

年輪のデータを音楽へ変換
木に刻まれた年輪はその歴史を表す、それはまるでアナログレコードに刻まれている溝のように思える。年輪を科学的に分析する「年輪年代学」によれば、雨量、疾患、山火事に至るまで、その木が育ってきた環境が、年輪からすべて解る。例えば、明るい色の年輪は早い生長を表し、暗い年輪はゆっくりと生長した時期を表すというように。
ドイツ出身でウィーンを拠点に活動するサウンドアーティスト、バーソロモイス・トラウベック(Bartholomäus Traubeck)は、年輪のデータを音楽に変換するプロジェクトに2〜3年前より着手した。『Year』と題された年輪のレコードである本作品は、ここ日本でも高い評価を受け、2012年に開催された第16回文化庁メディア芸術祭アート部門では審査委員会推薦作品として選ばれた。
仕組みは、レコード針の代わりに、Playstation Eyeのカメラを使って年輪の断面データを読み取り、それをピアノの音に変換するというもの。vvvv(※1)、 Arduiono(※2)、そしてAbleton Liveというプログラミング環境を駆使し、自然と高度科学技術のコンビネーションによる、ずっと記憶に残るような美しいネオクラシックの調べが産み出された。
YEARS from Bartholomäus Traubeck on Vimeo.
作品のコンセプト
2012年のプロジェクト開始時、トラウベックはMOTHERBOARD(本誌英語版)のインタビューでこう語っている。
「どんな木も、ちがった楽曲を奏でるんだ。分かりやすいメロディの時もあれば、そうでない時もある。ちがう種類の木々を比べてみると、いちばん分かりやすい。例えばモミの木は、ミニマリスティックでアブストラクトなリズムを奏でるし、トネリコの木なら、リズミックで大きい音を出すと言うようにね」
トラウベックにとってこのプロジェクトは、自然に対する新たな洞察を得るためと言うよりもむしろ、データが様々な形で現されることを実証してみせることがねらいだった。
「全てのものは、ある意味でデータベースだ」とトラウベックは語る。そして、それを体験する方法もまた無数にある。「中身を詳しく見るのではなく、むしろ全体的な構造を観察することによって、その物のデータが表現されるという事実に魅了されているんだ。木は、年輪というデータ構造が物体そのものを創っていて、しかも肉眼でそれを見ることが出来るから、まさにパーフェクトな素材だね」
トラウベックは今も、奇抜な作品を創り続けている。
最近のプロジェクト『Two Axes in A Forest(Resonanz 1)』では、2台のエレクトロニックギターが奏でるループを通し、ほぼ完全な共鳴音を創り出すことに挑んだ。
年輪の楽曲アルバム『Years』には、2012年にオーストリアはウィーンの様々な木々が産み出した、7つの美しい曲が収録されている。現在デジタル配信されており、8月には、木製でなく本物の12インチレコードとして限定リリース予定(詳細情報は8月半ばに発表)。トラウベックの次なるプロジェクトにも、新たな期待が寄せられる。
Translated & Edited by Rieko Matsui
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