たくさんの商品が溢れる現代において、ファッションアイテムを選ぶのに難しさを感じる人も少なくないだろう。そんな悩みに答えるファッションのレコメンドサービスのひとつが「エアークローゼット (airCloset)」だ。プロのスタイリストがコーディネートを提案するサービスとして、日本で大きなシェアを獲得してきた。
そんなエアークローゼット社が今回、計算型人工知能で世界トップクラスの研究者である、明治大学の高木友博教授と共同プロジェクトを立ち上げ、積極的にAIの開発に乗り出した。このような産学連携プロジェクトは、どのように始まったのだろうか?株式会社エアークローゼット社長兼CEOの天沼聰さんと、明治大学理工学部情報科学科教授の高木友博さんにお話を伺った。
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PROFILE|プロフィール
天沼 聰(あまぬま さとし)
株式会社エアークローゼット 代表取締役社長兼CEO
1979年生まれ、千葉県出身。高校時代をアイルランドで過ごし、英ロンドン大学コンピューター情報システム学科卒。2003年アビームコンサルティングに入社し、IT・戦略系のコンサルタントとして約9年間従事。2011年に楽天株式会社に転職し、UI/UXに特化したWebのグローバルマネージャーを務めた後、「ワクワクが空気のようにあたりまえになる世界へ」をビジョンに、2014年7月に株式会社エアークローゼットを設立。日本で初めての普段着に特化した月額制ファッションレンタルサービス「airCloset」を立ち上げ、その後もパーソナルスタイリングを提供するサービスを中心に複数の事業を展開。一般社団法人日本パーソナルスタイリング振興協会 理事、一般社団法人シェアリングエコノミー協会 幹事を務める。
高木 友博(たかぎ ともひろ)
明治大学理工学部情報科学科 教授
計算型人工知能の世界トップクラスの権威であると同時に、DXやデジタルマーケティングにも精通。超高精度ターゲティング及びマーケティング全体の高度デジタル化に関する先端的研究を行う。これまで、米国石油資本など国内外の企業との様々な共同研究実績とともに、また多くの企業の顧問としてDX戦略やAIプロジェクトを主導した実績を持つ。カリフルニア大学バークレー校コンピュータサイエンス学科客員研究員、松下電器産業、日本学術振興会プログラムオフィサーなどを経て現任。日本ファジィ学会元会長。国際ファジィ学会元副会長及びフェロー。工学博士。
高精度なパーソナルスタイリング体験の提供
「エアークローゼット」は、主に忙しい女性に新しい洋服との出会いを楽しんでもらうことに焦点を当てている。日常的に着る自分好みの服から、普段着ることはないが自分に似合いそうな新しい服との出会いまで、スタイリストによるパーソナルスタイリングを提供している。このようなサービスにおいて「エアークローゼット」では、人間のスタイリストによるサービス提供も継続させつつ、スタイリングサポートAIとの共創によって、さらに高精度のスタイリングを目指すのだという。現在、すでにスタイリングサポートAIは試験的な活用が始められている。今後さらに高精度化に取り組み、スタイリストの業務の効率化や新たなコンテンツの提供など、サービス全体のステップアップを目指しているとのことだ。
産学連携で人材育成にも寄与
今回の産学連携プロジェクトで協業する明治大学の高木教授とは、もともと2017年に株式会社エアークローゼットのデータサイエンス戦略の顧問としてディスカッションを重ねた経緯があり、高木教授から天沼さんに声をかけるかたちで共同研究の試みが始まったのだという。高木教授によると、企業側から見れば最先端の研究は優れた結果を生み出す可能性はあるものの、 実用に供するまでの歩留まりが悪いため、先端的方式を取り入れることは容易ではない。一方で、大学の研究室は最先端の研究を行うことが本分にある。しかし、取り扱えるデータとしては公開されているオープンデータを取り扱うため、細かい部分が削除されているなどのデータセットの問題から、箱庭的な研究課題を設定はできても、本当に必要な最先端の研究課題が設定できず、時代のニーズに追いつけないのだという。そこで企業と大学が共同研究として手を組み、大学側が先端技術の検証や取り込みのパイロット役として機能して企業側をサポートすることで、データを扱えるだけではなく、研究室の学生への教育効果や現実的に役に立つ研究課題の遂行といったメリットが生まれる。企業側はそれを効率的に取り込むことで、実務的な技術開発を行い、自社のサービスに積極的に組み込むことができる。今回の提携も、このような効果を狙った相談だったとのことだ。このような熱い思いを受けて始まった共同研究だが、エアークローゼット社にとってもサービスの発展だけではなく、社内の人材育成や、データ提供によるAI人材の後進育成にも寄与することが期待されているようだ。天沼さんによれば、今回の共同研究では、エアークローゼット社のデータサイエンスチームと高木研究室チームが積極的にコミュニケーションを取りながらプロジェクトを進めていく予定だという。このように今回のプロジェクトは、理論的なものに止まらず、ビジネスという形で実用化させることを重要視しているという。また天沼さんは、データサイエンス人材の後進育成や、ファッション業界への貢献も目指したいと語ってくれた。また高木教授も、企業に求められる即効性という部分に応えるべく、実応用を主たる目的としつつも、技術軸をしっかり想定して、将来に次の手を打てるような基礎技術を社内に蓄積することを、同時並行で進めていきたいと語ってくれた。
感性と論理の複合としてのファッション
最後に、データサイエンスとファッションには難しい関係がありつつも、とても可能性に溢れている分野であることということを語ってくれた。天沼さんによれば、ファッション領域における感性の微小な違いを、データサイエンスで捉えることは難しいという。ファッションは、対象のイメージや特徴といった様々な観点や状況に依存して考える複雑な情報環境であり、意思決定が複雑に絡み合っている。だからこそ、ファッションを通して論理と感性の複合する研究を達成することで、さまざまな課題を達成できるとのことだ。(天沼さん)「ファッションというトピックは、感性に頼る領域かつ多種類のものにおける事例として役立つのではないかと考えています。そういったアプローチは、将来的にはファッション業界の課題である大量生産・廃棄問題の解決に向け、在庫最適化などにも活用できると考えています。我々が進めている共同研究は、持続可能性のある社会の実現にも、いずれ繋がっていくはずです」高木教授もまた、ファッションアイテムは人工知能やデータサイエンスが取り扱う対象としては非常に困難があると述べる。たとえば実際にスタイリストがファッションアイテムを選ぶ際は、全体感の見た目に加え、素材、 袖口のような細かい部分特徴、さらには天候の変化などまで考えており、通常の推薦アルゴリズムでは対応できないことがあるという。一方で近年のディープラーニングによる処理では、 このような多様な情報を扱うことができるようになってきており、 最先端の技術を適用することで、 新たなファッションアイテム推薦を実現できるという。今回の提携は、特定のファッションサービスの進化だけでなく、領域を超えて応用が期待されると同時に、業界の人材育成のモデルケースとなることも期待される。今後の研究成果やプロジェクトの動向にも注目だ。
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