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作り直さないリメイク――イトキンが立ち上げたD2Cブランド「リマイン」とは?

作り直さないリメイク――イトキンが立ち上げたD2Cブランド「リマイン」とは?

クリエイティブディレクター
HAKATA NEWYORK PARIS

 2016年2月に投資会社インテグラルの傘下となり、未だ再建途上にあるイトキン。同社は倉庫在庫を新しいデザインにリメイクするD2Cブランド「リマイン(RE:MINE)」をスタートした。すでに公式オンラインストアに専用ページを設け、10月13日からは「テープ」「ビジュー」「ネイビー染め」の3シリーズを販売している。

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 アパレル業界が売り上げ不振に喘ぐ中、余剰在庫を廃棄することなく再利用するのは、SDGsや収益向上から至上命題と言える。このテーマにイトキンはリメイクという手法でアプローチするわけだ。EC事業部の指揮のもと、社内公募された30代のデザイナーと入社2年目のWeb担当者という若手でプロジェクトチームを結成。子会社「ジャストモード」のサポートを受け、余剰在庫に新しい息吹を吹き込む。

さりげないプラスワンでトレンド感を出す

 オンラインストアで公開されたリマインを見ると、その方向性が垣間見える。リメイクと言っても、異素材を接いだパッチワークやニットを解いて編み直すようなものではない。テープはコートの後ろ襟や袖ベルト、ベンツ、ニットの左肩やスカートの両脇スリット、パンツの裾などにストライプの「グログランテープ」を付けただけ。Dカンに通して後ろ襟に縫い付けたテープは、プリントロゴともに背中のあて布上で存在感を示し、アイコンの役割も果たす。

 ビジューは、ニットにプリントしたロゴのコロン(:)やカーディガンのボタンをジルコニア風の「合成石」に替える遊び心のあるデザイン。また、ニットの胸元に「エナメル合皮」や合成石をアクセサリー風に飾る。ネイビー染めは、ブライトカラーニットや幾何学ジャカード柄のカーディガンなどをその名の通り「紺色」に染め変え、さらにボタンを付け替えるなど、シックで落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 リメイクは在庫品そのものをベースに一部の装飾や色替えを施したもの。それでいて、適度なトレンド感を打ち出したり、ノスタルジックという別のテイストに置き換えている。ベース商品がそのままアウトレットやオフプライスストアに並んでいると購入に二の足を踏むお客も、装飾や染めでバリューアップしたことで、オンラインストアなら手を伸ばす可能性が高い。さりげないながらプラスワンの魅力で売りにつなげようという狙いも窺える。

 元来、イトキンは全国各地のブティックなどと取引する専門店系アパレルだった。メーンターゲットは洋服好きでお洒落を楽しむ女性たち。商品企画は素材開発から力を入れ、練り上げられたデザイン、パターン、縫製、加工に至る全てで最高レベルを追求していた。それがブランドを増やしてSPA化し、百貨店やSCに販路を拡大する過程で影を潜めてしまった。結果、売上げ効率ばかりが重視され、拘りあるモノ作りがなおざりにされたような気がする。

 マスマーケットを攻略する上では、全てのお客が作り込まれたお洒落な商品を求めるわけではない。多くはトレンドから外れることなく、そこそこのレベルで値ごろであれば良しとする。しかし、そうした売れ筋を追求していけば他社との競合は避けられず、レッドオーシャンにのみ込まれていく。イトキンの場合も例外ではないだろう。しかも、大手で店舗数も膨大なので、どうしても余剰在庫が膨れ上がってしまうのだ。

 本来ならリマインのような遊び心あるデザインこそ、専門店アパレル・イトキンの真骨頂ではなかったのか。報道によると、社内のプロジェクト責任者は「数字は追わない」「自由にチャレンジしてもらい、結果、ブレイクしたら嬉しい」「…少ない人数で手掛けることで、事業計画もサスティナブルに長く続けていきたい」「ノウハウを蓄積して、将来的には他社商品なども取り扱っていきたい」などと、リメイク事業の位置付けを語っている。

 価格帯はカットソーが4900~6900円、ブラウス・ニットが5900~7900円、カーディガン、ボトムが6900~8900円、ドレスが8900~1万1900円、ジャケットが9900~1万2900円、コートが1万4900~1万7900円といたって値ごろだ。アイテムあたりの数量は限定し少なくて5点、多くても20点。消化はほぼ確実だと思われる。

本流の商品企画をブラッシュアップ

 あとはリメイクを手掛けるデザイナーのアイデアやセンス、装飾などのさじ加減が重要だ。一応、コンセプトはトレンドとノスタルジック。ベース商品が過去何シーズンまで遡った在庫かはわからないが、前年でトレンドが変わったなら、2年前のものは色やデザインなどが違っているはず。それを逆手に取ることで、ノスタルジックとの位置付けもできるわけだ。まさにリメイクは企画の妙であり、作り手のセンスそのものだ。

 前出のプロジェクト責任者によると、「レースや付属など取引先の余剰資材の活用も進めている」という。イトキンが自社流リメイクのノウハウを構築して、他社と連携したマルチプルなプロジェクトに発展させていくのが理想的だ。ならば、余剰在庫全体のアップサイクル、廃棄ゼロに貢献でき、SDGsの流れを作るアパレルのリーディングカンパニーも見えてくる。

 もちろん、リマインは最初から大きな数値目標を掲げるのではなく、自由にリメイクを進めることに重点が置かれている。売れ筋追求に飽き飽きしていた顧客は、かえって敏感に反応するだろうし、既存ブランドと感度面を比較して購入対象にするお客もいるはず。それはイトキンから離れていったお客を呼び戻し、新たなファンを獲得するチャンスでもある。

 しかし、それで終わってはならない。イトキンはあくまで再建途上にある。リメイクブランド・リマインがお客の信頼を集めるなら、その理由を詳細に分析してデータ化し、本流の商品企画の参考にすべきではないのか。リマインを購入したお客のどれくらいがSDGsやリサイクルを意識して商品を購入したのか。むしろ、それらは少数派でデザインに惹かれたからではないのか。データからはいろいろ読み取れると思う。

 「こうすれば、売れるのか」。本流の商品企画部は傍流のリマインからいろいろと学べるだろうし、当のリマインは余剰在庫のアップサイクルと廃棄ゼロを目指して、さらにデザインに磨きをかければいい。そうすることで、イトキンの社内で本流と傍流が切磋琢磨し、企画力の底上げにもつながる。それが再建のカギにもなるのだ。

 プロモーションはプロジェクトのWeb担当者が撮影やモデル、SNSの運用、コンテンツ作りまでを行うという。リメイクにもっとスポットを当てるには、年2回程度のコレクションを開催してもいいだろう。クリエーションに徹してシルエット、サイズ感を全く変えたり、解いた毛糸を染め直して編み直すなど、あくまで「魅せるリメイク」の場とする。フリーのデザイナーや専門学校生にも余剰在庫を提供して、コレクション参加を呼び掛けてもいい。

 アパレル不振にコロナ禍が重なり、世界規模でメーカーや百貨店の破綻が相次いでいる。それでも、まだまだマーケット規模を超える商品が生み出されており、一定規模の余剰在庫は発生している。海洋汚染やCO2発生を抑制するには、商品廃棄をできるだけ減らすことだ。二次流通もその一つで、リメイクも含まれる。

 それには人材や加工技術などへの投資が必要なのだが、それを惜しんでいては前に進まない。イトキンでは社内で若手が手を上げ、技術系の子会社を抱えていたことがリメイク参入の足がかりとなった。そう考えると、これからは大手アパレルが主導し、外部のいろんな人材や技術を巻き込み、業界全体でリメイクプロジェクトを進めていくことも必要だろう。

 まずは余剰在庫を出さないことが前提なのだが、出してしまったものをリメイクして市場に流通させることで、新規生産量を減らすことにも繋げられる。この際、在庫に対する決算期の課税問題、減損処理は置いておくとして。お客もSDGsに貢献することを理解すれば、タンス在庫を活用して自らリメイクを行おうという気になるかもしれない。尚更、自分でカスタマイズした服には愛着が湧き、大事に着るはずだ。

 そうしたムーブメントを作ること。イトキンのリマインが余剰在庫を出さない仕組みや新しい価値観を生み出すことにも期待したい。

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