「A-POC ABLE」は、何を「ABLE」にするのか?これはファッション業界だけでなく、ものづくりに携わるあらゆる人にとって興味深い問いだ。
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緊急事態宣言明け前の3月13日、ひっそりとデビューした古くて新しいブランドがある。「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(エイポック エイブル イッセイ ミヤケ)」 だ。表参道にも路面店がひっそりとオープンしている。
ファッションに精通している人なら「A-POC」がISSEY MIYAKEという会社を代表するブランドで、「Fashion Tech」という言葉ができる20年以上前に起きたコンピューターを使った服作りのイノベーションと知っているはずだ。
ISSEY MIYAKEは、毎シーズンの服をデザインするだけではなく、服の概念や服作りのあり方までもデザインする稀有な存在。そして、その姿勢をもっとも色濃く反映したのが「A-POC」というブランドだ。
偉そうに書いたが、私もファッションの執筆では新参者。A-POCの凄さを知ったのは2016年。国立新美術館で開催された「MIYAKE ISSEY展」と、その後、New Yorkで見た2つの展覧会でだ。
「MIYAKE ISSEY展」は、見るもの学ぶものが多過ぎてA-POCの凄さにちゃんと気づけなかった(オリンピックのコスチュームなどが強烈に印象に残っている)。
だが同じ2016年、メトロポリタン美術館で見た「MANUS x MACHINA:Fashion in the Age of Technology」展で印象が変わった。Appleが冠スポンサーで、当時の同社のデザインのトップ、Jonathan Iveが、図録の序文も書くほど入れ込んでいた展覧会で、「服作り技術の進化」に焦点を置いていた。
地下にあるギャラリーのかなりのスペースを日本のISSEY MIYAKEの展示が占めており、そこで再会した1枚の黒い布をくり抜いて作られていた連なった3着のドレスこそがA Piece of Cloth(1枚の布)の頭文字でエポックメイキングであることも示した「A-POC」という技術だった。
コンピューター·テクノロジーを使って、1本の系から一体成形の服を作る技術。Appleが、コンピューターテクノロジーを駆使して1枚のアルミ板をくり抜き頑丈で環境にも優しいUnibody成形のMacBook Airを出したちょうど10年前、ISSEY MIYAKEは同じことを服作りの世界でやっていたのだ。
New Yorkで見たもう1つの展覧会はMoMAの73年ぶりのファッションの展覧会「ITEMS: Is Fashion Modern?」。帽子から靴下、下着までさまざまなファッションアイテムについて原型や革新的製品を網羅していた。そこで「A-POC QUEEN」が、どのジャンルにも属さないものの、触れない訳にはいかない革新的アイテムとして紹介されていた。
そんなIssey Miyakeの革新性の象徴「A-POC」が新たに「A-POC ABLE」として宮前義之氏の下、再始動する。これは「人と人、 人と知恵との交わりから新しい発想を育み、未来を織りなすブランドです。アートやテクノロジー、クラフトなど、ジャンルの垣根を越えた出会いから生まれた比類ないアイデアを、次世代の衣服として実現」させるブランドだという。
2020年10月、「TADANORI YOKOO ISSEY MIYAKE」の投稿でも書いたが、宮前氏はISSEY MIYAKEの中で熱心に研究開発(R&D)を続ける人物。「A-POC ABLE」の第1弾として発表されたType-Oと呼ばれるアイテム群は、その宮前さんが、Takramの渡邉康太郎さんと生み出したギフトアイテム、FLORIOGRAPHYで使われた”Steam Stretch”ーー蒸気を当て温めると元の形に戻る技術ーーで作られたブルゾンなど。
今後、4月上旬には家仕事に適するリラックスした作りながら、オンラインビジネスミーティングにも使える「TYPE-U」のジャケットなどが発売される。こちらは別の加工技術で、まくり上げた袖が、そのままの形を保ってくれてノートパソコン作業の邪魔にならないのだという。
もっとも、これもまだ序の口。宮前さんは他にも色々な技術を持つ企業や、色々なクリエイターとの研究開発を精力的に進めているようだ。
「A-POC ABLE」の「ABLE」は、「A-POC」を特定の服作りの技術に留めず、服作りの技術を無限に広げるという意味の接尾辞なのかもしれない。アップルは、さまざまな研究開発を繰り返し次々と新ジャンルのチャレンジをしては、世界をワクワクさせてくれたが、同じワクワクが、今、まさにファッションの世界でも再び起きようとしている、と期待したい。
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