東佳苗
Image by: FASHIONSNAP
通称"堕落部屋"と呼ばれる、服やフィギュア、ぬいぐるみなどで溢れ返ったアトリエに住むニット作家・東佳苗。一見イマドキの女の子に見えるが、森美術館で開催された会田誠展「天才でごめんなさい」での作品展示で注目を浴びた女性クリエイターだ。最近では、でんぱ組.inc、玉城ティナの衣装を手がけながら、「嘔吐クチュール」としてアイドルやAV女優など"可愛い女の子"にフィーチャーした作品も発表している。「表裏がある女の子という存在が気になる」という作家が、ハンドメイドニットの裏に隠した想いとは。「縷縷夢兎(ルルムウ)」の名で活動する弱冠25歳の素顔に迫った。
東佳苗
縷縷夢兎デザイナー。1989年生まれ。福岡県出身。文化服装学院ニットデザイン科卒業。ハンドニットアイテムを中心に展開。現在「the Virgin Mary」での販売、催事への参加やアイドル、アーティストへの衣装製作等により活動中。感情を綺麗に吐露し生まれるクリエイト、"嘔吐クチュール"をブランドコンセプトに置き、着てもらう人への様々な愛を捧げる形で作品を創り続けている。
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ファッションに興味を持ったきっかけは恋愛
―福岡の専門学校を卒業後、文化服装学院へ。
地元の学校を出て、その後福岡大村美容ファッション専門学校に通いました。企業に入ってパタンナーを経て独立するという将来設計が漠然とあったので入学しましたが、パターンが絶望的に苦手だということに気づき、高校時代から手作業が好きだったことを活かせると思い、パターンを必要としないニットの世界に進もうと卒業して文化服装学院のニットデザイン科に入り直しました。
―高校生まではファッション以外のことに興味を持っていたと聞きました。
絵を描くのが好きだったので、美術部に入ったりもしましたね。音楽に興味を持ってからはシンガーソングライターになりたいと思い、バンド活動をしたり色々なものに興味を持ち、実際に行動に移す学生でした。
―いつ頃からファッションに興味を?
本格的にファッションを好きになったのは高校2年生の頃からです。それまでは正直モテることしか考えてなかったので、「CanCam(キャンキャン)」などをたくさん読み、清純な格好をするようにしていました。当時は恋愛至上主義だったこともあり、男の人が「ああいうファッションがいい」と言えばそっちの方向にテイストをガラっと変えていて、その結果「CanCam」や「ViVi(ヴィヴィ)」系から、「CUTiE(キューティ)」を読み始め、「nonno(ノンノ)」、「Soup.(スープ)」から「Zipper(ジッパー)」、「装苑」に至るまであらゆるジャンルを経験しましたね。
―デザイナーを目指して勉強していたのですか?
当初はデザイナーになりたいと思い進学しましたが、勉強をしているうちにショップを開きたいなと考えるようになりました。服を作るだけではなく、バイヤーのような仕事もしたいし、空間作りも好きだったので、総合的にやるならショップがいいなって。それで平成生まれの女子クリエイターを集めて合同展示会「白昼夢(はくちゅうむ)」を定期的に開催するようにしました。
―「縷縷夢兎」の活動は福岡時代から行っていますね。
学生時代から「縷縷夢兎」として、実際に福岡のお店で作品を売ったりしていましたね。福岡は意外と何もないところで、刺激的なことも少なかった。自分で動かないと誰も気づいてくれないなと思い、とりあえずで出来ることはしようと絵を描いたり、イベントに参加したりもしました。
―昔と今で制作方法に変化は?
アウトプットの仕方が変わりました。若い時は周辺環境が選べないというストレスがあり、鬱々とした自分の思いや考えをベースに作品を作ってました。嬉しい事に今は自分の好きな環境で過ごせるので、自分の中の考えを使うのではなく、誰かをミューズにするようにしています。その子から着想を得て皮肉や批判的なニュアンスの裏テーマを設定して制作しているのですが、表面的なデザインからその真意が分かりづらくなっているため、商品を買ってくださる方に伝わらないことも多いですね。
東佳苗が見てきた女の子の生態とは?
―可愛い女の子にフィーチャーしたモノ作りを続けていますね。
これまではアイドルなど可愛い女の子にフィーチャーし、彼女たちの内面を作品に落とし込んできました。その人たちが何を考えているのかに関心があり、それを様々な切り口で見せることで、面白いものができるのではないかと思っています。
―様々なジャンルの女の子をモデルに起用しています。
アイドルだけでなく、女の子全般が好きで、この間の作品撮りではAV女優のさくらゆらちゃんを起用してヴィジュアル撮影を行ったのですが、これを機にAV女優の方々にも興味を持つようにもなりました。最近のAV女優の方は可愛いですし、ゆらちゃんは仕事にやりがいを持っているといいますか、とても生き生きとしていて、正直どのアイドルよりも可愛いと思ったんですよ。清純派を演じているアイドルはたくさんいますけど、夜遊びしてる子もいたりで実際は全然ピュアじゃない。果たしてゆらちゃんとどちらがピュアなんだと思いましたね。そういった表裏がある女の子という存在がとても謎で、興味が湧くんです。
―東氏からみた現代女性の特徴は?
例えば、AV女優もアイドルも一般の人もそうですけど、今はみんな承認欲求が強くなっているように感じます。今の女の子はよく自撮りをSNSにあげていますが、可愛いと言ってもらえるよう写真を加工して別の自分を作りあげることがよくあります。もちろん虚構ですけど素材はやはり自分で、その人のことを知らないネット住民が可愛いとか綺麗と言ってくれることで、承認欲求を満たしているところがあるのかなと。男性から見ると不可解なことかもしれませんが、SNSが普及したことで承認欲求を満たす場が増え、こうした現象が起きているんだと思います。
―研究者やリサーチャーのようなスタンスですね。
実は「縷縷夢兎」は服が作りたくて続けているブランドではないので、「ブランド」と言うと自分でもすごい違和感があるんです。女の子に自分が今思っていることを反映させ、女の子の"今"を切り取ることをしていきたいと思っていて、その媒体が服だったというだけで。食べていくためには必要ですから商品を作ってはいますが、一番にしたいことではないですね。
―どういった女の子が好きなんですか?
アイドルだったら、振り切れている人がいいですね。なりきってる人でもいいし、遊んでいる人でもいいし清純系でもいいです。とりかくやりきってる人は見ていてすごい気持ちいいというか刺激になるので。もちろん普通に仲が良いから一緒にいる人もいますが、でもそういう振り切れている人と仲良くしたいなと思っています。
―男性は嫌い?
嫌いというより興味がないんです。いわゆるイケメンにも興味がなく、男友達も全くいません(笑)。私の周りには、アイドルとかヴィジュアル系が好きな子は多いですけど、私には全然良さがわからない。もちろんかっこいい人はいいと思いますけど、素のままでいいですね。「かっこいいだろ俺」ってなった瞬間に引いてしまいます(笑)。
やりたいことをするための量産品
―今は衣装制作が主な仕事ですね。
ステージやPV用衣装のオファーが多いですね。コレクションは発表していますが、基本即売という形で販売しています。作品や商品は、アシスタントに手伝ってもらうこともありますが、基本的には私一人で作っているので大変です(笑)。
―昨年発表したコレクションのモデルには元「バンドじゃないもん!」の水玉らむね氏を起用しました。
タイトルは「IDOL or DIE」で、最初にピュアなアイドルのようなルックが登場し、最終的に死をイメージさせる写真に移っていく作品に仕上がっています。田口まきさん、遠藤あゆみさん、スイーツアーティストのKUNIKAちゃんなどすごい人たちと撮影しました。
―現場の雰囲気は?
「縷縷夢兎」史上最も壮絶で過酷な現場でしたね。らむねは、モデルとして一流のものとして答えなければいけないというプレッシャーからか、かなり追い込まれていました。カメラマンも、どんどん注文を付け攻め立てていたので、精神的にもかなり参っていましたね。ヘルタースケルターを意識したわけではありませんでしたが、「生きるか死ぬか」、「美か死か」という悲壮感が出ていて、らむねは泣くこともしばしばでした。ただ、それが結果的に表情豊かな写真になって、反響はとてもよかったです。
―商品の量産は考えていないのですか?
「縷縷夢兎」のニットを量産することはないですね。刺繍を部分的にあしらったTシャツやパーカー、エコバックなどコラボレーションなどで試験的に展開していこうとは思っていますが。リアルクローズを売りたいとは思っているんですけど、自分一人だけではなかなか難しいので。
―元SKE48平松可奈子氏の「PEAUFINER(ポフィネ)」でコラボレーションしていましたね。
「PEAUFINER」ではアクセサリーを販売していて、リリース後即完売するなど順調です。オープン時にはまとめて30から40個制作しなければいけなかったので大変でしたけど(笑)。
―今は衣装の仕事が増えている印象です。
衣装の方が多いですね。ただ衣装は儲からないので、売れる商品を作っていかなければいけないのですが、今はシステムの構築中で軌道に乗るにはもう少し時間がかかりそうです。
ファッションの"軽さ"に対する葛藤
―取り扱い店舗は?
the Virgin Maryで取り扱ってもらっていますが、あるだけ分なので常時アイテムが買えるところはないかもしれないですね。
―有名になろうという思いは?
あります。目標としては、蜷川実花さんの映画に関われるような人になりたいです。自分の好きな人と仕事ができるようになれたら幸せですね。蜷川実花さんの作品以外でも、映画の衣装の仕事は今後も継続していきたいです。
―リアルクローズではオリジナリティを発揮できないから衣装を作るということでしょうか?
今の時代、オリジナルって言われたら難しいじゃないですか。売れる服は結局シンプルで均一化されたデザインで、オリジナリティを発揮できる部分って少ないのかなって。正直なところそれが怖くてニットをやっているところがあるんです。ニットのハンドメイドで仕上げているため同じものを作っても模倣品になる可能性は低いですから。
―今後もプレタポルテより、オートクチュールなモノ作りを積極的に進めていくということでしょうか?
そうですね。流行や時代の流れに左右される"ファッション"ではなく、より本質的で、より独創的なモノ作りを続けていきたいと思っているので、どうしても衣装の比重が大きくなると思います。私の場合は今を生きる女の子を深く掘り下げることが目的なので、そのツールとしては衣装の方が適していると考えています。
―近々の仕事の予定は?
大森靖子さんがメジャーデビューシングルをリリースするのですが、そのPVの内装や衣装を担当しました。今回は、「マジックミラー号」の中にカオスな部屋を作って、渋谷原宿を徘徊したんですが、動画もかなりクレイジーな内容に仕上がっています。現在は映画「世界の終わりのいずこねこ」の衣装を制作中で、年内か年明けには個展・衣装展の開催も計画しています。
(聞き手:芳之内史也)
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