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モードノオト 2021.09.04

「FACE. A-J」2022春夏コレクション

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Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

「FACE. A-J」2022春夏コレクション

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ファッションジャーナリスト
麥田俊一

 劈頭一番に弁解をすると、前回の稿にて、紙の上のインクの染みなどと取るに足らぬアナクロニズムを露呈したからだろうか、昨日の早朝よりインターネットを繋げているPCが不具合をきたし、その復旧に甚く時間を要したので「シンヤコヅカ」の稿のアップが半日以上遅れてしまった。ひとたびネットが繋がらない仕儀に陥れば、PCはおろかワープロもない頃よりこの仕事をしてきた私のようなロウトル(印刷所には原稿用紙をFAXで送稿していた)に限らず慌てふためくのではないだろうか。スマホがあれば事足りるのだが、スマホさえ持たぬ時代錯誤な私は、ここに至り我が身を呪い殺したくもなった。

 「FACE.A-J」の2022年春夏シーズンのプレゼンテーションを見て思うところがあった。公園通りを目指して霧雨の中を歩いた(会場は渋谷パルコだった)。渋谷は時節を弁えず人流が多い。相変わらずモノも多い。モノは、それでも溢れ続ける。消費社会の宿命だ。モノとしてのモノから、記号としてのモノへの方向に拍車が掛かり、モノと人間の関係が曖昧になってきた。古くは人間が中心にあって、人間のシステムにモノが適合していたのが、いつの間にか、その関係が逆転してしまった。モノは機能的かつ合理的に進化を続ける一方で、人間はそれほど機能しなくなり、寧ろ不合理になりつつある。(かく云う私もその中の一人なのだけれど)昨今の状況に照らし合わせるなら、この渋谷あたりの人流もまた不合理を絵に描いたような現象だと思う。

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「FACE. A-J」2022春夏コレクション

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Image by: FASHIONSNAP(Ippei Saito)

 この場合のモノは、そのまま服に置き換えることが出来る。即ち、服を着る側と作る側の関係が逆転してしまった。これは今に始まったことではない。表層、即ちトレンドを追い求めると本質を見失うことがある。表層は屡々蛇行するものだが、底流は蛇行するものではない。外観(うわべ)と高級イメージを人質に、お客の足もとを見て、とことん小馬鹿にしてきたブランドもある。そんなブランド群が潮流の先頭を切っていたこともあったし、そのせいで、真摯な作り手の言葉がギスギスとして痩せ細っていくのを眼の当たりにして、正直、切ない、と思うことも屡々あった。だが、パンデミックが思わぬ奇貨となった。ブランド(作り手)と消費者の意識や視点を大きく変える契機になった。システムがどのように転換しているかは紙数の都合で割愛する。

「FACE. A-J」2022春夏コレクション
「FACE. A-J」2022春夏コレクション
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 アフリカと日本のクリテーティブ産業を繋ぐプロジェクトとして産声を上げた「FACE.A-J」は、国内外の様々なクリエーターやブランドと協業してきた。デビューとなった2019年10月のプレゼンテーションより欠かさず見ている。4回目を数える今回も民族的な意匠をスタイリッシュに見せていたが、それ以上に含蓄に富んだ提言を感じさせた。南アフリカのコサ族の伝統的なビーズワーク、シンボル、色彩に鼓舞されたポップな意匠を裏書きする人間の叡智に感銘を受けた。ここには、モノと人間との正常な関係が成り立っているのだ。最新のプレゼンテーションは、起業家でありクリエーティブアーチストであるラデュマ・ノゴロが2012年に設立したアフリカのラグジュアリーなニットブランド「MaXhosa Africa」と、東京のニットファッションの製造業者で構成されたプラットホームである「TOKYO KNIT」に参加する6社との協業により実現した。プレゼンテーションでは、初回より「FACE.A-J」のディレクションを担当している栗野宏文氏がDJを務め、点睛も忘れてはいなかった。

 洋の東西を問わず、その地に育み培われてきた伝統的な手工芸の木霊は、多様で異なる要素の中に美を求める。そして人間の手を通して、それは自由闊達で放浪的な探索を経て、素朴だが輝きのあるモノへと変換される。伝統が更新される外観以上に、大切なのはそれがどのようにして作られるかに重きを置くことだろう。ラグジュアリー(本質的な豊かさとか、言語や文化が育む豊かさ)とは時間であり、時間は痕跡を残す。それは伝統についての様々な参考図書を通してのみ得られるのではなく、人間の言葉と叡智より産まれた技術(素材に見られる意匠)に容易く見いだすことが出来る。これら総てに於いて、学び、発展させ、完成させるには相当な時間を要するに違いない。「私たちは、私たちの祖先の見果てぬ夢である」と云うのが「MaXhosa Africa」のメーンテーマだと云うが、それは確固たる意志とともに歩む旅を示唆しているのだろう。(文責/麥田俊一)

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