

「AR(拡張現実)」と呼ばれる技術を通販に活用する動きが出始めている。同技術は、例えばスマートフォンやタブレット端末のカメラを通じてチラシやカタログ、商品パッケージなどの「現実」を見ると、そこに商品情報やキャラクターなどの「拡張情報」が浮かび上がり、「現実」とそれらの「拡張情報」が一緒に表示されるもの。単なる情報伝達の新手法としてだけでなく、情報が「飛び出す」というエンターテイメント性をも併せ持つことなどから、有力通販実施企業を中心に導入が進み始めているようだ。各社の「AR」の通販活用事例について見ていく。
夏のおすすめ品 動画で訴求

「AR」を活用した取り組みにいち早く動き始めたのは千趣会。同社では昨年5月に、ARを活用しスマートフォンやタブレット端末で動画が閲覧できるチラシ「「夏の超最強アイテム」の配布を行なった。
「夏の超最強アイテム」は、夏場の推奨商品15アイテムを掲載したタブロイド版カラー8ページのチラシで、全国のドラッグストアや100円ショップの購入物への同梱、ポスティングなどを通じ約195万部を配布した。
同チラシでのAR活用は、ナレッジワークスの無料スマホアプリ「mue Alive!」を通じたもの。掲載商品15アイテムのうち9アイテムの商品画像を作り込み、「mue Alive!」を起動したスマホのカメラを商品画像にかざすと、商品説明の動画が見られるようにした。
この取り組みは、紙媒体では伝えきれない商品特徴などの情報を動画で提供し、実購買につなげることを狙ったもので「チラシ自体が好評で、動画も見られていた」(広報)など千趣会でも手応えを感じているもよう。
また、昨年、冠協賛した学童軟式野球大会の地区大会開会式会場でも、「夏の超最強アイテム」からセレクトした商品を掲載した"動画が見られるチラシ"を配布。同野球大会への冠協賛は、野球に打ち込む子供を支える母親の応援を通じ、「ベルメゾン」ブランドや自社商品の認知度向上などを狙ったものだが、"動画が見られるチラシ"の展開が自社商品への興味付けに一役買った面もあるようだ。
千趣会では、昨年の「夏の超最強アイテム」チラシ以降、特にARを活用した取り組みは行っていないが、今後、自社で保有する豊富な商品動画コンテンツの利点を活かし、ARの活用を積極化してくる可能性もありそうだ。
春カタログ掲載の全商品に導入
ニッセンでもARの通販活用を進めている。KDDIが開発した大規模画像認識技術をもとに、スマートフォンをカタログにかざすことでさまざまな情報を得られる無料アプリ「カタログカメラ」を開発。1月中旬に発行したすべての春カタログに掲載する全商品がARに対応した。(前号4面で既報)
掲載された商品にスマホをかざすと、カタログには掲載されていない値下げ情報やくちコミ情報の確認や、購入も可能。また、総合カタログ「ニッセン」の表紙にも仕掛けを用意。スマホをかざすことで同社のキャラクターである香里奈さんが浮き出し、表紙のコーディネートを360度確認できるほか、香里奈さんからのメッセージも再生される。
同社マーケティング本部マーケティング戦略室アライアンス&デバイスチームの神徳昭裕マネージャーは「(ARは)QRコードではできないことを可能にする。デジタルカタログの素材をそのまま使うだけで特別な仕掛けが必要ない点も魅力だ」と話す。
問題となるのはアプリをいかに周知し、実際に使ってもらえるかだ。利用度を高めてもらうための取り組みとして、マイリストに登録した商品について、値下げが行われた際に利用者に知らせる機能を設けた。便利な情報を即時に入手できることをアピールし、アプリをダウンロードしてもらうのが狙いだ。また、商品を購入した消費者がスマホを表紙にかざした場合は、「ニッセンのおすすめアイテム」として、商品をレコメンドする機能も設けている。
家具の配置をシミュレーション

インテリアショップ「Francfranc(フランフラン)」を展開するバルスではARを活用して、ソファやテーブルなど家具の配置シミュレーションができる無料アプリを今年3月をメドに配信する予定。当該アプリはKDDIなどが提供するAR技術を使った家具・インテリア企業向けのソリューション「TryLive Home」を使って開発したもの。
「フランフラン」で実際に販売する家具の3Dデータを制作し、原寸大の「バーチャル家具」をスマホやタブレット端末を通して見た利用者の部屋に自由に配置でき、実際のレイアウトを体感できるという。同社が運営する実店舗や通販サイトで家具を購入する際、事前に家具の配置が確認できることなどから、実効果は高いと見られる。家具を販売する通販企業などにとっても行方が注目されそうだ。
バーチャル試着を実施
ARを実店舗で活用する動きもある。エイ・ネット子会社のウィットは、通販サイト「HUMOR(ユーモア)」の実店舗を展開するのに当たり、AR技術を用いた仮想フィッティングサービスを来店客とのコミュニケーションツールとして利用している。
同社は、昨年4月にオープンした商業施設「東急プラザ表参道原宿」に通販サイト名を冠した初の実店舗「HUMOR SHOP by A―net」(約182平方メートル)を出店。その中で、キネクトセンサーを使ったバーチャル試着を楽しめるようにした。
店のiPadで試着したい服を選ぶと、ウェブカメラを通じて店内の大型(60インチ)モニターに当該アイテムを着た自分の姿が映し出される。センサーで人の動きを感知するため、ジャンプしたりすると服も動く。
バーチャル試着の対象アイテムは約50点で、元の画像は通販サイト用の画像を活用。毎月、商品を更新している。
同社では、AR試着で来店客とのコミュニケーションをとりながら実際の販売にもつなげたい考えで、店頭にバーチャル試着した商品がない場合、通販会員であれば、そのままiPadで通販サイトに遷移し、自分のIDで購入してもらう。
また、バーチャル試着した際の画像データを来店客のスマホやフィーチャーフォンに配信することで、SNSを通じた情報拡散につなげる狙いもある。
同社では、1号店でAR試着が好評なことから、昨年11月に出店した2号店(大阪・南堀江)でも仮想フィッティングサービスをバージョンアップさせて導入。実際に服を着用した際にできるドレープ(布のたるみ)や、生地の表情も再現できるようになったという。
商品詳細や在庫レビューを閲覧
ARではないが、新しい技術を活用したのはオットージャパン。昨年6月に電子透かし技術を採用したカタログを通販業界で初めて発刊した。専用アプリを取り込んだスマホを誌面にかざすと商品詳細ページに遷移して閲覧・購入できるようにした。
電子透かし技術を導入したのは通販カタログ「オットーウィメン2012年盛夏号」のネット会員向けカタログ(発行部数8万部)で、対象商品は表紙と裏表紙、2ページ目に掲載したワンピースとチュニック計3アイテム。人の目では識別できないデジタルコードを埋め込み、印刷物と連動したデジタルコンテンツをスマホ向けに配信する大日本印刷の「キューマ」を採用した。
消費者はスマホ用アプリ「オットー・インフォリーダー」をダウンロードして起動させ、誌面の対象商品にスマホのカメラをかざすと、通販サイトに掲載している商品の詳細や在庫の有無、ユーザーレビューなどの情報が閲覧できる。
通常、カタログを見ながらスマホやPCで詳細情報を確認する場合、トップページから検索する必要があるが、スマホをかざすだけで直接、当該商品のページに飛べるため、「より楽しくスムーズに買い物ができる」(オットージャパン)という。また、QRコードのように、誌面に無機質なバーコードを記載する必要がないのもメリットだ。
同社によるとアプリをダウンロードした消費者のほとんどが対象ページを読み取って当該商品にアクセスし、アプリ経由で1人当り2・35ページを読み込んだという。
また、昨年秋にも同じ媒体で同様の取り組みを実施したこともあって、定期的にリーダーを活用するユーザーもおり、スマホ経由での利用促進につながったようだ。
同社では、今後も技術起点ではなく顧客視点に立った取り組みを重視しており、AR技術についても前向きに活用を検討しているという。
コスト面など開発環境の向上などで様々な企業から様々でユニークなARアプリがリリースされ始め、ARを楽しむユーザーも増えてきている。「AR」の通販活用はまだ始まったばかりだが、導入を一考してもよさそうだ。
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