誰もが毎日使っている絵文字。現代のコミュニケーションにおいて欠かせないものになっている。
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絵文字を使うことで、簡単に相手に感情を伝えることができたり、文字だけのメッセージと比べて雰囲気が和らいだりする効果がある。
世界では毎日60億の絵文字が使われており、アメリカでは1人が1日当たりに送る絵文字の数は平均で96とされている。
この記事では、グローバルデザインとしての絵文字や、コミュニケーションにおける絵文字の役割、情報伝達、さらに、文化間で異なる絵文字の意味といった観点から解説していく。
世界的に浸透したグローバルデザイン「絵文字」は日本発祥
海外でのそのまま”emoji”と呼ばれていることからもわかるように、絵文字は日本発祥である。
世界最初の絵文字は、1999年にドコモのデザイナー栗田 穣崇 (くりたしげたか) 氏によって作られた。12×12ピクセルのグリッドでデザインされており、テキストメッセージや携帯電話の電子メールといったツールの視覚的なインターフェイスを強化した。(参考記事)
スマホの普及で一気に世界共通語に
元もはガラケーを中心に利用されていた絵文字だったが、2007年のiPhoneの発表以降、徐々にスマホでも利用され始めた。
その後、2011年にAppleがキーボードに絵文字を追加し、現在のように、キーボードで言語を変えるときと同じように絵文字を使うことができるようになった。
日本で生まれ、アメリカで成長した絵文字
絵文字が世界で利用され始めるにつれ、”共通言語” としての価値が問われるようになってきた。元々は日本国内を中心に利用されていたこともあり、多くの絵文字が “日本専用”のものであった。例えば、食べ物であれば、ラーメン、カレー、おでんなど。
しかし、2015年ごろに中国系アメリカ人の2人の女性が、食べ物が日本食ばかりで、中国料理の餃子すらないことに憤慨し、より絵文字の国際化を進める活動を開始した。
その後、彼女達は絵文字の地位を向上させるための団体、Emojinationを設立。
絵文字はアメリカのUnicodeが管理
その当時から現在まで、世の中に流通している絵文字は、アメリカ・シリコンバレーにあるUnicodeが一元管理している。Unicodeは、デジタルの文字データを管理する団体で「地球上のあらゆる言語を話す全ての人が、コンピュータやスマートフォンで自分の言語を使えるようにすること」をミッションとしている。
Unicodeには、Oracle, IBM, Microsoft, Adobe, Google, Apple, Facebook, Yahoo, SAP, Huaweiなどのそうそうたる世界のIT企業が会員として名前を連ねている。
絵文字も文字エンコードと同様に、共通言語として、Unicodeが管理しているということになる。
イケてなかった当時の絵文字委員会
しかし、そこには問題があった。2015当時、2人の女性が餃子を絵文字に追加してもらいたいと訪問しに行ったところ、そこには驚くべき光景があったという。というのも、絵文字の承認を議論・決定する委員会のそのほとんどが、”おっちゃんたち”だけで構成されており、かなりイケてない雰囲気だったそうだ。
そして、実際に判断を下す3名は全員中年の白人男性という、ダイバーシティーのかけらもない構成だったと、彼女たちは当時を振り返り語る。
絵文字の審査基準・承認プロセス
では、実際に絵文字はどのようなプロセスと審査基準を経て、採用の有無を決定されるのだろうか?
絵文字として採用されやすくなるポイント
- 視覚的な識別性が高い
- 複数の使い方・意味が含まれる
- 多くの人から頻繁にリクエストされている
- コミュニケーションギャップを埋める役割
絵文字として採用されにくくなるポイント
- 視覚的に識別しにくい
- 意味合いが具体的すぎる
- すでに似たようなものがある
- 特定のブランドロゴ、宗教シンボル、著名人を表現している
このような審査基準を踏まえ、下記の審査プロセスを経て、絵文字として登録されるかどうかが判断される。ちなみに、出願から認可が降りるまでの時間は18-24ヶ月で毎年約30の絵文字が追加されているとのこと。(参考: 絵文字の申請プロセス)
グローバルな餃子を考慮して承認された例: 餃子
実際に、上記のプロセスを経て “正式” な絵文字として承認された例を紹介する。冒頭でEmojination設立のきっかけともなった餃子の絵文字である。デザイナーのYiying Luによるこの絵文字は、世界中にある多種多様な餃子の絵文字が考慮された後に、できるだけ具体的になりすぎないデザインが、Unicodeによって正式採用された。
新しい絵文字は誰が申請できるの?
そもそも、新しい絵文字は誰が発案、出願可能なのか?答えは簡単で「誰でも」である。個人でも、企業でも、政府機関でも申請が可能。
フィンランドの政府が「サウナ」の絵文字を申請した実例もある。
絵文字にもダイバーシティーが求められる時代
日本で生まれた絵文字だが、時代の変化とともに進化が求められている。異なる人種や性別、文化への理解と表現に加え、最近ではLGBTQに関する配慮もされ、マッチングアプリのTinderには、「カップル」を表現するために、複数の異なる絵文字が実装されている。
機種やOSによって微妙に異なる絵文字表示
ちなみに、ここまで進化してきた絵文字だが、機種依存や、OS依存のものの場合、デバイスやOS, アプリの種類によって表示が異なるものもいくつかる。
特に犬の絵文字は、柴犬のつもりで送ったら、受け取ったユーザーのデバイスにはプードルと表示され、ちょっとしたミスコミュニケーションになった事例まであるという。
物議を醸したハンバーガーの絵文字論争
余談だが、このデバイス/OS依存の絵文字に関して、一時ちょっとした論争を醸した、ハンバーガーの絵文字に関するケースがある。下記のように、デバイスやOS, アプリによって微妙にレタス、トマト、肉、チーズの順番が異なり、それが “正式” なハンバーガーであるかの議論がアメリカを中心に盛り上がった。
ラーメンの絵文字も機種やOSによって微妙に異なる
日本人には馴染みの深いラーメンであるが、これもデバイスやOS, アプリによって表現が異なるのが面白い。中国風の物もあれば、日本ぽいデザインが採用されているのもある。Samsungの絵文字なんかは「これラーメン?」という感じである。
初代の絵文字はアートとしてMoMAにも展示されている
ちなみに冒頭で紹介した、初期の栗田 穣崇氏による絵文字セットは現在 NY近代美術館 (MoMA) にも展示されている。
最近では絵文字も重要なデザイン要素の一部となっている
最近では絵文字を取り入れたデザインやサービスを目にする機会が増えた。
少し前に日本でもブームとなった音声SNSのClubhouseは手を振っている絵文字を使っている。また、アプリ内でも、興味のあるカテゴリーを選ぶ画面やトークルームを探す際の画面でも、カテゴリーごとに絵文字が使われており、パッと見てわかりやすいようになっている。
絵文字で感情を記録するアプリ
また、日々の感情を顔の絵文字で記録する日記アプリ“Emolog”もある。カレンダー上に、アニメーションの絵文字が並べられ、記録した感情が一目でわかるようになっている。
日記の目的が、その時の感情を保存することだとすれば、文字ではなく、絵文字を使うことでそれがより簡単に叶うというところがこのアプリのポイントかもしれない。
企業のオリジナル絵文字も
また、オリジナルの絵文字を制作して提供している企業もある。
例えば、あの世界的な家具メーカーのIKEAは、オリジナルの絵文字キーボードアプリを無料で提供している。家事や家具の絵文字を多くの人に使ってもらうことで、家庭内のコミュニケーションを円滑にしようという狙いだ。(参考記事)
IKEAが出している動画によれば、何世紀も前から、男女間のコミュニケーションには誤解や行き違いがあり、特に家の中での誤解は多い。
その解決法として絵文字を用いたコミュニケーションを推奨している。絵文字を使うことで表現の幅が広がり、要求や不満、疑問を今までよりも簡単に相手に理解してもらえる、というものだ。
絵文字はコミュニケーションにおいて必要不可欠になった
驚くことに、過去にオックスフォード辞書のWord of the year (今年の単語)として絵文字が選ばれたことがある。その年に全世界で一番使われた絵文字だったという理由で選ばれた。それだけ絵文字は、コミュニケーションをする上で必要なものであり、文字と同じだけの意味を持つと言えるだろう。
絵文字によってソーシャルメディアで国際交流が可能に
実際に、言葉が通じない相手であっても絵文字を使えば自分の気持ちを伝えることが可能だ。
例えば、インスタグラムで他の人のストーリーに対してリアクションする際に、クイックリアクションという機能を使っている人も多いだろう。
これはリアクションをしようとした際に、デフォルトで何種類か表示されている絵文字の中から1つ選び、絵文字だけで相手のストーリーに対して反応を示せるというものだ。
この場合は文字情報は一切なく、絵文字だけで自分のリアクションを伝えるため、言語の壁関係なく世界共通でコミュニケーションを取ることができる。
絵文字は、言語が異なる文化圏をつなぐ役割を持ち、グローバルにコミュニケーションを取るには欠かせないツールである。
誤解注意!国によって違う絵文字の解釈
このようにとても便利な絵文字だが、実は一方で、国によって意味合いが変わってくる場合がある。(参考記事)
代表的なものでは、この絵文字。
一般的に日本では、「ごめん」「ありがとう」「お願い」の意味として使われているが、実は、謝るときにこの絵文字を使う国は日本以外ではあまりない。日本では謝るときに手を合わせて謝ることが珍しくないため、文化が絵文字にも表れている。
しかし、この手を合わせた絵文字は、他の国では「祈る人」「ハイタッチ」の意味として使われている。
そしてこの絵文字。
土下座をしているこの絵文字、日本では謝罪の意味で使う場合がほとんどだが、他の国では「考えている人」や、「腕立て伏せをしている人」に見えるようだ。
また、この絵文字も国によって意味合いが変わってくる。
日本では案内係という意味があり、「こちらです」と言いたいときに使われているが、アメリカでは「Whatever (どうでもいい)」という意味で捉えられる場合が多い。
日本の丁寧な印象とは対照に、ややネガティブな要素が含まれているので、かなり意味合いが変わってしまう。
誤解を生まないためにも、文化間による認識の違いを把握した上で使えると良いだろう。
海外の人のSNSを通じて、彼らがどんな絵文字をどういうシチュエーションで使っているかを意識して見てみたり、普段どんなジェスチャーをしているかを見てみるのも、文化間の違いの理解に繋がる。
デザイナーも今後はさらにグローバル化されてくると考えられているので、サービスやデザインに絵文字を取り入れる際には、このような文化間の理解が必要になってくる。
>>カルチャーの違いを考慮したデザインのポイント
グローバル市場を想定したユーザー体験のデザインが鍵
日本国内のみならず、グローバルにユーザーを持つことを想定したサービスデザインが重要になる。今回ご紹介した絵文字は言語間の壁を超えたコミュニケーションをより簡単に可能にするグローバルデザインだと言える。
こういったデザインを生み出し、サービスに適用させていくためには、プロトタイプやデザインモックアップを作成するなど、国外のユーザーに対してもニーズに基づいた最適な体験をデザインしていくことが一歩になる。
>>ユーザーフローから学ぶミスコミニュケーションの発生原因と対処方法
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