

TSIホールディングスという会社は、長らく日本の大手アパレルとして君臨していたサンエー・インターインターナショナルと東京スタイルが、2011年に経営統合して生まれた会社である。その子会社にアングローバルがあって、上質なノームコアの流れで業績が好調なマーガレット・ハウエルに加え、アメリカ生まれのトッド・スナイダーを2014年から展開している。マーガレットが提案するのがイギリスの上質な生活なら、トッドの世界観はNYの上質な生活。キャス・キッドソンやプラネットブルーなどのインポート勢を続々とクローズしているTSIホールディングスにとっては、何としてでも"第2のハウエル"に育てたいのだと思う。ファッション・ウィークのトップバッターに抜擢したというだけでその意気込みが感じられる。

体育の日の休日スタートということもあり、客入りは正直悪かった。渋谷ヒカリエのAホールという会場は、立ち見が少ないと雰囲気が残念なかんじになる。しかし、白で統一されたランウェイと建築中の海の家のような白木の骨組みのセットは、なかなか爽やかで素敵だった。トップバッターは、インディゴのブルーのペンキを乾かないうちに刷毛で撫でたような柄のミリタリージャケットとショートパンツのセットアップ。インナーの白シャツは第一ボタンまできっちり留め、シューズはイギリス製(おそらくサンダース)のゴツめのプレーントゥ。モデルは雑誌「オーシャンズ」などで活躍中の平山祐介で、少し意外性のあるチョイスである。

その後もインディゴの行進が続くのだが、中盤に味のある渋いおじさんが登場したと思ったら、中目黒の古着屋「ジャンティーク」の内田斉さんだった。かっちりとしたネイビージャケットとベストに合わせたのは、ペンキだらけの履き込んだフレンチのワークパンツ。ジャンティークの代名詞的なアイテムだから、これはおそらく古着なのだろう。内田さんを境にして、少しリゾート色が強くなる。白のショートパンツとメッシュのタンクトップにストライプの開襟シャツのルックは、イタリアン・アイビーな佇まい。シャツ地のVネックのプルオーバーシャツは、海上がりに素肌に羽織ったら気持ちよさそうだ。後半になると、カラーパレットがグレー、カーキに変化。基本的にはいつものNYトラッドに少しだけイタリアのフレーバーが加わった印象で、今イタリアで一番ホットなイタリアとアメリカの要素を織り交ぜた"イタリカン"なスタイルだ。

モデルは、背丈の高低を問わず、味のある人を選んでいる。いつまでもスタイリッシュな団塊ジュニア世代のファッションリーダー、俳優の真木蔵人は、ネイビーのスーツをサラッと着こなして登場。プロレスラーみたいな体躯のプロサーファーの木下デヴィッドは、Tシャツとショートパンツの上にグレーのステンカラーコートを羽織ってランウェイを行き来した。


今回のトッドのインスピレーション源は、イタリアのリヴィエラ、アマルフィ海岸、カプリ島である。なかでもジャン=リュック・ゴダールの映画「軽蔑」のロケ地であるカプリ島への思い入れが強く、青の洞窟の非現実的なまでに美しい青、映画の中に登場する別荘のモチーフを洋服に投影している。また、今回のコレクションには、スタイリストの熊谷隆志が絡んでいる。随所でポイントになっている古着や、日本のサーフィン界のオールスターがモデルとして名を連ねたのはかれの所行である。ゆえに、カプリ島というよりは伊豆の白浜を連想させるようなニュアンスもあり、言うならば"日米伊トラッドサーフ同盟"。それぞれの街と海のライフスタイルが混じりあったようなコレクションは、価値観に国境がなくなってきていることを感じさせるものだった。

トッドの作る洋服は、なんの変哲もないリアルクローズだが、少しだけ特別な匂いがある。でも、マーガレット・ハウエルのようなシンプルななかに確固たる世界観があるかと言われれば、まだまだ足りないところがあると思う。だから、渋谷の路面旗艦店の次の手が打てていないわけだが、私は昨今のTSIのインポート事業には一定の信頼を置いている。世界中から味わい深いブランドをピックアップして小規模で展開している子会社のユニット&ゲストをはじめ、いいブランドを適切な規模感で育てようとする意思が感じられるのだ。心地よい青の世界観とともに、大手アパレルのビジネスモデルが変わりつつあるのを強く感じたコレクションだった。
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