在宅で眺める、ポスト・パンデミックのファッション風景 vol.1 「日常」の形 tac:tac、SEVESKIG、THE RERACS
「tac:tac」2021年秋冬コレクション
「tac:tac」2021年秋冬コレクション
在宅で眺める、ポスト・パンデミックのファッション風景 vol.1 「日常」の形 tac:tac、SEVESKIG、THE RERACS
「tac:tac」2021年秋冬コレクション
3月15日から始まったRakuten Fashion Week Tokyoは蓋を開けてみるとやはり、オンライン配信がメインだった。ミラノ在住のファッションジャーナリストの知人は、今シーズンのミラノコレクションは99%以上デジタルだったとメールで書いてきた。欧米の感染状況は変異種の流行でまだまだ深刻な状況が続いているらしい。それに比べると東京は、オンライン配信がメインとはいえ、毎日2件ほど、リアルなショーが開催されているから、深刻度が違うのかもしれない。その上、このあえて決行するリアルなショーの中には、パリに発表の場を移してきた花形ブランド(「アンダーカバー(UNDERCOVER)」や「ビューティフルピープル(beautiful people)」 「フミト ガンリュウ(FUMITO GANRYU)」)が含まれていて、これは見なければ、と思わせてくれる。が、半分リタイアした私には招待状は届かないだろうから(感染拡大防止策として、招待人数は制限しているし)、このリアルなショーも基本はオンラインで鑑賞することになる。なので、このタイトルにした。
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そして、これだけのパンデミックがあったことで、ファッションの世界はどう変わったのかということも、今回の記事のテーマにしたい。コロナ禍によって、ファッション業界が大きな損益を被ったことは、周知の通りだ。とりわけ、大手アパレル、百貨店の被害が大きく報じられているが、業界紙の記者ではない私には、その奥のビジネスの変化を読み取ることができずにいる。もちろん悲惨な事態だけれど、ユニクロやワークマンなどの成功例もあり、オンラインでの消費は伸びているという話も聞く。新しい服がほしいという人々の欲望が消えたとは思えない。
ただ、装いに関する意識は明らかに変わった。在宅ワークや家暮らしが中心になり、通勤はもとより、観劇やライブ、オープニングパーティやレセプションなどに行く機会は大きく減った。装うモチベーションが減退し、華やかな服を買っても着る機会がないと嘆く声も聞こえる。それ以前に、収入が減って、新しい服を買う余裕がない人も少なくない。こういう状態が1年以上も続くと、服をめぐる意識の変化は当然だろう。
今回のコレクションの服が市場に出回る今年の秋冬には、パンデミックは落ち着いているだろうか。不安が残る中で2年前の生活は少しずつ戻っていくだろうけれど、人々の意識はどうだろう?
長期間の外出制限という事態を経験したことで、意識が変化したであろう消費者を念頭に置いて作られたコレクションは、「日常」を前面に出したものと、あえて「非日常」を強調したものとに二極化しているように思える。
ファッションウィーク初日(3/15)でいえば、「タクタク(tak:tak)」「セヴシグ(SEVESKIG)」「ザ・リラクス(THE RERACS)」は、前者と言えそうだ。ただし、それぞれの「日常」の中身は違う。
「タクタク」は、1軒の家で暮らす"THE OLD"と"THE YOUTH"と"THE BOY"の3人の家族とその愛犬(ジョージという名前らしい)の、朝起きてからの1日の日常をファッションストーリー・ムービーとして描いている。最初モノクロの映画は、着ている服にだけ色がついていて、何も起こらない平凡な時間が淡々と流れていくのだけど、お気に入りの服と共にある幸福感を感じさせる秀作。ファッションを強調しないところが成功のポイントだ。ただし、どう見ても服が一番似合うのは、THE OLDなのだが。
「セヴシグ」は、同じ日常でも、サブカル好きな若者の日常で、彼らは家にこもってはいない。広い草原の真ん中に置かれた電話ボックスのような狭い空間に「こもる」。コレクションの中身は、思い思いの装いの若者がこのボックスにやってきてポーズを決める。イラストの花や動物と一緒にヒップホップを踊っているようにも見える。ここで受け取るのは、服のデザイン以上に、彼らの解放的な「日常感」だ。
「THE RERACS」2021年秋冬コレクション Image by: THE RERACS
「ザ・リラクス」は、前回の抑制された無観客のショーを思わせる動画から一歩進んで、ミュージカルのようにも見えるムービーを制作した。これを「日常」と感じたのは、モデルたちの最後まで一貫する颯爽とした歩行が、ただの歩く人たちではなく、「通勤という日常」を想起させるからだ。最初黒一色で登場する男女がサラリーマンの群れのように見えるのは、手に持った鞄やバッグ以上に、集団で、背筋を伸ばして早足で歩く様子から受ける印象だろう。服の色は黒からカーキ、柄、クリームへと変化していくのだが、途中に冒頭の「黒の行進」が差し込まれることで(これはデジタルだから可能だ)、「通勤という日常」に引き戻される。コレクションのテーマはもちろん通勤着ではなく、ファーやレースを使った装飾的なものも含む多彩なコレクションだが、このショーの構成によって、どんな服でも、「日常着」になりえると訴えているように見えるところがおもしろいし、改めて「通勤」というシーンの変貌を期待してしまった。
この日行われた「ケイスケヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」と「ミキオサカベ(MIKIO SAKABE)」についても書きたいことはあるが、今日はここまで。
前シーズンのレビューでは、海外のコレクションに比べて、東京のオンライン配信の動画のレベルが低すぎると嘆いたのだったが、今回、格段にレベルアップしたことを指摘したい。
無観客のファッションショーの模様を流すだけのところはさすがになくなり、デジタルならではの仕掛けを盛り込んだことで、ブランドの世界観もよく分かるようになった。
【ファッションエディター西谷真理子の東コレポスト】
・在宅で眺める、ポスト・パンデミックのファッション風景 vol.2 モデルについて考える kaiki、mintdesigns
・在宅で眺める、ポスト・パンデミックのファッション風景 vol.3 言葉が加わったコレクション BALMUNG、meanswhile
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