ウールやダウンなどの原材料費が下がる局面もあるとはいえ、平均的に上がり続けている。
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また綿花も上がる局面もあり、新疆綿問題の今後の展開によっては供給不足となり再び大幅な値上がりの可能性もある。
また、国内外問わず人件費・工賃も上がる傾向なので必然的にメーカーや小売りは衣料品を値上げしたい。
しかし、国内市場において値上げは容易ではない。
また値上げ幅にもそれぞれのブランドには限度があるし、アイテムによっても値上げの難易度が変わる。
20年前と比べるとユニクロは比較的うまく値上げしたといえる。
2900円だったジーンズが3990円と、1090円値上がりしている。しかし、このまま値上げして行ったと仮定して、ユニクロのジーンズが5990円とか7990円とかになったらどうだろうか。恐らく販売本数は落ちるだろう。
当方なら絶対定価では買わない。
そんなわけで、値上げに成功するにしてもブランドごとやアイテムごとにその上限は自ずと定まってしまう。
嗜好品であるカジュアルやビジネス服に比べると、実用品である制服・作業服は値上げしにくいし、値上げできたとしてもそれほど高くでは売れない。またラグジュアリーブランドよろしく、超高額品はほぼ売れにくい。
先日、繊維ニュースのサイトのトップ記事で「新興企業が価値を上げるために5万円の作業服上下セットを開発した」という記事を見た。
出だしの何行かしか掲載されていないので、詳細は分からない。
画像を見た感じだとバートルやらクロダルマやらアイトスやらBMCやらで企画製造されている上下セットと何も変わらない。
こんなイメージの商品だった。
普通に考えるとこの商品はそれほどの量が売れないだろう。
理由は作業服は嗜好品の要素が極端に薄いからだ。
カジュアルやスーツ類、モード服なら、嗜好品だから高額でも買う人はいる。また5万円とか10万円で買ったとして、普通の着用方なら何か月かでボロボロのドロドロになるわけではないから、買ってみようかという気にもなる。
しかし、作業服の場合、普通は作業をする際に着用するわけだから、何日か着用しただけでかならずドロドロに汚れる。
上下5万円の作業服を買って、それを着て肉体労働しようという勇気のある人がどれだけいるだろうか?
鉄骨にひっかけて穴が開くかもしれないし、ペンキが飛び散ってしまうかもしれない。当方ならそんな勇気は全くない。
もちろん5万円のスーツを着ていても社内で段ボールを持ち上げたり、外回り仕事で何キロも歩いて汗をかくこともあるかもしれない。しかし、現場の作業と比べたら汚れ方は段違いである。
まあ、客寄せパンダ的な商品だろうとは思うが、本気である程度の数量を売りたいのならちょっと考え方がおかしいのではないかと思う。
これと同じことが学生服にもいえるのではないかと思っている。
学生服も年々少しずつ値上がりせざるを得ないが、もともとの価格がワーキングほどには安くない。
一部には生徒であることが「ブランド」と見なされる「ブランド校」はあるがそんなものは一握りにすぎず、希少価値があるからブランド校なわけであり、ブランド校がうじゃうじゃ増えてしまえばそれはブランド校ではない。
ある制服業者に言わせると、値上げもそろそろ限界ではないか?というのだ。
たしかに、学生服は上下セットで、鞄やら体操服やらナンヤラカンヤラを含めるとトータルで5万円くらいにはなる。
これ以上の値上げは制服としては限界ではないかと思う。
先の作業服もそうだが、学生服業者の多くは「価値を上げましょう」と提唱して、例えばブランドとのコラボ制服なんかで価格を上積みするのだが、学生服、それからオフィス制服も同様だが、その本来の価値というのは、カジュアルやお出かけ着・モード服とはまったく異なる。
カジュアル、お出かけ着、モード服なんかは着用することで「かっこいいですね」と褒められ承認欲求が満たされるので、10万円・20万円を出す価値を認める人が少なくないのだが、作業服、学生服、オフィス制服というのは、それを着て合コンに出席できるわけでもないし、パーティーに参加できるわけでもない。町を歩いていて「あの人すごくかっこいい」と言われるわけでもない。オフィス制服や作業服で町を歩いていたら、単に仕事帰りの人でしかない。学生服も同様だ。下校途中でしかない。
嗜好品である「なんちゃって学生服」はまた別物である。
となると、5万円とか10万円で買う人はよほどの物好きか、強制的に買わされる人か、ということになる。
もし、高値で売りたいのなら実用着ではなく、それこそ嗜好品である「なんちゃって制服」で提案するほかないのではないかと思う。
衣料品の値段はインフレに転じるどころか、体感的にはデフレで在り続けている。
製造コストは上がっているから、何とか販売価格を上げようという取り組み自体はわかるのだが、何に対しても手垢にまみれた「価値を上げる」というキャッチフレーズだけでは消費者には受け入れられない。
それこそアイテムの特性に沿った提案が必要になる。
これは生地製造工場にも言えることで、用途や使用法に沿っていない生地をいくら巧言令色を尽くして高値を付けたとて期待したほどには売れない。
そのあたりをもう一度考え直して、自社のアイテムの特性を見つめなおしてみてはどうだろうか。
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