中華圏をメインに展開する『I.T』
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香港を代表するアパレル企業i.t apparels Limited通称I.T。
1988年に香港で200平米の店舗を1つオープンしたことに発する企業であり、その後、2005年に香港で上場も果たし、現在では300を超える取扱ブランドと10を超えるオリジナルブランドを抱えるアパレルグループ企業である。» 参考:香港I.Tが2018年中間業績を発表【香港アパレルマーケット】
一時期、売上成長の翳りや不良在庫の量が問題視されたI.Tグループだが、ここ数年は堅調に利益を確保しながら、拡大成長を続けていた。
A BATHING APE®の買収後、セカンドラインのAAPE BY A BATHING APE®をはじめとした、さまざまなオリジナルブランドを成功させてきたことが高成長の要因のひとつといえる。
数字からも見えてくる成長への陰(かげ)り
しかし、そのI.Tグループに再び陰(かげ)りが見え始めている。下記は、I.Tグループが発表した店舗数の数字。
中国大陸と香港の店舗数(Kenzo除く)2018年2月末 約739店舗2019年2月末 約771店舗2020年2月末 約746店舗
この2年ほどは香港の政治問題からくる経済の落ち込みを考慮して、香港の不採算店はクローズしながら、中国大陸では出店攻勢をかけてきたが、ここへきて全体で25店舗減となっている。主力業態I.T及びi.tの中国大陸の店舗数だけ見ても6店舗減となっている。
2020年2月末だと1月末から問題が深刻化してきた新型コロナウィルスCOVID-19の影響も多少もあるものの、その少し前から中国国内ではI.Tグループの勢いが落ちてきていることは話題になっていた。
また、売上で見ると下記のようになっている。
全体売上2015年度75億香港ドル2016年度80億香港ドル2017年度84億香港ドル2018年度88億香港ドル2019年度77億香港ドル
店舗同様に売上も減少し、2019年は2018年と比べ12.6%減の77億香港ドル(約1032億円)となっている。
香港とマカオが23.3%減となったことが大きな要因ではあるが、中国大陸も9.4%減となっている。
売上総利益は下記の通り。
2017年度53億香港ドル2018年度56億香港ドル2019年度47億香港ドル
2019年度は2018年度と比べ16.1%減の47億香港ドルとなっており、粗利率は61.3%となっている。
売上は減少しているのに、在庫は2018年度の15.4億香港ドルから2019年度は17.2億香港ドルと増えていることにも目がいく。この数字は、不良在庫が増えているアラートといえる。
また、2019年度の純損失は7.5億香港ドルとなり、久しぶりに赤字の年度となった。
そして2020年度の上半期は売上が31.9%減となっている。
香港と中国大陸においてマルチブランドのセレクトショップの業態を確立した先駆者といえるI.Tグループ。
香港と中国大陸で手に入らない海外ブランドをいち早く買い付け、ショップのブランド価値を高めるとともに、独占買い付け契約を増やし、価格をコントロールすることで高い利益率を誇ってきた。
成長の過程の中で増やしてきたオリジナルブランドも高い成長率の要因のひとつだ。
しかしこの数年、他にも多くのセレクトショップが台頭し、海外ブランドの自身による進出も増えていく中で、徐々にその圧倒的な存在感が薄れつつある。同じ規模のセレクトショップは少ないものの、店舗に存在感やクラス感のある小中規模のセレクトショップたちが奪っている顧客数は侮れない。
アリババグループのTmallやTAOBAO(淘宝)を始めとする大型電子プラットホームの浸透の影響も計り知れない。I.Tグループ自身も自社ECサイトは運営しているものの、大型電子プラットホームを脅かすのほどのシェアや存在感はない。
また、ひとつひとつの年商規模はまだまだ小さくとも、ピリリと個性のあるDtoCブランドが増えていることも影響しているのかもしれない。
95年生まれ以降のZ世代を中心に、スマホでしか買えないDtoCブランドへの注目は徐々に増えている。
2020年のI.Tグループはオリジナルブランドとしての出店計画が多く、買収による吸収も含め、個性のあるオリジナルブランドでの成長をさらに狙っているのだろう。
もちろん新型コロナウィルスCOVID-19の影響もあるだろうし、2020年前半の一時期は多くのスタッフを無給での自宅待機に踏み切ったことからも、決して事態が楽観視できるわけではないことがわかる。» 参考:【香港のアパレルグループI.Tがコロナ禍で業績低迷】2,3月は全スタッフを無給休暇に
ターニングポイントととなる上場廃止への決断
何より、香港そして中国大陸のアパレル業界を驚かせたのが先日2020年12月6日に香港証券市場に提出された上場廃止の通知だ。
CVC Capital Partnersのサポートにより一般株主からの株式買取を続けてきた結果、創業者の沈嘉伟は株式の50.65%を、CVC Capital Partnersは49.35%を保有することとなった。
年商1000億円を超える巨大ファッショングループ企業がすぐに倒れるというわけではないが、上場廃止によって財務状況が今後非公開になっていくうえで、今後出退店や新しいプロジェクトなどの動向に注目する価値はあるだろう。
従来のビジネスモデルでは輝かしい未来は見えず、脱皮を図るI.Tグループ。同じ時代に輝きを見せていたJoyceやレーンクロフォードなどの企業にも同じことが言える。
このまま落ち込んでしまうのか、なんとか舵をうまくきっていくのか。
この数年の動向から目が離せない。
兒玉キミト
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