野である。通常のカジュアルはそれこそ群雄割拠で今更学生服メーカーあがりが割って入ることなど不可能に近い。スーツ分野の需要が伸びないのは散々指摘されている。

一方で、家計負担の観点から安易に学生服を廃止して、カジュアル化を求める声もあるが、恐らくは考えているほど生徒の家庭の家計負担は減らないだろうと考えられる。

毎日着替える必要はないと言っても、汗をかいたりしての着替えは必要だから週5日通うのに3セットの着替えは必要だろう。それが最低でも夏と冬の年二回の衣替えがある。また毎日3セットをローテーションで洗濯して着替えると、色落ちや傷みも生じる可能性があるから、年に何枚かは買い替えることになる。とすると、年間の生徒への衣料費支出は3万円くらいにはなるのではないかと思う。また3年間の通学を考えると、場合によっては学生服の方が安かったという場合すら出るのではないかと思う。

また、制服には「パッと見ただけでは貧富の差がわかりにくい」という利点もある。これがカジュアルになると格差が簡単に見えるようになる。毎日、全身しまむらとか全身ユニクロ、全身GAP(しかも値下がり品)みたいな生徒と、百貨店ブランドの服で身を固めた生徒がまるわかりとなる。

襤褸は着てても心は錦みたいな話を好む人も多いが、それが理由でいじめが起きる可能性も否定できないのではないかと思う。

となると、学生服の廃止にメリットが多いかどうかも疑問である。

1、三備地区を中心とする地場産業の維持
2、学生人口の減少とそれに対する対策
3、学生服廃止のメリットとデメリットのバランス

と3つの大きな課題が見て取れるが、難問ばかりである。

これは学生服業界が率先しながら、外部とも議論を重ね、連携しつつ取り組まねばならない難しい課題だといえる。

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