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「表現に男も女もない」アートディレクター 石岡瑛子の回顧展が世界初開催

「表現に男も女もない」アートディレクター 石岡瑛子の回顧展が世界初開催

ACROSS編集部
ACROSS

世界初の回顧展が、東京都現代美術館で開催中。

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「TIMELESS」、「FEARLESS」、「BORDERLESS」。

3つの視点から、改めて、何が、どのように評価されるのか、を“再発見”できる展覧会。

とてつもないデザイナー、いやビジュアライザーと呼ぶべきか。日本と米国を拠点に活躍し、2012年に73歳で亡くなった石岡瑛子。その世界初の回顧展「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」が東京都現代美術館で開催中だ。半世紀の間、最前線を走り続けた仕事を網羅する本展は、唯一無二の「EIKO ISHIOKA」が再発見できる得がたい機会になっている。

[取材/文:永田晶子(美術ジャーナリスト)]

「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」展の会場入り口(撮影:永田晶子)

日本国内よりも実は海外での評価がものすごく高いアートディレクター、石岡瑛子さん。TIMELESS、FEARLESS、BORDERLESS、3つの視点で「デザイン」を考える。

なぜ「再発見」なのか。ある年代以上なら、石岡が担当し社会現象になった1960年代の資生堂のサマー化粧品や70年代のパルコのキャンペーン広告を記憶している人は多いだろう。だが、80年代初頭に米国に拠点を移し、さらに多彩な分野を手掛けたため、日本では全体像が見えにくい状況が続いていた。また作品の多くが海外にあり、実際に見るのは難しくもあった。本展はそうした状況に風穴をあけるものにもなりそうだ。

本展は2フロアにまたがり、「TIMELESS:時代をデザインする」「FEARLESS:出会いをデザインする」「BORDERLESS:未知をデザインする」の3章構成。タイトルの「血が、汗が、涙がデザインできるか」は、2003年に石岡が日本で行った講演に由来する。導入部の壁面は、その一節が掲げられ、会場デザインには“勝負色”である赤が効果的に使われている。

資生堂時代の仕事。左はサマーキャンペーン、右はホネケーキの広告 (撮影:永田晶子)

パルコのキャンペーン「あゝ原点。」では写真家の藤原新也と組んだ。(撮影:永田晶子)

第1章:「TIMELESS」: 新しい美人像を提案した、日本での活躍期。

第1章「TIMELESS」は日本での展開を紹介する。東京芸術大学を卒業した石岡は1961年に資生堂に入社し、洗顔石鹸「ホネケーキ」の広告で頭角を現す。入社面接で「男性と同じ仕事と待遇」を要求したという逸話が残るが、仕事で新しい女性像を最初に打ち出したのは69年のサマー化粧品キャンペーンだろう。前田美波里を起用したポスターは、今見ても画面から飛び出しそうな迫力があり、「旧来の美人像を塗り替えた」と評されるのもうなずける。

広告の観客から送り手へ、女性の立場を拡張すべく奮闘した資生堂時代に、一味違った作品も制作している。デザイナーの登竜門・日宣美展で最高賞を獲得したポスターの連作「シンポジウム:現代の発見」(65年)だ。提示した架空のシンポは、吉本隆明やジョン・ケージら国内外の代表的知識人と創作者の名前がずらり、テーマも先鋭的かつ広範囲に及ぶ。絶妙な立体感があるグラフィックは三角形や円錐形などの構造体をわざわざ作り、組み合わせて写真を撮影したうえでイラストに落とし込んだという。

高い感度とビジョン、企画力を併せ持ち、それらを統合して目に見える最適解の形に転換する。稀代のビジュアライザー誕生の序奏と呼びたい出来ばえである。元々石岡は60年に東京で開催された世界デザイン会議で発信された「デザインとは社会に対するメッセージ」との見解に大きな影響を受け、進む道を定めたという。独立後、次々と手掛けた広告が強いメッセージ性を伴ったのは必然だったかもしれない。

その指向は、71年から80年まで担当したパルコのキャンペーンポスターでも強く感じられる。半裸のモデルと挑発的なコピーが話題を呼んだ「裸を見るな。裸になれ。」、インド、モロッコロケを敢行した「あゝ原点。」、フェイ・ダナウェイを菩薩に仕立てた「西洋は東洋を着こなせるか」、沢田研二を起用した「時代の心臓を鳴らすのは誰だ」……。性や国境、貧富の枠組みを揺さぶり、消費者の意識改革を促す表現は力強く、その先見性に驚かされる。

日本での仕事を紹介する第1章「TIMELESS」の会場風景(撮影:永田晶子)

日宣美展で最高賞を受賞した連作ポスター「シンポジウム:現代の発見」(撮影:永田晶子)

第2賞:FEARLESS。映画美術の分野に進出。日米合作映画「ミシマーア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ」の金閣寺で注目を集めた。

第2章「FEARLESS」は各分野の表現者とのコラボレーションに焦点を当てる。80年代初頭、ニューヨークに拠点を移した石岡は日米共同出版した作品集「石岡瑛子風姿花伝 EIKO by EIKO」を名刺代わりに、次のステップへ歩みだす。日本の仕事でもクライアントや写真家との協働を重視したが、世界の才能と組むことで自分の可能性を磨こうとしたのだ。取り組む仕事も広告から舞台や映画美術、衣装デザインへとシフトしていった。

初めて映画美術に挑んだのは、ポール・シュレダー監督の日米合作映画「ミシマ━ライフ・イン・フォー・チャプターズ」(85年)だ。三島由紀夫の生涯と作品世界を重ねて描いた本作は、石岡の美術を含め国際的に高く評価されたものの、日本公開は中止された。本展では、主人公の心理を象徴する金閣寺のセットが再現されている。

日米合作映画「ミシマーア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ」の金閣寺(撮影:永田晶子)

ブロードウェイミュージカル「M.バタフライ」では舞台美術と衣装を担当した(撮影:永田晶子)

世界的な評価がさらに高まったのは、マイルス・デイヴィスの名アルバム「TUTU」。さらに、フランシス・フォード・コッポラ監督の映画「ドラキュラ」で1993年アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞した。

大きな賞を得てキャリアの節目になったのは、マイルス・ディヴィスのアルバム「TUTU」(87年グラミー賞最優秀レコーディングパッケージ賞)と、フランシス・フォード・コッポラ監督の映画「ドラキュラ」(93年アカデミー賞衣装デザイン賞)。会場にはそれぞれのアイデア案、ドローイング、実物のアートワークや衣装が並ぶ。自伝「私デザイン(I DESIGN)」によると、現場でのコッポラ監督との合言葉は「Never Seen Before」だったという。「今まで見たことがない表現を」。その言葉は、異分野に挑み続けた後半生のキーワードのようにも思える。

グラミー賞最優秀レコーディングパッケージ賞を受賞したマイルス・ディヴィスのアルバム「TUTU」(撮影:永田晶子)

アカデミー賞衣装デザイン賞を受賞した映画「ドラキュラ」の衣装(撮影:永田晶子)

第3章:BORDERLESSターセム・シン監督との「ザ・セル」、「落下の王国」、「白雪姫と鏡の女王」、さらに、歌手ビヨークの斬新なミュージックビデオも。

「BORDERLESS」と題した第3章では、そうした挑戦の数々とその実りを目の当たりにできる。中核をなす展示はターセム・シン監督と組み、衣装を担当した3本の映画「ザ・セル」「落下の王国」「白雪姫と鏡の女王」。どれも視覚の驚きがあり、登場人物の性格を肉付けする独創性に富む。「身体」と向き合った野心的なプロジェクトも印象深い。スリリングな視覚効果と安全性を両立させたシルク・ドゥ・ソレイユのステージ衣装、歌手ビョークの斬新なミュージックビデオ、ソルトレイクシティ五輪のためにデザインした競技ウェアなどだ。

映画「ザ・セル」の衣装ためのアイデアスケッチ(撮影:永田晶子)

シルク・ドゥ・ソレイユ「ヴァレカイ」の衣装(撮影:永田晶子)

新しい神話の世界を表現し、石岡ワールド全開に。

クライマックスは2年近くかけ制作したオランダ国立オペラ「ニーベルングの指輪」4部作の衣装。髑髏モチーフをちりばめたり、動物や昆虫のイメージを引用したり。神話世界を独自解釈した20数体がほの暗い大空間に浮かび上がり、圧巻だ。そして、本展準備の過程で見つかった「えこの一代記」がラストを飾る。石岡が高校生活の終わりに作った絵本で、未来への希望が将来を予見するように英語でつづられている。

ソルトレイクシティオリンピックでは、選手が集中するためのコンセントレーションスーツ(左)や競技ウエアをデザインした(撮影:永田晶子)

高校在学中に制作した「えこの一代記」(撮影:永田晶子)

「表現に男も女もない」。 Timeless、Original、Revolutionaryー。 2020年いま、時代を超えて。

本展がさまざまな角度から照射する「石岡瑛子」という存在。「Timeless、Original、Revolutionary」を希求した彼女が、現代に投げかけるメッセージとは? 本展を企画、担当した東京都現代美術館の薮前知子学芸員に聞いた。

*     *     *

「石岡さんはどのようなデザインであれ、『私の個性』を刻み付けるという強い信念を持っていた。アートディレクターとしてさまざまな人の仕事を取りまとめる時も、最後は自分の声に昇華させる強さがあった。コラボワークも数多く手がけていますが、相手との応答の中で自分の新たな側面を切り開いていったように思います」。

女性デザイナーの草分けでもあった石岡。特に初期の仕事では時代を画する新しい女性像を打ち出した。

「自身は女性のクリエーターであることを意識せず、『表現に男も女もない』と考えていた。仕事に対する厳しい姿勢は、男性社会の枠組みを保管する所があるとして反発もされたようです。晩年は性や国籍、年齢といった属性から解き放たれ、自由に制作したいと願っていた。ただ、女性=マイノリティーから生まれるパワーは常に意識していたのではないでしょうか」

本展は新型コロナウイルス感染拡大のため、7月予定だった開幕は11月に延期された。作品の多くは米国のアカデミー美術館とUCLA図書館が所蔵しており、権利関係も複雑なため、出品交渉は困難が伴ったという。

「この規模での回顧展はもう実現しないのではないでしょうか。『デザイン』の言葉が軽く使われる今、石岡さんのストレートな美学を受け止め、考える機会にしていただけたらと思います」

石岡瑛子 1983年 Photo by Robert Mapplethorpe  ©Robert Mapplethorpe Foundation. Used by permission.

「石岡瑛子 血が、涙が、汗がデザインできるか」展は東京都現代美術館で2月14日まで。

*「石岡瑛子 血が、涙が、汗がデザインできるか」展
・会場:東京都現代美術館
〒135-0022 東京都江東区三好4-1-1(木場公園内)
TEL:03-5245-4111(代表)
またはハローダイヤル 03-5777-8600(8:00-22:00 年中無休)
・会期:〜2月14日まで。
・月曜(2021年1月11日は開館)、12月28日ー2021年1月1日、1月12日は休館。
・新型コロナ感染防止のため、予約優先チケットを販売中。
詳細はHPで確認してください(https://www.mot-art-museum.jp/)。

*展覧会のHP
https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/eiko-ishioka/

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