近年、環境への配慮や機能性の追求により、多種多様な素材に注目が集まっている。そのような素材をファッションアイテムにするとき、課題のひとつとなるのが加工の難しさだ。新素材には加工自体が難しかったり、加工はできても量産や効率的な生産が難しい場合がある。
こういった加工技術をめぐる問題に挑戦しているのが、タジマ工業株式会社だ。刺繍に関する加工技術を牽引し、70年以上国内外に機器を提供している企業であり、昨年はAIを用いた刺繍技術も開発している。そして2021年5月、同社は炭素繊維をはじめとした強化繊維を自由な方向に組み合わせる事ができる繊維加工機「TCWM Spec.2」を新発売した。強化繊維の加工技術はどのような応用可能性があるのか、タジマ工業株式会社・広報担当の嶋田さんにお話を伺った。
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刺繍技術から生まれたTFP工法
タジマ工業株式会社が発表したTCWM機は、強化繊維を用いて軽量化と高剛性を両立した複合材製品・部品生産を実現する機械だ。近年、燃費向上やCO2削減のために、金属よりも軽く強い部品製造のニーズが高まり、炭素繊維に樹脂を含浸させた炭素繊維強化樹脂といった、いわゆる複合材が航空機や自動車に採用されるようになってきたという。ただ、炭素繊維などの強化繊維は、繊維方向(長手方向)にしか強度を発生しないという強い異方性の特徴があるため、強度が高く変形しにくい部品にするには、負荷がかかりやすい方向に沿って繊維を配置する必要がある。そのため従来の工法では、炭素繊維が一方向に並んだ素材をカットし、その向きを変えて積層させることで、疑似的に等方性をもつように成形していた。しかし、この工法では複雑な配向ができず、材料の特性を十分に発揮することが困難だったそうだ。また、積層したシート材を任意の形状にカットするため、端材が発生する。複合材市場の大きい欧州における最終製品の製造コストの40%が素材となるが、そのうち廃棄率は50%となっていたそうだ。
今回発表されたTCWM機は、こういった従来の工法の課題を解決する TFP(テーラードファイバープレースメント)工法というものが用いられている。これは、長さのある炭素繊維を部品形状に近い形に縫い止めるというもので、刺繍技術を元に開発された。様々な形状に繊維を縫い止められるため、複雑な形状も作り出すことができる。また炭素繊維を切断することがないため、繊維の機械特性を損なわず、材料としての機能を最大限に発揮させることが可能だという。また廃棄ロスも少なく、最小限の材料で済むのも大きな利点となる。
TFP工法専用のソフトウェア
TFP工法はハードウェアとしてのTCWM Spec.2の開発だけではなく、ソフトウェアの開発も同時に進められた。それが、繊維の正確な配置を実現する工学的設計志向のソフトウェア、「EDOpath2.0」だ。EDOpath2.0は一般的な製図ソフトウェアで作成されたデータを取り込み、繊維配置用データに変換するソフトである。折り返し部での繊維のずれを防ぐ、素材幅のを自動最適化機能などを搭載しており、専用データの設計を容易にするものだ。嶋田さんによると、もともとEDOpathは繊維の機械特性を引き出すため、繊維束を正確に配置する必要性から開発が始まった。同社がこれまで開発を手掛けてきた刺繍用のパンチングソフトウェアは、画像、塗りつぶしの形状、および基本的な描画機能に基づいたパターン設計が必要となるが、今回はさらに繊維の機械特性に焦点を当てた正確な配置だったという。欧州で先行販売されたEDOpath1.0では、2D CADで作成したデータを取り込み、簡単にステッチデータに変換することができる。また直線、曲線、折返し等の様々な形状に併せて最適なステッチ長・ステッチ幅を選択、調整でき、パターン作成の生産性も考慮されている。こういった基本機能に、さらなる品質と生産性向上を図ることを目的として開発されたのが、EDOpath2.0ということだ。従来のものと比べ、機械設定の省略化や繊維配置の正確性などが優れているという。
技術で引き出される素材の応用可能性
TCWM Spec.2を導入することによって、機能性を求める分野において、生産の幅が大きく広がると嶋田さんは語る。同形状の金属や樹脂などと比べ、軽量かつ高剛性の製品を作ることができ、金属などの既存の材料の限界を超えて活用が見込まれるとのことだ。またEDOpath2.0に関しても、紐状やテープ状の素材の縫い付けパターン生成の効率や正確性を向上させるため、ヒータ線、電線、コード素材といった従来の刺繍パターンソフトウェアが使用されていた分野にも、応用が期待できるという。
タジマ工業は今後、刺繍技術の応用からアパレルや多分野への挑戦も模索しているようだ。例えば服に導電糸を縫い込んだウェアラブルデバイスも増えているが、こういった柔らかい生地上に構成されるセンサーやUIを開発していくうえで、同社の刺繍技術の活用も考えられるという。既存の技術と新しい技術が融合した製品作りに貢献するような刺繍加工機を開発していきたいと、展望を述べてくれた。今後の開発にも、注目していきたい。
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