

- 顧客思考が理解されながらも、顧客を置き去りにした商品が上市されるワケ
"お客さんのことを考える" - 商いを営むものなら疑いを持つものはいないだろう。
けれど...
「それでは何故顧客志向の重要性があえて叫ばれるのか?」
あなたは、この問いに即答できるだろうか?これまで数多くのマーケティング講義やビジネスセミナーでこれを問うてきたが、実は、答えられるビジネスパーソンは意外に稀である。
「顧客志向」は、マーケティング戦略論の基本思想である。世界中のあらゆるテキストに必ず紹介され、この概念から応用理論が展開される。概念そのものは極めて単純で万人が即座に理解できる当たり前であるものの、大学でもコンサルティングでも"神の声"のように連呼される。その"声"を懸命にノートにとる前に、あなたもこの問いについて少し考えてほしい。
あなたの答えが「マーケティングより技術が強い会社だから。」とか「会社がプロダクトアウト志向だから。」では十分ではない。そして、その程度の「顧客志向」に対する認識であるならば、あなたの会社も顧客を置き去りにした"自己満足的な商品"を世に出し続ける"罠"にはまっているかもしれない。
顧客の論理<組織の論理
実は答えはもっとシンプルで、どんな企業でも当てはまる。『組織は"意図せず"「顧客の論理よりも組織の論理」を優先してしまう性質であるからだ』というのが答えである。特に"意図せずに"「組織の論理」という部分が厄介で、かつ重要なポイントである。「顧客志向」を声高に叫び常に意識していないと、会社は勝手に顧客の声とかい離した行動をとり始めるのだ。
組織の論理① 社内への配慮と慣習
そもそも「顧客志向」を標榜しているはずの企業が、なぜ不要な「組織=社内視点」になりがちになるかの根本的要因は、私たちの心理にある。人は何か"事"が起こった時には、見えない「多数の顧客」よりも、直接関与する目の前の「個人」=上司や社内の利害関係者を優先する傾向にある。それゆえ、たとえば顧客がどのような要望あるいは不満を伝えていたとしても、担当者は、直接的な利害関係者である上司に従う。さらに、責任者は意思決定そのものに対して、多少のコミットメントが発生するため、たとえ矛盾があっても安易に取り下げることは心理的に難しくなる。
ただし、その責任者である上司が依拠する判断基準はこれまでの商慣習や社内ルールだが、そのような"慣習"はたいてい当初は「顧客のために」「市場のために」という合理性に基づき作られている。しかしいつしか時間の経過とともに、その確立したルール自体を組織が守ることに固執しはじめ、あるいは、組織の論理を優先する"小さな"意思決定の、重なりの中で、顧客や市場の声とギャップが徐々徐々に気づかぬまま生じていく。
結果、組織は無自覚に、企業の"自己満足的な"商品を市場に出し続けるという体質構造に陥るのである。そのような意思決定が組織を構成する一人ひとりに浸透したとき、組織全体として、顧客を置き去りにした商品を次々にだし、競合に大差をつけられる構造に陥りがちである。
そのような硬直化した組織に、『これが「顧客の声」です』と顧客のアンケートや生声を突き付けても既に諸刃の剣で、全く機能はしないこともしばしばである。
組織の論理② 競合へのライバル意識
同時に、過度な「競合視点」も、また組織の「顧客志向」を阻む。企業は当初はお客様により良いものをという「顧客志向」のもと、熾烈なスペック競争を繰り広げ、オーバースペックな商品を提供することで、いつの間にか、顧客を置き去りにしがちである。
これらは、ITや家電メーカーだけではなく消費財でもしばしば起こる。たとえば、「競合よりも、⒈種類でも多く野菜を入れた野菜ジュースを!」「競合よりも、0.01ミリでも薄い容器のドリンクを!」といった類のことだ。過度に分業化された組織においてよく見られるこのような現象は、担当する部署にとっては非常に重要なミッションでありつつも、商品全体の便益からみると疑問であることも多い。そして実は、担当者自身が既に気づき心の中では疑問視していることも多い。この問題は、「社内視点」と同様に、「競合」が「顧客」よりも直接的によく見えすぎてしまうことが根本的な一つの要因である。
このように、多くの企業が「見えない顧客」よりも「目の前の組織や、競合」を意識するあまり、顧客が期待しないオーバースペック競争に不要なコストをかけ、その勢いに歯止めのかからない負のスパイラルが陥っていくのである。
ゆえに、「顧客志向」そのもの理解よりも、なぜ連呼する必要があるのかを理解したうえで、意識的に「組織の論理」に対抗すべくその重要性を叫び続ける必要があるのだ。
「顧客志向」の本質
・製品は性能が良いほど、顧客志向か?
・価格は安ければ、安いほど顧客志向か?
・サービスは、顧客に向き合えば向き合うほど、顧客志向なのか?
最後に、「顧客志向」の意味するところを掘り下げてみよう。上記の3つの質問はありがちな誤解である。「製品は性能が良いほど、顧客は喜ぶだろうか?」顧客は時に、高い機能を上手く使いこなせず、過剰性能として捉えてしまう場合がある。製品について顧客志向の観点から見直せば「性能」という開発基準ではなくターゲットに即した「提供価値」まで突き詰めて考えていく必要がある。また、価格に関しては、私たちは価格から様々なメッセージを読み取る。詳細は別の機会にするが、私たちは価格を商品の価値を判断する「モノサシ」として使っているため、安易な安値は逆に価値を下げる可能性を持つ。最後の「顧客への向き合い方」については、向き合えば向き合う程、逆効果の場合もある。顧客を大切な恋人のように、常に言動を気にして寄り添う姿勢を示しても、逆にストーカーのようだと毛嫌いされることもあろう。
結局、重要なのは、一人ひとりのターゲット顧客に即した価値を提供できるか否かという基本的なマーケティングロジックに行き着くのである。

Photo by: imagerymagestic
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