9M 2022春夏コレクション
Image by: 9M
vol.1で書いた「マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”」の中に、’93-‘94AWで発表したショートムービーが出てくる。「7人の女性」と題して、マルジェラのショーにモデルとして登場する、たいていはマルタンの友人の女性たち7人の日常を描いたファッションムービーを、ショーの代わりに制作したもの。白黒の、画面も荒れている動画が、しかしなんとも生き生きとしてステキなのだ。メトロの階段を女性が駆け上ってきたり、車がひっきりなしに往来するパリの下町のありふれた風景の中での1シーンがあったり、基本的にそれぞれ仕事を持っている女性たちの、働いているところや、家でリラックスしている場面などが納められている(らしい)。
楽天ファッションウィークが、(無論コロナの影響で)オンラインを導入するようになって3回目の今回、さすがにそれぞれのブランドらしさが出てきた。映像を作るにあたって、30年前のマルタン・マルジェラの動画を参照した人はおそらく1人もいないだろう。たまたま私はマルタン自身を主役にしたこのドキュメンタリー映画を見て、マルジェラの魅力の一つに、このスケッチのようなムービー、より正確に言うと、演出されないものの中に潜むファッション的な要素の抽出能力とでも言うものを改めて感じたのだった。
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そういう目で見ると、コレクション2日目の「ナインエム(9M)」が興味深い。京都市伏見区にある久山染工が舞台だ。ここは、デザイナー吉田力の仕事場でもある。一般の人間には非日常的な特殊な場所だが、デザイナーにとっては、日常そのものの、馴染み深いところで、そこに招き入れられた感覚が、なかなかいい。よくありがちな年季の入った機械や作業場への美化がない。ここで生まれたトロピカルな柄を着たモデルの振る舞いはなんともヘンだが、そこがいいと思う。英語のナレーションといい、ナインエムが開かれた視点を持っていることをこのムービーは伝えている。
さて、マルジェラが、「7人の女性」のムービーを制作したシーズンは、もちろんリアルなパリコレは開催されていたが、マルジェラでは趣向を変えた発表形式を採ったのだった。なんと、これは東京12チャンネルのファッション通信で、大内順子さんの解説とともに、1993年4月5日の22:00〜22:30、世界に放映されたのだった。
【ファッションエディター西谷真理子の東コレポスト】
・受け継がれるマルタン・マルジェラ vol.1 古着をリメイクするスリュー 22SS
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