いまなおアナログな業務が多いアパレル業界。特に、アパレル生産流通の原点であるものづくりの現場に関してはテクノロジーの活用事例は少なく、他業界と比べても大きく遅れてると言わざるを得ない。
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アパレル特化型SaaS「AYATORI」を開発・提供する株式会社DeepValleyは、そんなアナログなサプライチェーンから脱却するべく挑戦を続けている企業の1つだ。
AYATORIは、生産管理業務に必須のデータと社内外とのコミュニケーションを一元管理できるプラットフォームサービス。AYATORI上にアップロードした縫製仕様書などを社内外の関係者に共有でき、チャット機能を使ったコミュニケーションが可能となっているため、従来の生産業務で頻発していたミスコミュニケーションや情報・進捗の共有漏れなどを未然に防ぐことができる。
アパレルとIT、2つの業界をバックグラウンドに持つDeepValley創業者・深谷玲人さんの経験と気づきから生まれたこのサービスは、凝り固まったアパレル業界の構造を解きほぐす可能性を秘めている。
さまざまなブランドの立ち上げに携わった深谷さんは、なぜIT業界に飛び込んだのか。2つの領域を渡ることで見えてきたアパレル業界の抱える課題とは何なのか。そして、AYATORIのサービスで実現したいこととは。深谷さんにお話を伺った。
アパレル業界を効率化する“アパレルものづくりのためのGitHub”
──DeepValleyを創業されてから、アパレル生産管理プラットフォーム「AYATORI」のサービスを展開されています。改めてアパレル業界のデジタル化を目指す上で、生産管理にフォーカスした理由をお聞かせ下さい。
AYATORIは、一言で言うとアパレルものづくりのためのGitHub、あるいはものづくり用のLINEのような、業者間のコミュニケーションや情報の一元管理を支援するコラボレーションツールです。
この業界のサプライチェーンの図を見たことがある人はわかると思いますが、アパレル業界の構造は複雑に入り組んでしまっています。そのこんがらがった線を解きほぐして繋ぎ直して再構築したいという思いを込めて、AYATORIという名前にしました。
創業当時は、テクノロジーの力を使って効率的に売り上げをつくりだせるブランドを創出する支援事業などを行なっていたのですが、アパレル業界全体の効率化を図らなくてはならないという課題に直面しました。
この業界の効率化を阻んでいる最大の要因はものづくりの現場です。消費者も売り手もECを活用することを当たり前だと感じはじめている中、製造の現場だけがデジタル化に対応できておらず、旧態依然とした構造のままになってしまっています。他の企業で勤めていたときも、指示書の情報がデジタル化されていなかったために無駄な作業が多く発生していました。アナログになってしまっているものづくりの始点をデータ化できない限り、いずれこの業界は破綻しかねません。
この課題に取り組むことが、ものづくりとITの知識を併せ持つ我々の使命だと思っています。本当はブランドの創業支援をやりたいのですが、どうしてもここがボトルネックになってしまうので、ものづくりの効率化を実現するためのサポートシステムの開発を最優先に考えました。
──これまでのAYATORIの導入実績を教えてください。
AYATORIは現在、無料プランと有料プランの2種類のプランを用意しており、それぞれあわせて約200のユーザーに利用していただいています。傾向としては、社員数の少ない少数精鋭の企業や他の業界からアパレル領域に参入された企業から問い合わせをいただくケースが最も多いですね。特にD2C系ブランドの方からは、アナログな製造工程の効率化についての相談をよくいただきます。ほかにも1社で複数のブランドを保有している大手企業などから各ブランドの管理ツールとして利用したいとお声かけいただいています。
──AYATORIを導入することで企業側はどのようなメリットを受けられるのでしょうか?
一番はコミュニケーションの円滑化です。アパレル業界は生産過程の確認などで電話をよくかけることが多いですよね。AYATORIを使えばそれらに関するデータが格納されているため、いちいち電話で確認する必要がありません。導入していただいた企業からは、いままで1日何回も電話していたのが7〜8割ほど減らせたという話をよく聞きます。
SlackやDropboxなどすでに普及しているサービスはありますが、それらだけではアパレル業界のニーズにあわない部分が出てきてしまいます。そのため、要望を叶えるアパレル業界に特化した仕組みが必要でした。アパレルの現場の方々にとっても簡単に活用できることが求められていたので、AYATORIを開発しています。
──サービス開始以来、手書きの縫製仕様書のデジタル化機能やOCR(画像データから文字を読み取り文字データ変換する光学文字認識)機能などを追加されています。これらの機能は内製で対応しているのでしょうか?
基本的にAPIの組み込みが殆どです。僕自身もともと非エンジニアなのでゼロイチで開発するというよりかは、既にある機能をつなぎ合わせてつくりたいと考えています。
デジタル化を阻むアパレル業界の閉鎖性
──DeepValleyの起業の経緯を教えてください。
僕はこれまでアパレル業界で11年間、6社を転勤しながら販売員から営業、MD、ブランド責任者までいくつかの役職で勤めてきました。その中で転機になったのは、2014年頃に入社したマークスタイラーでの経験です。
マークスタイラーは当時、インフルエンサーによるオンラインブランドを立ち上げて投資するという、今でいうD2Cのような事業をいち早く手がけていました。僕はそのブランド開発事業部の部長を務めさせていただいたのですが、そこで店舗がなくともECだけで売り上げがつくれるというテクノロジーの強みを実感したんですよね。
会社の方針変更に伴いその事業部はスケールしませんでしたが、テクノロジーの可能性を感じられたので、IT領域に関する知識と経験をもっと蓄えたいと考えました。僕は学ぶより慣れろ派なので、オンライン営業システムを開発するITベンチャーのベルフェイスに社員第1号として入社しました。
さまざまな業界を支援していく中で、アパレル業界はこんなに遅れているのかと痛感しました。他の業界でできていることはまだ僕らはできていません。そこで僕が身につけたITの知識をアパレル業界に還元するために、ファッション×ITの会社を起業しました。
──アパレル業界のデジタル化が遅れている原因をどのように分析されていますか?
アパレル業界が閉鎖的な業界であるということが大きいと思います。生産側の製造合理に基づいた金額と消費者が求める金額には大きな差異があり、消費者に金額面で認められるために、製造ロットを増やしてスケールメリットを効かせるということが業界内で定番になりつつあります。さらにその結果、他ブランドや企業と差別化を図り購買意欲を誘うために、消費者に情報を与えず隠し続けることが常態化しています。
また工場やOEMなども、生産背景などに関する情報を遮断することで付加価値を産んでいます。コレクションについても限られた記者やインフルエンサーのみに公開していたりと、横に広い業界にも関わらず、横との情報を遮断して隠すことがこの業界で当たり前になっています。情報の閉鎖性や非対称性が業界のエコシステムの発展を妨げているのではないでしょうか。
人と人を繋ぐアナログなネットワーク
──2019年12月にAYATORIコネクトサービスを開始されています。サービス開始の背景を教えてください。
AYATORIコネクトサービスは、アパレル製品の生産と海外からの買い付けの両方をサポートするシステムです。AYATORIのサービスを展開する中で、工場や卸業者などを紹介してほしいという相談が多く寄せられていました。AYATORIのサービスを利用している企業への依頼などもできるため、カスタマーサクセスにつながると思ったので、費用を取らなくてもいいからサービスにしてしまおうと考えました。
──では、AYATORIユーザーの企業同士をつなげることが多いのですか?
当初はそうでしたが、最近ではAYATORIユーザーではない企業との事例も多くなっています。顧客のメリットになるのであれば繋がせていただきたいなと。
──ユーザー外の企業とはどのように連携を取っているのですか?
一番は我々がもともと持っていたネットワークです。僕自身6社転職しているので業界内に知り合いが多く、これまで繋がりがあった人からさらに紹介してもらうこともよくありますね。例えば、商社出身の方は3桁単位で業者を知っていたりします。繋がりある人のネットワークを使うことで無尽蔵に繋がりが広げています。
──直接工場や企業に営業することはありますか?
直接の営業はほとんどしていません。もちろん国内であれば一部ありますが、海外の工場や企業に関しては取引経験のある方にアプローチをして繋いでもらうケースが多いです。
──アパレル業界のアナログな人と人のネットワークをうまく使っているんですね。
完全にアパレル業界が村社会だからこそできることですね。業界の狭さを有効に活用して、横の繋がりがあるコミュニティの懐に入れれば業界内でのネットワークは構築できます。
アパレル業界のキャッシュフローの現在
──AYATORIコネクトサービスと同時期に、請求書をオンラインで買取するクラウドファクタリングサービスを提供するOLTAと業務提携契約を締結してAYATORIファクタリングサービスを開始されています。OLTAとの提携に至るまでの経緯や背景について教えてください。
現在アパレル業界でファクタリングのような金融サービスを展開しているのは商社だけです。商社を利用するメリットは商社が持つネットワークと同等にこの金融サービスが挙げられます。手数料数%を払えば、工場側は生産工程上の資金を確保できるため、安心して生産することができます。また、ブランド側も支払いのタイミングを動かせるので、ロングテールな商品で勝負ができます。
ただし、銀行同様に審査が厳しく、財務的に信頼が置ける大手でない限り利用しづらいという現状があります。これだけアパレル業界が斜陽している中、新しく審査を通すことが難しいんです。これから新しい挑戦をしていこうとしてるブランドや企業の中には銀行からお金を借りられないところも多く、キャッシュフローに大きな課題を抱えていることがしばしばです。
生産管理やネットワーク構築同様に、アパレル業界のお金の問題は不可避の課題です。少しでも金銭面に頭を悩ませている企業の助けになりたい考えをVCの方に相談したところ、その知り合いのVCの方に紹介していただき、OLTAさんと繋がりました。たまたまお互いのオフィスが近くにあったということもり、OLTAさんに2回ほどご相談させていただいき提携させていただきました。
──新型コロナウィルス以降、アパレル生産におけるキャッシュフローの問題はどの程度発生しているのでしょうか?
結論から言うととても多いです。発注を受けたあとにキャンセルされたという話もよく聞きます。ものづくりは納品してようやく売り上げが立つ仕事なので、生地や資材などの先払いがどうしても発生してしまいます。事前にお金が入れば準備して動けますし、円滑な生産スケジュールを組めるので、アパレル業界の効率化のためにも経済面を支援する必要はあると思います。
製造から販売までPC上で完結するツールへ
──AYATORIの関連サービスは今後どのように拡充していく予定ですか?
僕らは将来的に製造から販売までを一気通貫してパソコンだけで行える状況を目指しています。手間がかかる業務を効率化することで、アパレル業界の人がクリエイティブな部分にちゃんと時間をかけられるようにしていきたいですね。
DeepValleyが目指す姿は、セールスフォース・ドットコムです。セールスフォースのようにさまざまな企業と提携しながら、生地や仕様、EC、SNS、市場など幅広いデータを一元管理できるサービスにしたいですね。
なにより僕らが本当にやりたいことはブランド支援です。そのために必要な部分は今後さらに開発していかなければならないと思う反面、ブランドさんがAYATORI上にあるデータベースを使ってビジネスをできるようなところまで実現したいので、OLTAさんのように力を借りるべきところとは提携を積極的にしていこうと考えています。
>>DeepValley(ディープバレー)
ブランド支援のために、AYATORI関連サービスを拡充させていくという深谷さん。業界全体の構造をよりよくするためには、まず生産工程を効率化することが欠かせない。もちろんアパレル業界のアナログな部分が全て悪いわけではなく、業界が培ってきた横とのつながりなどのレガシーを活用しながら、デジタル化を進めていくことが重要なのかもしれない。
後編では、異なるバックグラウンドを持つ人と協業するためのノウハウや深谷さんが抱くアパレル業界の理想像について聞いていく。
Text by Naruki Akiyoshi
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