
先日、吉本興業の大崎洋さんを撮影させてもらった。ダウンタウンを育て、いまやタレントだけでも6000人以上が所属する大会社の社長さまは一体どんな方なんだろう...、待ち受けるスタッフにも自然と緊張感が生まれる。
それなりの「威厳(風格?)」を覚悟してはいたものの、実際カメラの前に立つと、寛平兄やん顔負けのオモロ顔を連発されるものだから、現場は一瞬にして爆笑の渦に包まれた。エンターテイメント界で「人を喜ばせる術」を学んできた達人のパフォーマンスに、えらく感動を覚えた。
「Amazon Fashion Week TOKYO」と名称を変えた東コレ。世界最大級のECサイト会社が後ろ盾に付いたことで、オラが国のファッションウィークはどのように変わっていくのか。2日目だけの復活となった『孤独のコレクション日記』では、「キディル(KIDILL)」と「ウミット ベナン(Umit Benan)」に焦点を当てて考えてみよう。
山手線でいえば、渋谷の真反対に位置する巣鴨。ここは知る人ぞ知るピン◯街の街だ。日が暮れずとも醸し出される妖艶な雰囲気は、まるで異空間にでも迷い込んだかのよう。建ち並ぶホテルの小道に仕掛けられた、お化け屋敷顔負けのオブジェ(?)の恐怖は、本日の目的地「東京キネマ倶楽部」へと続いていく。
グランドキャバレーを改修した館は、いまではコンサートやパーティを行うイベントスペース。すでに舞台上に設置されたバンドセットと、事前に入手した「現代の不良たち」というキーワードからは、演出、クリエーションともにある程度の予測が立てられる。

コヨーテ ミルク ストアの演奏にノッて歩くモデルたちは、ヒョウ柄のセットアップやビッグサイズのデニムのセットアップを着た男の子たち。ラストに登場したお化けモチーフのニットが目の前を通り過ぎたときには、やっぱりこの界隈は「お化け屋敷だったんだ!」と思わずにはいられない。きゃー!
キディルワールド全開のスタイルは、訪れたファンたちを喜ばせるには十分だったのかもしれない。しかしながら、この世界観に「大人」というキーワードを加えてみると、途端にマーケットが小さくなってしまうように感じる。クリエーションの良し悪しはさておき、今後キディルはどうしたいのだろうか?
これは日本ブランド全体に言えることだが、みな将来的なビジネスプランは持ち合わせているのだろうか。クリエイターである以上、いまの気分を形にすることはとても大切なことだが、シグネチャーブランドという"ベンチャー企業"を取り仕切る人間としては、明確なビジネスプランは必要不可欠だ。
〜ブランドを成長させていくためのビジョン〜
ここにはクリエーションだけでなく、2年、3年後のマーケティングもプランニングされていなければならない。その視点から見据えると、今の気分をカッコよく、自分らしく表現するのであれば「一大ムーブメント」を起こすくらいの気概がないと難しい。
ファッションとは到底無縁と思われる地で行われたライブショーは、ジャーナリストとファンのみが見届けたもの。そこにあった演出やコレクションからは、「キディル」というブランドが持つマインド以上の「ギャップ(驚き)」は、残念ながら感じ取られるものではなかった。

写真:村瀬昌広
「なにゆえのウミットなのか?」
2016--17A/Wの「女体盛りコレクション」(写真上)で、我が国を小バカにしたベナンちゃん。たとえそれが日本文化をリスペクトしたつもりであったとしても、演出も含めあんな下品なコレクションは見たことがなかい。今回の旅は、その失態を悔い改めるものなのか、それとも新たなバッカーを探すためのものなのか...こればかりは呼んだ当事者と本人サイドにしかわからないお話。
コレクションを見て感じたことは、やはり高いお金を払ってまで彼を呼ぶ必要性はなかったのでは? ということ。テキサスからメキシコにかけてのロードトリップを題材にしたコレクションは、テーラードやジャージィなどにウエスタンの要素を取り入れたもの。パイピングが施されたシャツやダブルブレストのジャケットは、ウミット好みのヒゲヅラの男たちによって体現されていく。デビュー以来、もっとも多い観客に見届けられたコレクションは、東京をはじめとするアジアマーケットに合致するとはいい難いものに感じられた。

冒頭の大崎社長は、「肩書きとのギャップ」で、俺っちたちを楽しませてくれた。
ファッションには遊びが必要なのだ。既定路線、ありきたりのクリエーションに傾倒する日本ブランドにはこのギャップ力が足りていないのでは、と感じる。舶来物にアレンジを加え、あらたな商品を開発する能力に長けている日本人。しかしながら時として、利便性ばかりを優先してしまい、肝心のデザインが漂白されすぎてしまう傾向にあることは否めない。個人的には燃費良く走るプリウスよりも、故障ばかりするアメ車のほうが好きだ。結局、人生を謳歌するって、こういうことなのかもしれない。服も同じことで、どこかに「余地」があることと、既存のスタイルにハマりきらない、ある種のギャップがあってこそ楽しいものではないだろうか。
はたして残り4日間で、大崎社長を超える驚きを与えてくれるブランドはあるのだろうか。 パンタロンパンツにおかっぱズラをのっけながらも、毎回同じような辛口批評に終始したギャップ力のない俺っちは、今日もまた孤独を楽しみながらショーを回るとしよう。
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