現役美大生・加藤理子によるインタビュー企画。
あなたの背中を押すことばを集めたギャラリーを築きます。
現役美大生の加藤理子さんによる、同世代のクリエイターやアーティストへのインタビュー連載企画がスタート!
通算で3度目となる緊急事態宣言が発出された2021年4月23日から約2週間。宣言の延長も検討されるなど、コロナウイルスに起因する社会の混乱や政治の混迷はいまだに終わりが見えない。
ADVERTISING
1回目の緊急事態宣言が発出された昨年の4月〜5月には、約40年間毎月実施してきた「定点観測」が中止に。そこで編集部の学生アルバイトスタッフ十数名を対象に、2人のスタッフが1対1でインタビューし合うというワークショップ形式の「オンライン定点観測」を試みた。さらにはファッション業界で働く編集部のOG5名を対象に2時間ほどのデプスインタビューを行う「オンライン定点観測“ファッション業界人編”」も並行して実施。ビッグデータやAIといったキーワードではすくいきれないものを、パーソナルヒストリー的な手法によって記録する重要性にあらためて気づかされた年でもあった。
そこで2021年5月、編集部員ではなく、若い世代(Z世代と呼ばれて話題になっていますが)同士がインタビュアーとインタビュイーになり、彼ら・彼女らの感覚でナラティブに文章化するという企画をスタートすることにした。第1弾は、現役美大生(2000年生まれ)であり、自身のブランド〈RICO〉の運営やYouTube/Instagram上での積極的な情報発信など、さまざまな活動をを行っている加藤理子さんによる、同世代のクリエイターやアーティストへのインタビュー企画『GALLERY R』。
Vol.1でインタビューしたのは、2002年生まれのダンサー・杉浦明日花さん。
自分の”好き”を仕事にしたい。 -18歳が考える ”表現"とは。
杉浦 明日花(すぎうら あすか)
2002年8月11日生まれ。神奈川県出身。ダンサー。 全国約10,000人の受講生を持つavex dance masterによる選抜チーム・Dream Teamの9th, 12th, 13thとして活動。 同じくavex dance masterによるスタイル、ビジュアル、ダンスに優れた実力派選抜グループ・Shorty!!の2期, 5期としても活動。個人では、SNSを通してダンスレッスンの模様や自身が振り付けた動画、ライフスタイルなど独自のスタイルを発信。プロダンサーとしてだけでなく、10代ならではの等身大の彼女の様子が伺える。 その人気はTikTokのフォロワーが約63,000人、Instagramのフォロワーが約10,000人と、同世代から多くの支持を集めている。
・Instagram:@asukasugiura / TikTok:@asukasugiura
ダンススクールの出会いをきっかけに、5年来の仲である私たち。
今はファッションの虜になっている私も、ボーカルレッスンに没頭していた時代は、今やプロデビューを果たした彼女にバックダンサーを依頼したことも(笑)日々ひた向きに、地道に努力を重ねる彼女から、彼女にとっての”ダンス”、そして、レッスンや学業、仕事、アルバイトを掛け持ってまで頑張る理由を探ることで、何か新しいスタートを切りたい同世代や壁にぶつかる同世代に送る”ことば”を届けることができるのではないかと思い、取材を依頼しました。
Q1.ダンスを始めたきっかけは?
ダンスを始めたのは年長の夏。母の知り合いの子供がダンスをやってて、最初は習い事として通っていたの。もともと体を動かすことが好きだったから、私自身も「とりあえずやってみるか~」くらいの気持ちだったんだけど、自分の中でダンスだけは唯一楽しいと思って続けてこれたのね。そんな中、進路を具体的に決めていく段階で「やっぱり私にはダンスしかない、ダンスは続けたい!」という思いが芽生え始めたと同時に、「スターを育てる」という理念を持ったavexで習ってたので、ありがたいことにプロのそばで教えてもらう環境が身近にあったの。そこでスタッフさんにも目をつけていただいて、プロを志すようになって、今の私があるという感じかな。
Q2.プロを目指す背景をもっと詳しく教えて欲しい!
やっぱりavexのスクールにいたという環境は、自分にとってとても大きいと感じてるよ。ダンサーは何か基準があってなれる職業ではないうえに、体一つの仕事なので怪我や病気をしたら働けないといったリスクもある。それでも、「あすかが頑張るなら応援するよ」ということばをくれた親にはとても感謝しているし、私も、親が応援してくれるからこそもっと頑張りたいとも感じてるんだ。だから、高校生になってアルバイトができるようになったので、今は自分で稼いだお金をダンスに当てるようにしているの。衣装やリハーサル、スタジオ代とかを自分で払うようになって、よりその環境や時間を大事にしようと思えたし、ダンサーを目指してる私にとっては、ダンスの世界の現実的な部分を知ることもできてすごく勉強になってるよ。
Q3.割り当てられたフリの中でどうやって自分らしさ(個性)を出しているの?
ありがたいことにバックダンサーのお仕事をいただくこともあるんだけど、バックダンサーでは個性を出そうとは考えていないんだ。バックダンサーのお仕事は、アーティストさんを引き立てることやその作品に花を加えることだから、臨機応変にかつ周りとのバランスを見ることを意識してるよ。ただ、ダンスアーティストとして個人で踊る時は個性をすごく大事にしてる。だから、アーティストとバックダンサーの間に線引きを持って踊ってるかな。
Q4.今、少し話題に上がったけど、ダンスアーティストとしてのお仕事のなかで”個性”をどう引き出しているかという点や、踊ることや表現することについて何か考えを持ってる?
内面(考えや価値観)も外見も過去と今、未来で変わっていくけど、”今の私にしかできないこと”をすごく大事にしてるかな。よく、ナンバーで先生が「このメンバーでこの作品を踊ることができるのは今しかない。」とおっしゃることが多いんだけど、ナンバーに限らずダンスアーティストとしてもまさにそうだと思ってて。例えば、親や友達と喧嘩してブルーな気持ちだったとしても、それを表現できるのはその時しかないし、実際、私が恋をしている時に挨拶をしただけで「あすか、恋してる?」と先生に見破られた経験もあるの(笑)そういうように、やっぱり「○○な気持ちで踊ろう」って想像してやるよりも、本当にそういう感情を持ってる時の方が見てる人には伝わると思うから、その時の自分の環境や気持ちを大事にしてるし、それをより引き立たせられる衣装や曲を選んでるよ。
Q5.単純な疑問なんだけど、”自分の感情にあった”曲選びはどうやっているの?
要素でいうと、その曲のテンポやテンションを見てる。例えば、切なくやりたい時はウィル・スミス、可愛らしく踊りたい時はアリアナ・グランデ、セクシーで強い表現をしたい時はビヨンセ、みたいに、自分の中でこういう感情の時はこの人の歌がマッチするというある程度の枠もできてきているかも。ただ、私がダンスを通してその時の自分の感情を表現するように、その曲の歌手の感情を自分は超えることはできないと思っていて、だからこそ、その歌の息遣いだったり声質、歌詞などを見て自分の感情を引き立たせることができるかを考えているよ。また、幼少期からダンスをやってきたからこそ、いろんな先生を通じていろんな曲に出会うことができたけど、自分がレッスンで聞いた曲の中から探し出すだけではつまらないなと感じているので、空き時間にネットサーフィンをしていろんな曲を聴いて、本能的にビビッ!ときた曲があったら保存してるんだ。目に見えないものではあるけど、やっぱり本能的に感じるものや心を動かされた曲のファーストインプレッションは大事にしたいな。
Q6.長年ダンスをやってきた中でいろんな先生や生徒さんと関わってきたと思うけど、どのように自分を形成したり、”自分らしさ”を見つけているの?
ダンスを習っている多くの人が、どの先生のレッスンを受けるかを決める時に、その先生の振り付けや曲選びを基準にすると思う。それはもちろん私も大事だと感じるけど、いろんな先生のレッスンを受けるようにしているよ。やっぱりその先生にはその先生の色があるから、ずっと同じ先生のレッスンを受けていると似たような雰囲気になってしまうことも否めなくて、せっかくレッスンに自分のお金と時間を割くわけだから、さまざまな先生の個性やインスピレーションを身をもって感じることを大事にしてる。その先生がどんな曲を聴いてどういう感情を持っているのかということを近くで見れることはすごく貴重だと感じてるし、「そういう表現もあるんだ!」というように、自分に活かせそうなものを良い意味で盗んで自分と組み合わせて、表現に投影してるよ。
Q7.やめたいと思ったことは?
やめたいと思った時はないけど、大きな挫折はある。過去にナンバーでソロパートを決めるオーディションがあったんだけど、当時はすごく自信があったし、自分で言うのもなんだけど、実績もそれなりにあったし、周囲の友達も「あすかなら絶対選ばれる!」と鼓舞してくれたほどで。オーディション自体も本領発揮することができて、自分が選ばれることに期待してたんだけど、結果は不合格。その時、初めてどんなに努力をしたとしても報われない時があるということを身をもって痛感した。歌やファッションなど他の芸術分野にも共通して言えることだけど、ある程度の基礎や技術というような基準はあっても、それ以上の領域になると何をどう頑張ればいいというものはないんだよね。だからといって、その先生を責めることは違うし、その先生とはマッチしなかっただけだと切り替えることが大事なのかも。
Q8.普段心がけてることや気をつけていることはある?
自分の夢や目標を発して、ことばにすることを大事にしてるかな。私は、思うことと言うことって全く違うと感じていて、やっぱりいくら頭の中で考えていても、ことばにしない限りそれは他人には伝わらないし、逆に発していくことで、「そういえばあすかが◯◯って言ってたから、誘ってみようかな。」みたいに、また新たな繋がりが生まれるかもしれない。でも実際、「偉そうに」「大口叩いておいて」とか言われた経験もあるし、私自身も本当に実現できるのかなって不安になるときもあるんだけど、言う後悔より言わない後悔をしたくないし、その不安な要素が一周回って自分を奮い立たせる刺激になってるんだ。ただ、何でもかんでも言えばいいというものではないから、SNSももちろんだし、他人に意見を言う時も、それが責任ある発言かどうかをちゃんと考えて発するようにしてるよ。
Q9.どういうダンサーになりたい?
今は目標を達成することよりも、内容の濃いプロセスをつくることに力を注いでる。例えば、レッスンの最後にピックアップといって、先生が指名した人だけそのフリを踊れる時間があるのね。もちろん選ばれたら嬉しいし、それを目標にすることは一つの在り方だと思うけど、ピックアップ=そのメンバーの中で一番上手いとは言いきれないから、私自身ピックアップに深い意味はないと感じているの。調子の悪い日や自分の得意分野ではない日だってあるので、その日に生徒全員が本領発揮できているわけではないし、選ばれたとしてもたまたま自分がうまく踊れた時に、たまたま先生が私のことを見てたという可能性も考えられるでしょ。もちろん、オーディションやバトルみたいな結果重視の場面で通用することではないけど、そのレッスンを受けている中で、フリを習得するまでに何をどう頑張ったか、どのような感情を持って取り組んだか、レッスンを受ける前に何をしてきたかなど、完璧に踊ることではなく、それまでの過程が重要だと思う。逆に、自分がナンバーをつくるときは、自分が受けたインスピレーションをどうやってメンバーに伝られるかということをいつも考えてるな。インスピレーションは自分にしか理解できないけど、私のナンバーに出たいと言ってくれた子たちは、そこにお金と時間を割いてくれる、つまり価値があると思って参加してくれてるので、できる限り自分の考えや価値観を共有したいし、良い環境をつくれるように尽力するよ。
Q10.最後に、同世代の若者にあすかから背中を押す一言をください!
はじめからすごい考えや経験を持っている人なんていないし、いろんな場面に顔を出して、たくさんの人と関わって、多くの価値観や考えに触れることがすごく大事だと思うな。 結局、ダンスの世界では結果が重要視されることには変わりないし、今の自分の環境や立場だからそういう考えが持てるということもあるとは思うんだけど、私自身今の考えにたどり着いたきっかけは、結果が全ての世界で過程を大切にする先生に出会えたことがきっかけなの。でもその先生に出会えたのも、本当に偶然かつ運命だと思うし、いろんな環境に自ら身を置くことで新たな価値観を見出せると思うよ。
「最近、何してる?」「今、気になる人はいる?」「学校どう?」「将来どうなっていたい?」 インタビュー後、久々に顔を合わせた私たち。 お互いの近況や恋愛観、将来についてのマシンガントークが続いた。 学校や仕事、レッスン、アルバイトで毎日多忙であろう彼女から、現役高校生(インタビュー当時)らしい一面が垣間見れた瞬間には、 友人として少し安心したのも本音だ。 一方で、まさに"キラキラ”ということばが相応しい輝きを放ちながら、 未公開のダンスムービーを片手に、撮影の裏側や仕事、夢について語る明日花。 すべてを全力で楽しむ彼女の裏には、家族や友人の存在が。 感謝を”ことば”にし、彼らへ自分の口から伝えると共に、実績や行動で恩返しをする。 年下ながら逞しい背中に大きな刺激と自分も負けてられないと胸を揺さぶられた。 インタビュー後、彼女は高校を卒業し社会に巣立った。これからの彼女に期待を寄せたい。
インタビュー・文:加藤理子
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【ACROSS】の過去記事
RANKING TOP 10
アクセスランキング
銀行やメディアとのもたれ合いが元凶? 鹿児島「山形屋」再生計画が苦境