

今回の東コレで目立ったのは、全体的に装飾度を高めるような方向感です。性別を踏み越える試みに加え、フューチャリスティックな味付け、グリッターの演出、ファー&レザーの異素材ミックスなどが相次ぎました。創作マインド面での最大の変化は大人っぽい装いを意識するクリエイターの態度でした。マーケットときちんと向き合う「大人」の振る舞いとも言えるでしょう。
「メルセデス・ベンツ」ブランドの支援を受けてリスタートしてから約5年。海外からの来場者が増えたうえ、作品面でも着実な成長ぶりが感じられ、クリエーションとビジネスの両面で収穫の多い内容になったと映りました。
◆FACETASM(ファセッタズム)
最終日の「FACETASM(ファセッタズム)」は東コレのフィナーレを飾るのにふさわしい完成度のクリエーションを見せつけました。ジェンダーニュートラルやアンドロジナスは大きなうねりとなりつつありますが、落合宏理デザイナーは解体と結合の手法を大胆に用いて、メンズとウィメンズの装いをねじり合わせました。
黒革のライダースジャケットと正統派のトレンチコート。細いプリーツのスカートとダブル裾折り返しのパンツ。ほとんど正反対とも言えそうなテイストのアイテムを1枚の服に融け合わせています。MA-1風のミリタリージャケットはケープのように仕立て直し、紳士服調のジャケットにはフーディーをオン。テイラードのジャケットは裾を切りっぱなしに始末して超ショート丈に変形。逆にニットベストはスーパーロング丈へ。スタイリングの面でもライダースジャケットの上からストライプ柄ジャケットを重ねるような凝ったレイヤードを仕掛けています。「LOVE」というテーマにふさわしい、創り手のファッション愛がこぼれ落ちるほど詰め込まれたグランドフィナーレとなりました。
実は、前日に「建築×スニーカー」がコンセプトのスニーカーショップ「A+S(Architecture and Sneakers)」のオープニングパーティーがあり、たまたまお会いした落合デザイナーに「明日のショー、楽しみにしてますね」と伝えたら、リラックスした表情で「いい感じに仕上がっているので、楽しみにしていてくださいね」との頼もしい返事。その言葉の通り、服が大好きというデザイナーの思いが注ぎ込まれた潔く清々しい作品を拝見でき、うれしくなりました。
◆writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)

若手ファッションクリエーターを支援するファッションコンテスト「LVMH Young Fashion Designers Prize」で日本人としては初めてノミネートされ、話題を集めた山縣良和デザイナーの「writtenafterwards(リトゥンアフターワーズ)」の「written by writtenafterwards(リトゥン バイ リトゥンアフターワーズ)」は渋谷ヒカリエのホールAで大勢の子どもたちと一緒にコレクションを発表しました。大きな地球形のオブジェがランウェイ上を転がり、カラフルなニットを着た子どもモデルが楽しげに登場。宇宙船やロケットのスペースモチーフがユーモラスにあしらわれたニットウエアが希望に満ちたムードを演出。今の世界情勢や社会に対するメッセージをファッションで表現し、ハッピーな色使いも前向きな気分を目に残し、来場者の気持ちを幸せにしてくれました。
同じ渋谷のパルコミュージアムで、山縣氏と坂部三樹郎氏がプロデュースする「絶・絶命展〜ファッションとの遭遇」が3月19日から始まったので、ショーの合間に、夕方見てきました。2013年の「絶命展〜ファッションの秘境」は前衛的な展示内容が話題を呼びました。今回は、「writtenafterwards」のショーに登場した巨大な地球儀も置いてあり、ニットでできていてほっこりしたたたずまいを間近に見て、午前中に拝見したショーの余韻に浸ることができました。手塚治虫の漫画『火の鳥』からインスピレーションを受けたといい、展示作品には2人のほかにも多くのアーティスト、表現者が参加しています。「ファッションの生命エネルギーそのものを体感する」というコンセプトの下、生と死を行き来するかのように日々変化する作品で構成されています。3月30日まで開催されているので、ぜひ足を運んでみてください。
>>writtenafterwards 2015-16年秋冬コレクション
◆House of Holland(ハウス オブ ホランド)

東コレでは海外組も刺激を与えてくれるような存在になってきました。常連になった来日参加組の英国ブランド「House of Holland(ハウス オブ ホランド)」は2月にロンドンコレクションで発表した、アーバンムードと未来感覚の漂う作品を持ち込みました。チェック柄や斜めストライプで色鮮やかに着姿を彩っています。ケミカルな光沢を帯びた赤やイエローの高発色カラーを太いストライプであしらって、装いにリズムを刻んでいます。色染めしたロングブーツもフェティッシュなあでやかさを添えました。
英国の伝統的なチェック柄を拡大サイズで配したり、複数のチェック柄をパッチワーク風の切り替えで重ねたりして、チアフルに取り入れています。膝丈キュロットも軽やかさを印象づけました。ショート丈のキルティングアウターや、色染めを施したシャギーなファーは装いにボリュームの起伏をもたらしています。首に小さく巻いたスカーフはキュートな印象を生んでいました。
>>House of Hollad 2015-16年秋冬コレクション
◆Johan Ku Gold label(ヨハン・クー ゴールドレーベル)

ロンドンを拠点にするJohan Ku(ヨハン・クー)氏のブランド「Johan Ku Gold label(ヨハン・クー ゴールドレーベル)」はフランス映画『ポンヌフの恋人』(1991年)をイメージソースに、フレンチシックを感じさせるニット主体の作品を発表しました。太い編み目のボリュームニットを首周りにスヌードっぽく迎えて、量感を操っています。ゆったりと垂れ下がるディテールや、トップス裾のペプラム、アシンメトリー(不ぞろい)なハンカチーフヘムなどが装いをざわめかせました。
スリーブレスのジャケット風ワンピース、ボレロ風のスーパーコンパクトなレザージャケットなどで、シルエットに動きを持ち込んでいます。ドレープの表情が気負わないムードを引き寄せました。ワイドパンツ、タートルネック、フリンジ、ケープといった、急上昇テーマにも目配りが行き届いていて、発表点数以上のモード感を漂わせていました。.
>>Johan Ku Gold label 2015-16年秋冬コレクション
◆JOHN LAWRENCE SULLIVAN(ジョン ローレンス サリバン)

柳川荒士デザイナーの「JOHN LAWRENCE SULLIVAN(ジョン ローレンス サリバン)」はパリ・メンズコレクションを経て久しぶりの東コレ復帰。インスタレーション(作品展示)形式で新コレクションを発表しました。もともとテイラード仕立てに強みを持つメンズラインで知られていましたが、今回はウィメンズも披露。メンズの構築美を生かした、縦長でシャープなシルエットを描き上げています。
首にぴったり沿うハイネックのニットをキーアイテムに据えて、マニッシュなスーツや、レザー仕立てのアンサンブルとのコンビネーションを提案しています。まばゆいメタリック生地や光沢を帯びたレザー素材などを使って、着姿をつやめかせ、フューチャリスティック(未来的)な雰囲気を醸し出していました。丈違いのテイラードジャケットを重ね着しているかのような演出や、ロングアウターとワイドパンツとの「長・太」セットアップにも工夫が感じられました。
>>JOHN LAWRENCE SULLIVAN 2015-16年秋冬コレクション
◆FACTOTUM(ファクトタム)

一方、有働幸司デザイナーの「FACTOTUM(ファクトタム)」はカントリー気分に乗せたリラクシングなメンズコレクションを打ち出しました。作家・村上春樹の小説『羊をめぐる冒険』からインスパイアされ、「short trip」をテーマに選んだだけあって、気取らないやや牧歌的な装いが続きます。
グレーをキーカラーに、穏やかなカジュアルを印象づけています。やりすぎない程度のダメージ加工を施したデニムや、すねが少しのぞく短め丈パンツに、たっぷりしたブルゾンを重ねるスタイリングが軸。ざっくりしたタートルニット、長めのニットストールなどでくつろいだ雰囲気を引き寄せました。デニムのパッチワークや、ミリタリーのディテール、上半身の丈違いレイヤードも着姿に見どころを増やしていました。
かつてはストリート感やポップテイストが東コレの持ち味とされ、若い消費者へのアピールが中心だった時期がありましたが、今回は大人の消費者向けを意識した提案が増えました。2011年秋の開催からメルセデス・ベンツファッションウィーク東京となって、今度の秋で丸5年。その間の運営努力で海外からの来場者が増え、かつての東コレよりも業界内外からの注目が集まりやすくなってきたことを評価して、往年のビッグブランドも東コレに戻ってきました。
ウェブ媒体やソーシャルメディアの発信力が高まったことも手伝って、東コレを大きく取り上げるメディアが増えて、コレクションを発表するメリットが大きくなってきたように感じます。昔は東コレを経験してパリコレに進出するのが一種の王道というか、成功パターンのようなイメージがあったのですが、今はトラノイのような展示会や、ショールームでの受注を含め、様々な海外進出のチャネルが選べるようになっています。
逆に、パリコレに出たからといって、国内のセールスが大きく伸びるという時代でもなく、ホームタウンの東コレを素直に発表の場として選びやすくなってきたようにも思えます。バイヤーやジャーナリストが増え、創り手も海外からの参加が多くなって、見せる側と見る側両方のモチベーションが上がってきました。NY、パリ、東京と3つのコレクションを立て続けに取材した私の目から見ても、東京の成長、成熟ぶりは確かで、約1ヶ月にわたった怒濤のコレクションサーキットを地元での素敵な記憶で締めくくることができました。(宮田理江)
宮田理江の東コレ日記 2015-16年秋冬
【東コレ日記①】カムバック組や実力派デビューなど顔ぶれ多彩に
【東コレ日記②】今の気分映す「こなれ感とハッピームード」
【東コレ日記③】ジェンダーミックスが加速、装飾美に独創色
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