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「モードノオト」第四話

2015.03.20 Fri. - 23:40 JST

「モードノオト」第四話

2015.03.20 Fri. - 23:40 JST

ファッションジャーナリスト
麥田俊一

昨夜のこと。最後のショーを終えたメーン会場のホワイエでは、振る舞い酒が供される、なんとも有り難いシステムが前々回のシーズンより続いているが、昨日の夜は先輩ジャーナリストの織田晃さん、繊研新聞記者の小笠原拓郎と談笑する機会を得た。小笠原からは一昨日の「ミントデザインズ」の会場で、「パリのときよりも悪化してないか?」と、おひゃらかされもした。(とうとう自分も、健康上の問題がビッグニュースになり始める世代の仲間入りをしてしまったのかぁ)と嘆いてみても、はたまた、いまさら過去の不摂生を悔いてみたところで後の祭り式塩梅。「はやく医者に診てもらったが好い」と云う正論に着地することは端から承知の上である。皆様の心遣いに感謝の気持ちに報いたいけれど、こんなホロリとさせられる心持ちになること自体、正直ちと面映ゆいもので、自称<無頼な徒>を気取る、何処までもスタイリスト気質に出来ている莫迦な私には所詮似合わぬ感情なのである。 さて閑話休題。相変わらずの益荒男ぶりで、野性味的な荒々しさと内省的でナイーブな感情が交錯するやんちゃぶりを見せてくれた昨夜の久保嘉男だが、厳しい見方をするなら、パターン作業による柄の切り替え、意表を突いた重ね着と云った、彼特有の作風にも少しくマンネリズムが漂ってきたと云うのが私の見立てである。斯くして探しているカタルシスは、未だ見つけられずに居るのである。はて、今日は如何であろうか。(文責/麥田俊一)

【3月19日午後4時35分】
 「マトフ」の会場に到着。少しく早めの会場入り。いつもより狭い空間を敢えて選んだのである(そのためショーは2回行なわれた)。眼を凝らして仄暗い会場を見渡せば、Vの字に設営されたパッセージを挟むようにベンチシートが設えてある。この動線に沿って、床に灯籠のような照明が並べてあり、柔らかな灯りが舞台となる小径を仄かに照らし出している。斯様な舞台演出と、「ほのか」と云う主題が相俟って、「和」の雰囲気がいや増す空間。結果から云うと、好い意味で予想は覆されたのである。

「マトフ」は(別の角度から作り手の想いを忖度するならば、また違ったキーワードが挙るやも知れぬが)、「和」と「洋」の感性を上手くバランスさせる<間合の美学>を具現するブランドだと私は考えている。対極にある要素との対話を試み続ける「マトフ」のデザインは、内なるシミュレーションの手法にゆるものだが、懐古趣味と現代性、(適切な言葉が見当たらないけれど)和装と洋装、過剰と質素...二項対立論的なアプローチこそ「マトフ」の真骨頂である。

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 漆黒の服がショーの冒頭を飾った。仄暗い小径をそぞろ歩く、風情のある演出である。ウール地に織り込まれたラメが、微かに、そして鈍くその輝きを放っている。(照明が照らされるスポットが数ヵ所用意してあり、私にはそれが月光に見えたのである)雲間に隠れた月がひとたび姿を見せるや、服地の輝きは月明かりの下で金色(こんじき)にも、白金にも似た不思議な光り方を投げかけてくれるのだ。ツイードやジャカードのドライな風合いと、趣のある陰翳を生み出すラメの煌めきの対照の妙。その構図を、ときには「和」に寄り添わせ、ときには「洋」のベクトルにグイッと向かわせるしたたかな創意が秀逸である。それも今回は、「洋」の香りが色濃く感じられたから、(綺麗に仕上がった服だなぁ)と私のほくそ笑みは、ちょっぴり広がったのである。ボンディングして張りを持たせた服地で、フレアをたっぷり入れたAラインに広がるスカートや、大きなラペルのシックなコートと云った女性らしさを誇る曲線、惜し気もなくドレープを撓ませたジャケット、肩線から両脇にあしらわれたダーツと云った具合に、(決して目立ちはしないが)背中にポイントを置いた細部への拘りも、「洋」への傾斜を深める要素だろう。

 「現代的(モダン)でシャープな服」と云う平々凡々とした作り手の言葉は、この際、沁み沁みと輝き出すのである。巷間頻出する、トリッキーな演出が服の表情を一変させる仕掛けに些か辟易し始めていただけに、見失いがちな繊細な変化に着眼した今回の試みに最大級のエールを贈りたいのである。

>>matohu 2015-16年秋冬コレクション

【午後7時】
 「ミキオサカベ」の会場に到着。会場外で、桑沢デザインの学生に遭遇。「いま観てきました」と云う彼の言葉に、(ショーはすでに終わってしまったの?)と、焦りが隠せない私は、漸くショーは二回制で最初のショーが終わったことに気が付く。さらに悪いことに、開始時間を間違えていたらしい。(排尿も済ませておきたいしなぁ。会場入りは出来なくても、後架だけは借りられるよう頼んでみるか)と、エレベーターに乗り込んだ。「マトフ」で刺戟された昂奮状態をなんとか継続させたいのである。「わかりにくい場所にありますから」とPRの方に案内して頂き、無事放尿を終えて、手を洗って扉を開けると、坂部三樹郎の顔が見えた。どうやら舞台裏に近い場所に居るらしい。(どうせ待つのなら、坂部相手に与太のひとつがとこ云って時間を潰すのも一計だな)と思っていたら、「あれぇ、麥田さん」と坂部。「如何?上手くいっている?」と私。「首尾は上々です」と云わんばかりに、莞爾として細い眼をいっそう薄くする坂部。「ジェンファンも向こうに居ますよ」。浮かない顔にはにかむような笑顔を貼り付けたシュエ・ジャンファンに「如何?大変?」と訊くと、「ミキオは画があまり上手くないから、パターンを引く作業の途中で、幾分修正を加えた箇所もあるのです」と、なかなか手厳しい。「かっこ好い服になっていますよ」と、自信たっぷりの坂部に、私は「楽しみにしているよ」と返すにとどめた。

 結論から申せば、坂部の作品も予想だにしない変貌ぶりだったのである。ショーは二人の下を巣立った若いデザイナーたちで構成されている「tokyo newage」と「ミキオサカベ」の二部構成である。思っていた通り、座席のないライブ形式。右脚が悲鳴を上げている。それにしても会場内は、砂糖に群がる蟻の如き凄まじい人群れである。

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 第一部は「tokyo newage」。リアリティーを感じさせる服、オブジェのような服、金属と身体を力業で融合させた服、デフォルメされた服...。新世代のデザイナーたちに対して、その若き日の闘いに感嘆符を惜しまないつもりである。

>>東京ニューエイジ 2015-16年秋冬コレクション

 若さの滾りに刺戟されたのだろうか。坂部の作風が変わった。中性性を微かに残しながら、男臭さを上手くオブラートに包んだ服である。インサイドアウト、ボロボロに切り裂かれた服地、(縦長に伸ばしているが)いままでにないほど男前のテーラード、ジャケットやシャツチュニックの上にもう一枚のジャケットを縫い付けた騙し絵のデザイン...。プリーツスカートだって、これまでのなよなよした風合いを吹き飛ばすかのような荒々しさがある。粗野で居て繊細さを残し、武骨で居て内省的な姿は、グランジロックに通底するナイーブな男性像に寄り添った結果生まれた異形のエレガンス。勿論、コスチュームプレー的なアプローチも頻出している。マイケル・ジャクソンの「スリラー」を彷彿させる白塗りメーク、看護婦のユニフォーム(白い制服にカーディガンを羽織った、誰もが浮かべるあの姿。赤十字のマークがパロディー)が、おどけたホラーの雰囲気を漂わせている。過去に登場した<猫のアップリケ>も服に隠されているが、(これ、ただの使い回しじゃないの?)と、揶揄しようと思っていたが、「凄く人気があるのです。うちのキャラクターのひとつとしてすっかり定着していますね」と坂部。(如何物好きがいるものだなぁ。そう云う私もひとのことは云えぬが)変に得心させられたのである。

>>MIKIO SAKABE 2015-16年秋冬コレクション

【午後8時15分】
 「クリスチャン ダダ」の会場に到着。意外に少ない座席数に驚かされる。会場中央には英国マーシャル社製のギターアンプが数台、蔦が絡まり植物が枝垂れるように設営されている。森川マサノリらしい演出である(彼の事務所の二階には、観葉植物が青々と生い茂っている)。

 裏地をアニマル柄に染めたファージャケットと細かな襞を刻んだレザーのスカートがファーストルックだった。ボトムスはショートパンツを覗かせるアシンメトリーなデザイン。 今回はウィメンズ単独のショーである。フェティッシュでグラマラスな残り香を漂わせながら、西陣織で描くオリエンタル、エンパイアシルエットのゴシック、鳳凰の刺繍、椿や和柄のモチーフ(横振りミシンを使った刺繍)、ピンストライプのパンツとブラトップの官能性、パンキッシュなバイカー、アメリカ先住民のフォークロアなモチーフ、そしてコザック帽のような毛皮の帽子...。香川県で過ごした幼少期から渡英して服作りを学んだロンドン時代の原体験に根差した異文化の融合には、主題でもある「VALENTINE」(舞台裏で彼は、ロンドン時代に影響を受けたミューズの名前であると教えてくれた)の面影に寄り添いながら、そのイメージを膨らませている。加えてこのロマネスクは、伝統的な「和」の匠に支えられていることを忘れてはいけない。

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>>CHRISTIAN DADA 2015-16年秋冬コレクション

【午後9時25分】
「ケービーエフ」のショーが始まる。シンプルでプラクティカル(実用性に富んでいる)な服は、ひとの心に溶けこむものである。フォルムと機能性は常に対話を試みるものである。ときにシルエットとボリュームはすっきりしていて禁欲的な雰囲気を醸し出すが、コクーンやバルーンと云った膨らみを帯びたフェミニンなライン、首元のボリュームを強調した温かみのある拵えを印象付けるショーだった。ドローストリングのスポーティーな細部に加えて、色、生地、デザインにおいてアーミーからの引用が色濃く見受けられる。ミリタリーコートのライニングにも似たキルティング生地が様々なアイテムに使われ、張りを持たせたフレアスカートにも充てられている。

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>>KBF 2015-16年秋冬コレクション

 ハッとさせられるエグさはないが、シンプルな調和がリズムをとり、おのずからなる生き生きとしたメロディーを奏でると云う塩梅で、この調和こそ、このブランドの特性ではないだろうか。(文責/麥田俊一)

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