

■ネット通販最大手のアマゾンが先週、自然食品スーパーマーケットチェーンのホールフーズ・マーケットを買収することを発表した。買収額は137億ドル。2009年に買収したザッポスの10倍だ。アマゾンでは過去最大規模の買収となる。IT企業がスーパーマーケットチェーンを約1.5兆円で買収したことで日本でも大いに注目を集めている。今日は、なぜアマゾンはホールフーズを買収したのか、なぜホールフーズは身売りを選んだのかをここで解説する。
アマゾンの前にホールフーズの現状を知る必要がある。単的にいえばホールフーズは現在、競合からの攻勢にあい業績低迷が続いているのだ。ホールフーズが先月発表した第2四半期(1月~3月期)では売上高が37.4億ドルと前年同期比1.1%の増加だった。純利益は9,900万ドルとなり、前年の1.42億ドルから30.3%減と大幅に減少した。一方、既存店・売上高前年同期比は2.8%の減少となり、7四半期連続して前年を下回っている。既存店ベースは100年に一度と言われた景気後退時の4四半期連続をこえ、7四半期連続して前年を下回っている。原因はウォルマートや競合スーパーがオーガニックの品揃えを増やし、ホールフーズの顧客を奪っていることにある。割高なイメージからつけられたニックネーム「ホール・ペイチェック(Whole Paycheck:給料の大半が高額なオーガニック食品に使われるという意)」を払拭できずにいる間、競合スーパーが価格を抑えたオーガニック食品を増やしているのだ。調査会社バークレイズによると、約1,400万人の顧客をスーパー最大手チェーンのクローガーに奪われている。同社の株価は2013年10月をピークに半値近くにまで下落していたのだ。業績低迷を受け、4年前に掲げた1,200店舗展開を棚上げし、9店舗に及ぶ店舗閉鎖を発表した。その頃、ヘッジファンドのジェナパートナーズがホールフーズの株式9%近くを取得し第2位となる株主となった。ジェナパートナーズは集客に苦戦するホールフーズに経営再建のため、取締役の刷新、新フォーマット「365・バイ・ホールフーズ」の再検討、競争力を強化するためのITと運営効率の改善化など圧力をかけだしたのだ。ホールフーズの身売りも検討に入っていた。アマゾンがホールフーズを買収する直前、テキサス・マンスリー誌(Texas Monthly)のインタビューでホールフーズCEOで創業者のジョン・マッキー氏は「ビジネスの世界ではソシオパス(社会病質者)のように貪欲な輩が人々を騙し、顧客をないがしろにし、従業員を濫用し、有毒廃棄物を環境に捨てている」と話している。彼は「こういった輩がホールフーズ・マーケット(の株)を買って大儲けしようとしている。私が(強欲な輩を)嫌っていることを彼らに知らしめる必要がある」と述べている。また「ホールフーズは私のベイビーであり、守るべき子どもです。子供を乗っ取る前に親である私を倒さなければなりません」とヘッジファンドとの戦いを示唆しているのだ。つまり、マッキー氏はホールフーズを金の亡者から守るため、後ろ盾となる協力者が必要だったのだ。
一方のアマゾンはネット専売ストアからリアル店舗の展開を拡大している。同社は先月、リアル書店の「アマゾン・ブックス(Amazon Books)」の7店舗目をNYマンハッタン地区にある「ザ・ショップス・アット・コロンバス・サークル(The Shops at Columbus Circle)」SCにオープンさせた。大型ショッピングモール内の「ポップアップストア(Pop-Up Store)」も30ヵ所以上に展開している。UCバークレー等いくつかの大学キャンパス内に受け取り施設も開設している。10年前から生鮮品の宅配を始めているアマゾンは先月末、ドライブスルー専用スーパー「アマゾンフレッシュ・ピックアップ(AmazonFresh Pickup)」を一般公開した。ドライブスルー専用スーパーは利用者がネットで注文した生鮮食品などを、車から降りずに商品を受け取るサービスストアだ。店の中で買い物ができるインストア・ショッピングはなく、倉庫となる300坪弱の「ダークストア(dark store)」に専用の駐車スペースがついた食料品の受け渡し専用拠点となる。アマゾンフレッシュ・ピックアップは、ダークストアでスタッフが商品の選択と袋詰めを行い、予約した時間に顧客の車まで運ぶ。アマゾンフレッシュ会員なら注文から15分でピックアップできるのだ。オープン直後とはいえ、アマゾンフレッシュ・ピックアップに利用者はまばらだ。夕方でさえ利用者は多くない。原因はダークストアにあると推測する。ピックアップ利用者は野菜や果物、お肉やシーフードなど生鮮品を多くの中から選ぶことができないのだ。CDや本とは異なり生鮮品は腐る。利用者が少ないため、ダークストアの生鮮品はすぐにダメになる。つまり倉庫内の売れ残った生鮮品は廃棄(もしくは寄付)となり大幅な赤字に陥っていると想像できるのだ。アマゾンはダークストアでなく、店の中でも買い物ができるインストア・ショッピングを提供する必要に迫られている。つまりスーパーマーケットを展開する必要がある。しかし、彼らには食品スーパーのような鮮度管理を行うノウハウは持ち合わせていない。またスーパーの店舗オペレーションや仕入れ、物流についても素人だ。したがってスーパーマーケットについての実務専門家が必要となっている。しかし専門家なら誰でもいいという訳ではない。年会費99ドルのアマゾン・プライム会員やアマゾンフレッシュ会員(年会費99ドルに月々15ドル)と顧客が被る食品スーパーとなる。ホールフーズの主要顧客は富裕層であり、年会費99ドルに月々15ドルを支払えるだけの顧客をもつ。富裕層地区に展開する400ヵ所以上のホールフーズはピックアップ拠点としても好都合となる。生鮮品販売を拡大するアマゾンでは、ホールフーズが約1.5兆円の投資に十分見合うというわけだ。
両者のニーズが合致した買収といっても、事がスムーズに進むとは限らない。IT系企業と食品スーパーと全く畑が違う上、アマゾンCEOジェフ・ベゾス氏とマッキー氏は相当、アクが強いことでも知られている。この結婚は波乱含みでもあるのだ。
トップ画像:シアトル近郊ベルビューの365バイ・ホールフーズ・マーケットの青果コーナー。アマゾンは食品スーパーのような鮮度管理を行うノウハウは持ち合わせていない。スーパーの店舗オペレーションや仕入れ、物流についても素人だ。したがってスーパーマーケットの実務の専門家が必要となってくる。

シアトル・バラード地区にあるアマゾンフレッシュ・ピックアップ。オープン直後とはいえ、アマゾンフレッシュ・ピックアップに利用者はまばらだ。特に午前中は利用者をみかけない。夕方も人はいない。原因はダークストアにあると推測する。ピックアップ利用者は野菜や果物、お肉やシーフードなど生鮮品を多くの中から選ぶことができないのだ。CDや本とは異なり生鮮品は腐る。利用者が少ないため、ダークストアの生鮮品はすぐにダメになる。つまり倉庫内の売れ残った生鮮品は廃棄(もしくは寄付)となり大幅な赤字に陥っていると想像できるのだ。
17年6月18日 - 【アマゾン】、ホールフーズ買収!コンサルティングセミナー・エグゼクティブ・コース?
⇒こんにちは!アメリカン流通コンサルタントの後藤文俊です。アマゾンによるホールフーズ買収について緊急に記した理由は、メイシーズのオムニチャネル化戦略で誤った専門家の指摘をネット等で読んでいたからです。なぜ彼らが間違った見方をしてしまうのかというと、現場を見ていないからです。実際に買い物もしていないからです。スタッフや利用者と話しもしていません。日本人専門家の多くが、日本語ニュースなど二次・三次情報から得た情報しか持ち合わせていないため、想像で答えてしまうのです。人手を介した情報ではない一次情報に触れていないため、間違った見方をしてしまうのですね。後藤は流通コンサルタントなどにコンサルティングする立場でもあります。決して、彼ら以上に私が優秀なわけではありません。ただ頻繁に現場に行き、数えられないほどの画像を撮影し、小売アプリを使い、買い物をし、調理したり、食べたり、返品したりと消費者としても様々な体験をしているから、コンサルタントにアドバイスできるのです。
アマゾンによるホールフーズ買収を分析する専門家は、まずはアマゾンフレッシュ・ピックアップやアマゾン・ゴー、ホールフーズ、365バイ・ホールフーズに行って見ることをお勧めします。
ADVERTISING
最終更新日:
ADVERTISING
PAST ARTICLES
【激しくウォルマートなアメリカ小売業ブログ】の過去記事
JOB OPPOTUNITIES
最新の求人情報(求人一覧)
1 / 1