大丸松坂屋百貨店(全国9店舗)の化粧品売り場が新たな姿を模索している。コロナ禍でインバンド比率が高かった心斎橋店をはじめとしたリアル店舗の“通常運転”がままならない状況を振り返り、これまで店頭基軸の戦略を見直し、OMO戦略を加速する。同社の中期3カ年計画で、オンラインにフォーカスしながらも、店舗は「モノを売る場所」から、価値あるコンテンツを伝達する「オフライン上のメディア=リアル・メディア」と捉え直した。その中心となるのは「人の力」。人が軸になるOMO戦略とはーー。
9店舗合計の2021年1~6月の売上は前年比5%減となったが、藤原唯ビューティ&ウェルネス担当マネージャーは、「昨年は4月に臨時休業し売り上げがなかった時期もあったが、1、2月はまだ渡航もできインバウンド比率のインパクトが大きくあったことで、前年と比較すると落とした。ただ、ECは70%増で推移し、コロナ禍となりオンライン戦略を加速度的に進め、お客様が楽しめるコンテンツを実践的に模索することができた貴重なタイミングだった」と語る。
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楽しめるコンテンツは、まずウェビナーやオンラインカウンセリングの実施でコミュニケーションを図った。オンラインカウンセリングは「店頭ではすっぴんになるのを躊躇しがちだが、オンラインだと自宅からの参加で美容部員とは1対1とハードルが下がったようだ」とし、ウェビナーは「リアルでは難しい内容を発信できる点は大きな利点で、実際に複数人が同時に参加するフェイスマッサージなど好評だった」と評価する。実際には対面しないオンラインでありながら、「パーソナルなところまでしっかり話せるコンテンツの可能性が見出せた。ファーストステップから美容部員と一緒にスキンケアをしたり、メイクまで一気通貫で紹介するなども今後検討したい」と藤原マネージャー。
百貨店の化粧品売り場において、ブランドの魅力を熟知し顧客に寄り添った提案を行う美容部員は、「人の力」の最たるものだろう。「化粧品は質感の説明やハウツーのような、人を介した情報はお客様にとって参考になる。オフライン、オンラインいずれにせよ、お客様とコミュニケーションを密に取れているブランドはコロナ禍でも強いと感じる」。「シスレー(SISLEY)」や「ドゥ ラ メール(DE LA MER)」といったスキンケアブランドのほか、「ジョー マローン ロンドン(JO MALONE LONDON)」「シロ(SHIRO)」「パルファン・クリスチャン・ディオール」のフレグランスブランドなど、実際に肌で感じたり嗅覚が重要なスキンケアやフレグランスで、日頃のカウンセリングで顧客との密な関係を築いているブランドが好調に推移しているという。
コロナ前から進められいた組織改変においても、コロナを経て加速する。新たにビューティ&ウェルネス部門を設立。画一的なビューティに捉われず総合的なウェルビーイングの視点で、「人の力」を軸に出店ブランドの交渉やコンテンツ制作を進めている。組織改編以前の2019年には、大丸梅田店にフェムテックアイテムも取り扱う新ゾーン「ミチカケ(michikake)」を開設し、話題を集めた。ニッチなニーズを拾い、幅広い商品展開だけでなく、オンライン・オフライン両方でセミナーを開催するなど、“メディア”として啓発活動も実施する。また、新体制では口コミで広まったニッチブランドをいち早くポップアップなどに誘致する”気鋭ブランド担当”も設け、美容家や芸能人の使用レビューで話題となったブラシ型の低周波モバイル美容機器「デンキバリブラシ」のポップアップを複数の店舗で行ったところ、いずれも予想を超える反響で手応えがあったという。
実際のメディアではコスメ情報を発信する「デパコ(DEPACO)」でも「人の力」が見える。化粧品バイヤー、ビューティアドバイザー、プロモーション担当など多様な視点で商品を特集。外商(お得意様営業部)担当による”VIP御用達アイテム”を座談会形式で紹介するなど、「親しみやすく、つい読んでしまう」ような記事が豊富だ。同社は2021年度内に新サイト「コスメOMOショッピング」を立ち上げる予定で、これまで実施してきたライブ配信をはじめとしたオンラインコミュニケーションやデパコでのコンテンツ、店頭サービスなどを融合したサイトを設計する。
OMOの拡充はオフラインの充実も必須だ。店頭開発も積極的に取り組むとし、9月には大丸心斎橋店に「セルヴォーク(Celvoke)」をオープンし、今後は松坂屋名古屋店のパルファン・クリスチャン・ディオールをリニューアルするとともに南館に「ディオール バックステージ(DIOR BACKSTAGE)」のオープンを予定する。下半期(9~2月)はオンラインカウンセリングやライブ配信といった顧客参加型のコンテンツを拡充するほか、デジタル強化と同時に来店の導線整備を進めながら、前年比2桁成長を目指す。
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